「そろそろ、アフリカだな……」
 アークエンジェルの現在位置を確認して、ディアッカがイザークに声をかけてくる。
「そうだな」
 イザークも即座に言葉を返す。
 それは、イザーク自身もまた、バルトフェルドとの合流を待ち望んでいるからかもしれない。
 もちろん、それは《キラ》のためだ。
「少しでも早く、あいつを安全な場所へと連れて行かなければならないんだろうが……」
 だが、この時間がもう少し続いてくれても良い、とイザークは思ってしまうのだ。そうすれば、誰に邪魔されることなく寄り添っていられるのだ、と。
「……あれ、か?」
 イザークのためらいの意味を感じ取ったのだろうか。ディアッカが苦笑を浮かべる。
「あれはあれで可愛いと思うぞ。きゃんきゃんほえる子犬みたいで。もっとも、あれとアイシャさん、それにシホがタッグを組んだらどうなるか……は確かに怖いがな」
 絶対、キラの側に《男》を近寄らせないかもしれない、とディアッカはため息をつく。
「まぁ、お前とバルトフェルド隊長、それにマードック氏あたりは大丈夫だろうがな」
 さりげなく彼が付け加えた言葉に、イザークは目を眇める。
「お前、いつの間に……」
「あのおっさん、実力があればコーディネイターだろうとナチュラルだろうと真っ当に評価してくれるぞ。キラが懐いているわけだ」
 ニヤリと笑うディアッカに、それ以上何も言えない。
「そうか……なら、あちらとの橋渡し役もやってくれ」
 自分には無理だ、とさっさと結論を出して、イザークは言葉を口にする。
「そうすれば、キラも喜ぶだろうしな」
 キラに害を及ぼさない、と女性陣に判断されればディアッカも側に行くことを許されるだろう。その方がキラも安心するに決まっている、と思うのだが、決してそれは口に出さない。
「じゃ、がんばるか。整備の連中は、本当に良い奴らだしな。あれなら、キラが守ろうとしたって言うのも納得できる」
 お前も、声をかけてみろ……とディアッカは真顔で口にした。
「そうだな……キラがそれで安心をするというのであれば……検討をしてみてもいいかもしれないな」
 それにイザークはこう言い返す。だが、たぶん近いうちにそうするだろう、という予感はあった。キラのためであれば、そのくらい何と言うことはないだろうと。もっとも、そんな自分の姿をザフトの整備兵達が見れば驚くだろうな、とも思うが。
「キラのためなら、妥協できるってか。本当、純情だな、お前も」
 だから、キラもイザークにひかれているのだろうが、と彼は笑う。その態度にちょっと引っかかるものはあるが、それでも素直に納得しておくことにした。
「ただ、バルトフェルド隊に合流したときに、あいつも押しかけてくるかもしれない、って心配はあるんだよな」
 不意に口調を変えると、ディアッカがこう言ってくる。
「……あれか……」
 その瞬間、イザークは思いきり顔をしかめた。
「あぁ。隊長の命令を振りきってでも来るだろうな。だから、厄介なんだが……」
 それが誰かなどと確認しなくてもわかってしまう。そして、間違いなくあれならそうするだろうと言うことも想像が出来てしまった。
 それがキラのためになるのであれば、いくらでもあれの存在を妥協するだろう。だが、あれはまったく考えを変えようとはしていない。それがキラにとってマイナスになるのは目に見えていた。
「それは……考えられる状況だな……あの人に相談しておくか」
 アイシャであれば、あるいは良い方法を考えてくれるのではないか。それでなければ、バルトフェルドを通じて対処してくれるだろう。
「それこそ、女性陣にがんばって貰わなければならないだろうな」
 あるいは、本国にいる母やラクスにも手を回して貰わなければならないかもしれない、とイザークは心の中で付け加える。
「どちらにしても、無事に合流を果たしてからか。それまでは……いや、その後も絶対にキラを守りきるだけだな、俺は」
 それが最低限の自分の義務だ。イザークはこう呟く。
「がんばってくれ」
 手助けをしてやるからさ、というディアッカの言葉だけは信頼できるだろう。そう考えながら、イザークは頷いて見せた。

 キラ達のために、最高のコーヒーを用意しておいてやろう。そう考えたバルトフェルドがいつものようにブレンドに精を出していた。
 その脇では、フレイが彼に頼まれた作業をしている。それは、ここがある意味一番安全な場所であるからだ。ついでに、バルトフェルド自身が、この新しい《娘》との時間を楽しんでいたからでもある。
「もう少しで、キラ達と合流できますよね?」
「その予定だね」
 フレイの言葉に、彼が頷く。
「……隊長!」
 その瞬間だ。言葉と共にダコスタが飛び込んでくる。
「どうかしたのかね?」
 騒々しい、と言いながらバルトフェルドが彼に視線を向けた。きっと、いつものように『まじめに仕事をしろ』と言いに来たのだと判断したのだ。
 だが、彼の表情はバルトフェルドの予想していたものではない。完全に焦りきっているとわかるものだ。
「足つきが、地球軍の艦隊に発見されたそうです。モラシム隊と共に防戦をしているそうですが……」
 数の多さだけではない理由で何処まで持ちこたえられるかわからない、と連絡が来たのだ、と彼は付け加える。
 それが事実だとするのであれば、黙っているわけにはいかない。
「……確か、本部からディンが回されてきていたね?」
 先日、バクゥの代わりに、と輸送されてきたそれを、レセップスに積み込んだ記憶がある。そう考えながらバルトフェルドはダコスタに問いかけた。
「……お使いになるのでしたら、用意は出来ています。他にも数名、志願しているものがおります」
 全員が、それなりにディンを使える者たちだ、と彼は付け加える。
「そうか。なら、彼らにも付き合って貰おう。君はレセップスを全速力で目的地に移動させてくれ」
 そういえば、ダコスタは心得たというように頷き返す。
「お義父さん……」
 そのまま歩き出そうとしたバルトフェルドの耳に、フレイの不安そうな声が届いた。
「心配はいらないよ。ちゃんと彼らを連れてくる。君は安心して、ここで待っていなさい」
 そんな彼女に、バルトフェルドは優しい笑みを向ける。
「キラ君には彼らが付いている。だから、そう簡単にやられるわけはない。それに、僕たちも直ぐに行くからね」
 だから、大丈夫だ。こう付け加えれば、フレイは小さく頷いてみせる。
「必ず、みんな無事に戻ってきてくださいね」
 そして、彼女はこう口にした。
「任せておきなさい」
 そんなフレイの髪をバルトフェルドは優しく撫でてやる。そして、今度こそ彼は足早に部屋を後にした。


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合流をすんなりとさせるとつまらない……というわけではありませんが、次回からまた戦闘シーンです(T_T)
バルトフェルドさん、イザークの役回りをさらっていかないでね、と呟いてしまうのは、私が彼らも大好きだからでしょう(^_^;