「残念でしたねぇ……あれらを確保できれば、あるいはあれの居場所がわかったかもしれませんのに」
 あるいは、行きそうな場所も……とわざとらしいため息をアズラエルはついて見せた。
「でも、戦闘データーが取れただけでも良いことにしましょうか」
 解析をして、他の機体にも組み込んでおいてください、と彼は付け加える。
「それと……そうですね。地球に降りてからアークエンジェルが立ち寄った場所に人を配置しておいてくださいね」
 あるいは、その中のどこかに姿を現すかもしれない、とアズラエルはサザーランドに告げた。
「そう、思われた理由を、お聞きしてもかまいませんか?」
 でなければ、人員を割くことは出来ない、と彼は言外に付け加える。その事実にアズラエルは盛大に眉を寄せた。
「本当に貴方は……こういう人が上層部にいたからこそ、地球軍はあいつらに勝てなかったわけですね」
 これなら、まだ、ハルバートンの方が使えたかもしれません、と再びアズラエルはため息をつく。
「考えてもご覧なさい。あれは生きていた。つまり、どこかで連中があれを逃がした、と言うことでしょう? まぁ、JOSH―Aに連れてくればころされたかもしれない、という判断は正しかったのでしょうが」
 もっとも、許せることではないが……とアズラエルはさりげなく付け加えた。
「その後、あれがザフトの機体と一緒に姿を現したところから判断して、プラントに渡ったのでしょうね」
 と言うことは、それ関係の施設がある場所でしょうか、と首をひねる。
「なら、連中がその《誰か》を頼っていくかもしれないでしょ?」
 そこで捕まえる方が効率的ではないか。
 何故自分がここまで丁寧に説明してやらなければならないのか、と思いつつ、アズラエルは言葉を重ねた。
「わかりましたか?」
 最後にだめ押しのように問いかければ、サザーランドは首を縦に振ってみせる。
「なら、早々に手配をしてくださいね」
 でなければ、巣ごと誰かの手に落ちてしまいますから……と告げるとアズラエルはサザーランドから視線を外した。
「そうそう。彼らの様子はどうですか?」
 手元にある端末を操作するとこう問いかける。
『肉体的には、特に異常はありません。ただ、薬が切れる時間に微妙に誤差が出ているようです。現在、その理由を解明中です』
「そうですか。では、出来るだけ早くお願いしますね。目標が見つかる前に使い物になるようにしておいてください」
 そうすれば、先ほどの連中が邪魔しに来ても大丈夫だろう、とアズラエルは笑う。
「あれらには、せいぜいヒナを守っていて貰いましょう」
 そして、再びナチュラルへの信頼感を育てて貰えばいい。そうすれば、連れ戻したときにも大人しく言うことを聞くだろう。
 だから、わざと彼らを逃したのだから。
 アズラエルの口の中だけで呟かれた言葉は、誰の耳にも届かなかった。

「……まさか、ここまで用意万端で来られるとは思わなかったな」
 苦笑と共にディアッカが軍服の襟を止める。それは、彼らが身にまとうべき《紅》だった。しかし、ここでそれを身にまとうことが出来るとは思わなかった、というのもまた事実である。
「気遣いには、感謝するしかないだろう」
 でなければ、地球軍の支給品を身にまとわなければならないのだから、とイザークは苦笑を浮かべる。それぐらいなら、裸でいたほうがいい、とまで考えていたことは内緒だ。
「それに、キラに比べればまだましだろうよ」
 もっとも、それで誤魔化される相手ではないこともイザークは知っている。だから、早々に話題を変えることにした。
「確かに……医療装置の次に場所を占めていたのが、キラ用の着替えって言うのは、笑っていいのか悪いのか……」
 正確に言えば、シホのものもあるらしいのだが、彼女の性格では自分たちと同じように軍服以外身にまとわないだろう、と思う。もっとも、それを耳にしていたのだろうか。シホ用のものはアンダーかあるいは動きやすいものがメインのようであったが。
「あとは、無事にアフリカまで辿り着くだけだが……」
 それが一番難しいだろう、と付け加えられなくてもわかる。
「だが、幸か不幸か、この艦にはMSが四機、あるからな。キラに操縦はさせられないが、ハーネンフースがそれなりに動かせる、と言っていたしな」
 あるいは、シホにデュエルを使わせて、自分がフリーダムを使ってもいいだろう、とイザークは考える。基本的に、シホはキラの側にいて貰わなければならないのだ。そして、フリーダムの性能は、使わないでいるには惜しい。デュエルに愛着がないわけではないが、キラを守るためならばかまわない、と思える程度のものだし、と。
「……それで、キラが無理をしなければいいんだがな。あいつのことだ。ストライクのOSに手を出すに決まっているぞ」
 フラガが彼女を守る、と言った。
 そんな彼を、キラが守りたいと思わないわけがないのだ。そして、キラは彼に自分たちと同等の信頼感を抱いていることも知っている。
「その点は、ハーネンフースとアイシャさんが何とかするだろう。後、マードックとかという整備主任も信頼できそうだしな」
 先ほどチェックをしたデュエルの整備は、ほぼ万全だったと言っていい。そして、バスターも同様なのだ。さすがにフリーダムには触れさせられなかったが、彼はそれに関して苦情を言うことはない。そういう、ある意味職人然とした所も、イザークに好印象を与えていた。
「配置については、相談をすればいいだけだしな。アイシャさんが連れてきてくれた者たちのおかげで、かなり楽になりそうだし……」
 パイロットの人数が増えたおかげで、逃げ延びられる確率が高まった、とディアッカは笑う。
「そう言うことだ。行くぞ」
 着替えも終わったし、とイザークはそんな彼に視線を向ける。
「了解。あれこれ煮詰めておかねぇとな」
 キラのことに関しては最優先で決定したが、それ以外についてはまだ話し合わなければならないことが多い。そしてそれは早いに越したことはないのだ。
「と言っても、今頃、アイシャさんが終わらせている可能性も否定できないけどな」
 彼女の有能さを初めて見た、と言っていいかもしれない。ディアッカは笑みに苦いものを含ませながらこう呟く。
「バルトフェルド隊長の愛人、というだけじゃなかったんだな」
 もっとも、そういう相手に隊の事に口出しをさせるような相手ではない、ということは知っていたのだが、実は疑っていたというのも本音だ。
 しかし、こうして実際に彼女が中心になって動いているのを見れば違うとわかる。それどころか、本当に有能な存在だったと。
「パイロットしても有能だって言うしさ。人は見かけに寄らないって事だよな」
 あんなに美人でスタイルがいいって言うのに……とディアッカもため息をつきながらぼやく。
「まぁ、美人と言えば、この艦の艦長さんも副長さんも、それぞれタイプが違って美人だけどな」
 まさか、それで戦意昂揚しているわけじゃないだろうけど、と付け加える彼に、イザークは頭が痛くなっている。
「そう言うことしか考えられんのか、貴様は」
「だって、そうじゃねぇ? 考えてみれば、フレイだって美人の部類にはいるだろうし……キラに関しては言わずもがな、じゃねぇか」
 こんな楽しみでもなければ、やってられねぇし……とディアッカは呟く。つまり、それが彼なりの気分転換の方法だ、と言うことなのか。だとしたら、むげに怒鳴るのはやめておいた方が良いのかもしれない。
「……そういうことは、フラガ氏がくわしそうだ。後で、暇を見て話しかけてみるんだな」
 だが、自分は付き合いたくない、とイザークは言外に告げる。それくらいであれば、キラの様子を見に行きたいのが本音だ。
「あ、そうだよな。うん、そうさせて貰おう」
 ついでに、整備陣とも親交を深めておくか、とディアッカは頷く。
「任せる。俺やハーネンフースでは無理そうだからな、そちらに関しては」
 あるいは、キラと一緒にいるから、シホは大丈夫かもしれないが、とイザークは心の中で呟いた。
「いいんでねぇ? お前はお前のお姫様のことだけを考えておきなって」
 他のことは俺達がフォローするから、とディアッカも笑ってくる。そんな彼の肩をイザークは軽く叩いた。


INDEXNEXT

ディアッカは本当、フラガやマードックと気が合いそうです。イザークは……まぁ、それはそれで(苦笑)嫌われないでしょう、キラに対する態度さえ見ていられれば。