モニターからフレイ達の姿が消えたところで、キラは小さく息を吐く。それは、久々に目の当たりにしたフレイの激しい気性に安堵したからかもしれない。 「本当、変わらないな、あいつも」 どうやら同じ感情を抱いたのだろうか。イザークが苦笑と共にキラの体を抱き上げた。そして、そのままシートに腰を下ろす。当然、キラの体は彼の膝の上だ。 「でも、フレイはあれでいいと思います」 その方が彼女らしいから、とキラは微笑む。 「だな。あれが大人しくなっては逆に怖い」 イザークが同意を示してくれたことが嬉しくて、キラは小さな笑い声をあげる。そうすれば、イザークは微かに口元を和らげた。 「と言うところでだな」 そのまま彼がキラに唇を寄せようとしたところで、脇から声が飛んでくる。 「あっ……」 ようやく、周囲にフラガ達がいることを思い出したのだろう。キラは慌ててイザークの膝から飛び降りようとする。だが、それをイザークが止める。 「かまわん。どうせ、イスが足りないんだ。それなら、ここにいろ」 この言葉は正しいのだろうか。キラは思わず助けを求めるように周囲を見回してしまう。 「イスが足りないのは事実だけど……そこまで牽制しなくても大丈夫だと思うわよ、イザーク君」 苦笑と共に声をかけてきたのはラミアスだ。 「牽制?」 その意味がわからずに、キラは小首をかしげてしまう。 「もしくは威嚇だな。他の連中がキラに手を出さないように、って」 フラガがそんなキラに答えを教えてくれる。 「ムウさん?」 だが、逆にキラの疑問は深まってしまう。どうして、イザークが自分を膝に乗せていれば威嚇になるのだろうか。そんなことを考えながら、キラは視線をイザークに戻す。そうすれば、意味ありげに微笑む表情が見える。 「……イザークさん?」 本当にどうしたのだろうか、とキラは思う。 「だからだな。君がそんな可愛らしい表情を見せるから、バカなことを考える奴が出てきそうなのだよ。それを、彼が君は自分のものだ、と宣言して牽制しているわけだ」 さすがに見ていて可哀相だ、と判断したのか。それともこのままでは話が進まないと思ったのか。バジルールが丁寧に教えてくれる。 「そうなんですか?」 だって、とキラは小さく呟く。自分が男だった頃を知っている者たちがそんなことを考えるとは思っても見なかったのだ。 「……まぁ、キラは男だった頃から可愛かったからな。男だという歯止めがなくなったことで血迷うバカがいる可能性は否定しない」 そう言うときは、自分かマードック達の所へ逃げてこい、とフラガが笑いながら告げる。それにキラが感謝の言葉を口にしかけたときだ。 「その貴方が、一番信用できないのよね」 アイシャがため息と共にこう告げる。 「それはどういう意味だ? アイシャ・デイビス」 憮然とした口調でフラガがアイシャに問いかけた。次の瞬間、彼女の唇が綺麗な弧を描く。 「本当に言って欲しい? 貴方の過去の悪行を」 キラだけではなくラミアスにまで愛想を尽かされるかもしれないぞ、と彼女は付け加えた。 「……お願いします……やめてください……」 この言葉に、フラガはあっさりと白旗を揚げる。 「やはり、彼女が最強だな……」 イザークが呟いた言葉に、キラは反射的に頷いてしまった。 「……お前、何見てんだ?」 いつもは眠っているはずのシャニが、何かを一心に眺めている様子に気づいて、クロトが問いかけてくる。だが、言葉が返ってこない。もっとも、それはいつものことなので気にするつもりもなかったが。 「写真?」 肩越しに彼の手元を覗き込めば、生真面目そうな表情をした端正な容貌の少年がこちらを見つめている。それが写真だとわかっていても、彼の瞳は印象的に思えてならない。 「……どうしたんだ、それ……」 いや、本当に聞きたいことはそれではない。 それは誰なのか、というのが正しいのだ。だが、それを口に出来ないのは、写真の脇に押されたスタンプのせいだろうか。 M.I.A その言葉の意味を知らないわけではない。だが、とも思うのだ。なら、その相手の写真をシャニが持っているのか。新たな疑問が湧き上がる。 「おっさんがくれた」 その時だ。クロトの耳にこんなセリフが届く。 「おっさん?」 それが誰のことか確認しなくてもわかる。自分たちの命を握っている相手だ。もっとも、今更どうした、という事柄でもある。 「目標だって」 さらに付け加えられた言葉に、クロトは二重の意味で驚く。 シャニが一言以上口にするのは本当にまれだと言っていい。 そして、これがおっさんことアズラエルが欲しがっている《人形》なのか、と。 パーセンテージからいけば後者の方がさらに強かった、というのは事実だ。どう考えても、目の前の相手が戦場にいたとは思えないのだ。 だが、すぐに考え直す。 これがそうだとするのであれば、自分たちのように人工的に作られた存在だと言っていい。処理が生まれる前に行われたか、それとも生まれてから行われたかの違いなのだ。だから、見た目だけで判断してはいけないのだ、とも。 「……これ、欲しいな……」 そうすれば、自分たちはもっと強くなれるのだろうか、とシャニはさらに呟く。そうすれば、もっと楽しいだろうと。 「でも、どこに隠れているのかわからないんだぞ」 だから、自分たちはあれらをつついているのだが。 しかし、それが嫌なわけではない。目の前でてきのMSが四散していく光景ははっきり言って快感だ。だが、それ以上に目の前の写真の相手はクロトの興味をひく。 「まぁ、あれらを全部たたきつぶせば出てくるだろうけどな」 こう付け加えれば、シャニが満足そうな笑みを浮かべる。 「なら、また行く?」 少しでも早くこれを手に入れたい、とシャニは問いかけてきた。 「それこそ、おっさんの許可がないと無理だろう?」 そういえば、オルガはどうしただろうかとクロトは思う。室内にいないのだ。 「……おっさんに呼び出された」 その仕草でクロトが何を気にしているのか察したのだろう。シャニがこう呟く。 「なら、また次の出撃かな」 にやり、とクロトは笑う。たくさん、MSを落とせば、ご褒美にこれをねだれるかもしれない。そう思ったのだ。 「……早く、出てこないかな、これ」 クロトの耳に、シャニのこんなセリフが届く。 「それだけは同意」 ニヤリと笑うと、オルガはまたシャニの手の中にある写真を覗き込んだ。 イザークは間違いなく故意犯でしょう。キラは……天然ですね。 しかし、ついつい出しちゃいましたよ。三バカのうちの二人です。最後の一人もそのうち。と言うわけで、さらに泥沼決定です(^_^; |