「おっ? キラも休憩か?」 食堂の入口に姿を現した彼女に、ディアッカが気軽に声をかける。 「ディアッカさんも、ですか?」 ふわりと微笑みながら、キラがこう聞き返してきた。その表情に、ディアッカは目を細める。そして最近のキラは本当にいい表情をするようになったな、と心の中で付け加えた。 「まぁな」 言葉を返しながら、ディアッカはキラを手招く。そうすれば、彼女は素直に歩み寄ってきた。 「で? シホの奴は?」 今は一人か、と言いながら、ディアッカは腰を上げる。そして、彼女のためにイスをひいてやった。それにキラは困ったような表情を作る。さすがに、まだこんな扱いをされるのには慣れていないだろう。 「シホさんは、先ほどアイシャさんに呼び止められていました……」 この言葉に、どこか恐怖が滲んでいるような気がするのは、ディアッカの錯覚だろうか。 「……そういえば、そろそろあの人のムシがうずく頃か」 今までまじめに仕事をしてきたからなぁ、とキラの不安の原因にディアッカは気づく。 「お前も、かなり体調が良いようだしな」 だから、みんな安心しているのだろう、とディアッカは微笑む。 「それ、嬉しくないです」 キラが瞳を潤ませながらこう言い返してきた。 「まぁ、そう言っていられるのも、俺達が無事に航行できているからだろうって」 な、とディアッカは慌ててキラを慰め始める。 「それよりも、ドリンクは何がいい?」 貰ってきてやるぞ、とわざとらしく話題を変えた。もちろん、そのあからさまな様子にキラだってわかったはずだ。だが、それでも彼女はそれを追及してこようとはしない。 「……なら、出来れば冷たいものを……」 「なら、ジュースあたりか……言えばわかるか?」 自分ならコーヒーかスポーツドリンク、と言うところだろう。イザークはどちらかと言えばコーヒーよりも紅茶の方が好みらしい。キラの場合は、外見通り甘いものか、と彼は勝手に納得をした。 「と、思います」 それにキラはまじめに頷き返す。 「了解。じゃ、ちょっと待ってな」 今貰ってきてやるよ、と言い残すと、ディアッカは厨房のカウンターへと向かう。そうすれば、ディアッカが口を開くよりも先に中からフレッシュジュースと軽いデザートが乗せられたお盆が出てきた。 「これなら、大丈夫だと思うから」 もってってやりな、と元からこの艦に乗り込んでいたクルーが笑う。 「宇宙にいた頃から、これなら口にしてくれたし」 そう付け加えられた言葉から、ディアッカは彼がそのころからキラを気にかけてくれたのだ、と知る。 「了解」 ありがとうな、といいながらお盆を持ち上げた。そのままきびすを返す前に、お盆の上にコーヒーが入ったカップが新たに乗せられる。 「それはお前さんの分な」 キラに付き合ってやれ、と彼は笑う。 「サンキュ」 あるいは、一人だとこれすらも食べられなかったのか。ディアッカがそんなことを思いながらも、彼に礼を言った。そうすれば、気にするなと言うように手を振って厨房の奧へと戻っていく。 それを視線の端で確認しながら、ディアッカもまたキラの所へと戻った。 「これがおすすめだとさ」 言葉をかけながら持ってきたお盆をテーブルの上に乗せる。 「ありがとうございます」 次の瞬間、キラはふわりと微笑む。それに、ディアッカもまた笑い返してやった。 「忌々しいったらないな、本当に」 乱暴な手つきでパイロットスーツを脱ぎ捨てながらアスランが口にする。 「そうですね。まさか、あそこまで動けるとは……キラさんがお作りになったストライクのOSが基本になっているにしても……信じられません」 エンデュミオンの鷹にあわせて調整されていたそれを使いこなせる、と言うことは、最低限、彼と同じだけの実力を持っていると言っていいのだろう。 だが、とニコルは心の中で呟く。 それにしては戦い方がおかしいような気がしてならない。 むしろ、彼と言うよりはイザークに戦い方が似ているような気がするのだ。 「……あるいは、何か特別な処置を施されているのか……」 噂にだけは聞いたことがある。地球軍の一部――と言うよりはブルーコスモスだろうか――が人体実験を行っていると。ひょっとして、その結果があの三機のパイロットなのだろうか。 「まさか、と言いきれないのが厄介だな」 同じ噂をアスランも耳にしていたのだろうか。ニコルの呟きに頷き返している。 「そしてそうだとするのであれば、さらにあのレベルのパイロットが増えると言うことか」 だとすれば、厄介だというレベルではない。 「でも、それを一般の方々はご存じないのですよね?」 ならば、それを逆手に取ることは出来ないだろうか、とニコルは考える。その事実を使って、ブルーコスモスに対する信頼感や共感を打ち砕けば、あるいは、とも思うのだ。 そのためには、ザフトだけではダメだろう。 ナチュラルにも声を上げて貰わなければならない。 「……ニコル?」 ニコルが何を言いたいのか、今ひとつ理解できないのだろう。アスランが眉を寄せながら彼の名を口にした。 「オーブを、何とかしてこちら側に引き込みたいですね」 でなければ、もっと違う誰か……と考えたときだった。ニコルの脳裏にある人物の姿が思い浮かぶ。 「……ナチュラルを守ろうとしたコーディネイター……」 そう、キラだ。 彼女の言葉であれば、あるいは……ニコルはそう思う。しかし、同時にそれは諸刃の剣であると。自分たちと同じ事がブルーコスモスにも言えるのだ。 「キラがどうかしたのか?」 アスランの言葉に刺が含まれる。 「……キラさんの利用価値、をまた新たに見つけてしまった、と言うことですよ。もちろん、プラント側にはその意図は少ないかと思いますが……ブルーコスモスであれば気にしないだろうと」 というより、無理矢理にでも利用するだろう。ニコルはそう判断をする。 「……ますますキラを奴らの手には渡せなくなったな」 「そうですね」 今はまだ、彼らの居場所はばれていない。だから、と思う。連中がそれを掴む前に、せめて一機だけでも落としておきたい。ニコルは初めて自分から積極的に戦うことを考えていた。 ディアッカはいいお兄ちゃんですね。しかも、キラにだけではなくイザークに対しても、でしょう、彼のことだから。こちらはほのぼの。それに対して、アスラン達は…… |