「……こいつら……」 いったいどのような機能が、あれらの機体には付けられているのだろうか。目の前の機体の動きにアスランは眉を寄せる。 はっきり言って、その中の一機が一番厄介だと言っていい。命中するはずのビームが全て湾曲してしまうのだ。 『アスラン!』 その上、自分たちの機体はそろそろバッテリーの残量が危ない。下手をすれば帰還もままならないのではないだろうか。そう考えると、忌々しいが結論は一つしかないだろう。 「ニコル! 撤退するぞ!」 アスランは彼にこう叫ぶように告げた。そして、返事を待つことなく、イージスをMA形態へと変形させる。 その背後で、爆発が起きた。 『アスラン、大丈夫ですか?』 ニコルの言葉から推測すれば、きっと、彼が敵の攻撃を防いでくれたのだろう。 「あぁ、大丈夫だ。ニコルこそ、これから衝撃があると思うが、気を付けてくれ」 そう言わなくても、彼も覚悟しているだろう。だが、注意をしておくにこしたことはない。そう判断をして、アスランは彼に声をかけた。 『わかりました』」 お任せします、とニコルも即答してくれる。 それならば、遠慮はいらないな……と思いながら、アスランは一気にブリッツへとイージスを寄せる。そして、そのまま、クロウでその機体をホールドした。 「加速するぞ!」 そのまま、一息に最高速度までアスランはイージスを加速させる。その瞬間、全身にかかってくる巨大なGが、関節をぎしぎしと言わせていた。 だが、訓練された肉体は、その状況にもかかわらず冷静な判断力と操縦を失わせない――もっとも、それができなければ地球上でのMSの操縦は不可能だと言っていいのだが――そして、アスランもニコルも、ザフトでは《エリート》と呼ばれる存在だ。その程度出来なくてどうなると言う自負もある。 しかし、だ。 「気に入らないな、あれは……」 ようやく、連中が追ってこないと判断できたところで、アスランはため息と共にこう呟く。はっきり言って、あの動きはとても《ナチュラル》とは思えなかったのだ。 あのエンデュミオンの鷹が現在パイロットを務めている――そのOSはキラが彼に合わせてカスタムしたものだろう――も、確かに自分たちに引けを取らない動きを見せた。 状況認識に冠しては、自分たちよりも優れているだろう。だが、それでも微妙な反射速度等に差が感じられたことは否めない。それを補えるだけの実力を持っている相手に、それなりの敬意を示してもいいか、とアスランですら思わせたのだ。 だが、先ほどまでの相手は違う。 どのようなシステムを使っているのかはわからないが、反射速度や状況認識はアスラン達にも引けを取らない。 そして、あの機体がそんなパイロットの才能を十二分に発揮させている。 「あんなものを、さらに投入されれば……ただではすまないぞ……」 自分たちがナチュラルよりも優れていたとしても、それと同等の才能を持った者――あるいは、その差を埋められるような機体――ばかりを戦場に投入されては、絶対数が少ない自分たちが不利だ。アスランはそう思う。 『今回のデーターを提出して、対策を考えて頂く必要はあるでしょうね』 ニコルがこう声をかけてくる。 「そうだな」 だが、それは、もう二度と自分たちに《キラ捜索》の許可は下りないだろうと言うことでもある。そう考えれば、忌々しいとしか言い切れないアスランだった。 「それでは……」 ラミアス達の言葉を耳にして、キラはうれしさ半分、困惑半分と言った表情を作った。 「キラ君、そういう表情をしないの。これは、私達が決めたことだわ」 地球軍から離脱をし、バルトフェルドの元へ向かう、という選択は……とラミアスがきっぱりと言い切る。 「他の連中も、そこまでは付き合ってくれるそうだ。その後は……出来るなら、オーブにでも潜り込みたいと思っている者もいるようだけどな」 もっとも、俺達はその場にとどまることになるだろうが、と付け加えたのはフラガだ。 「……でも……」 どうやら、彼らの決断を知らなかったのは自分だけらしい。イザーク達の様子からキラはそう判断をする。だが、本当にいいのだろうか、とも思うのだ。 第一、バルトフェルドがそれを認めるのかどうか、と言う問題もあるのに、と。 もちろん、彼のことだ。苦笑混じりにOKを出してくれるだろうという考えもキラにはある。 「大丈夫よ、キラちゃん。だから、私達が来たのでしょ?」 そんなキラの考えを肯定するかのように、アイシャが口を挟んできた。 「今頃、アンディがそのために走り回っているわ。だから、大丈夫」 それが楽しみなようだから、と彼女はキラの思考がマイナス方向へ進まないようにと言葉を重ねる。 「……アイシャさん……」 それでも、キラは『本当にいいのか』と思うのだ。 「たまにはね。アンディにも仕事をして貰わないと、ダコスタ君達がすねるでしょ?」 だから、いいのよ、とアイシャは笑う。 「それに、フレイちゃんもみんなに会いたいって言うに決まっているでしょう」 アイシャの口から、懐かしい友人の名を出されて、キラは思わず頷いてしまった。次の瞬間、しまったと思ってもそれは後の祭りだろう。 「と言うことだから、部屋を用意しましょう? キラ君は、シホさんと同室の方が良いのかしら? それとも、アイシャさん? どちらにしても、近くに全員分の部屋は確保できると思うわ」 部屋数だけは余っているから、とラミアスがどこか自嘲気味に口にする。 「そうね……シホちゃんと一緒の方が良いわよね? 私は、たぶん、ばたばたすると思うから」 そうすればキラの精神が休まらない可能性がある、とアイシャは付け加えながら、シホを見つめた。 「私も、そうして頂ければ安心なのですが」 任務も遂行できますし、とシホは生真面目な口調で頷く。 「もっとも、キラさんさえよろしければ、の話ですが」 どうされますか? と言う問いかけに、キラは一瞬悩む。 アイシャと一緒でもかまわないのだが、そうなれば、毎朝着せ替えを繰り返されることになる。だが、シホが一緒では彼女が休めないのではないか、とも思うのだ。 「僕は……一人でも大丈夫だと……」 「それだけは却下だ。なんなら、私か艦長でもかまわないのだが、それでは、彼女が納得をしないだろうしな」 バジルールがこう口を挟んでくる。だけならまだしも、 「それとも俺にするか? よく一緒に寝ていたしな」 などとフラガまでが参戦をしてきた。 「……少佐……」 だから、どうして誤解を招くようなセリフを、とキラは思わずにはいられない。 「本当に、その性格は変わっていないようね、ムウ・ラ・フラガ」 「セクハラで、独房に入られますか?」 「……軍規だと銃殺刑よね。良かったわね、ムウ。さっさと離脱を決めて」 年長の女性陣が即座に彼を睨み付ける。 「……あれが、本当にエンデュミオンの鷹、なのですか?」 信じられない、と言うようにシホがとこっそりと問いかけてきた。それにキラは頷く。 「有能な人は、どこか常識からずれているもんなんだって……バルトフェルドさんも、そうだから、信憑性があるかも……」 ね、とキラはイザーク達に問いかけてしまう。それに彼らは苦笑で答えを返してくる。 「だから、ハーネンフースで妥協しておけ。同室は」 それが一番無難だ、というイザークにディアッカも頷いて見せた。 「そうだな。そうすれば、常にお前にくっついている人間がいて、俺達としても安心できる」 彼らにこう言われては、キラとしても考えないわけにはいかない。 「それに、彼女が一緒であれば、デッキだろうとどこだろうと、自由に動いてかまわんと思うぞ」 さらにこう言葉を重ねられてはなおさらだ。 「わかりました……」 だから、キラも決断をくだしたのだった。 と言うわけで、アークエンジェルはアフリカめがけて移動をすることに。 ある意味、キラの不幸の始まりかも(^_^; |