「ようやく、見つかったようね」
 くすりと笑いながら、アイシャは通信機に手を伸ばす。
「そこに、セクハラの鷹はいるかしら」
 そして苦笑混じりにこう告げる。相手がフラガであれば、これだけで自分が誰かわかるはずなのだ。
『そのセリフは、貴様か! アイシャ・デイビス!』
 予想通りというかなんというか。即座にフラガの声が返ってきた。それだけではない。
『アイシャさん? まさか、サハラから、ですか?』
 イザークのものとおぼしき声が後に続いた。その事実に、アイシャは満足そうな笑みを口元に刻む。
「やはりいたわね。と言うことは、キラちゃんは無事、と言う事かしら?」
 でなければ、彼がフラガと共に通信を受け取れる場所にいるとは思われない。そう判断してのセリフだ。
『えぇ……多少疲労感は残っているようですが、とりあえずは発熱等の症状は見られません。ただ、出来れば、医師の診察を受けさせたいのですが……』
 さすがに、この艦では無理だ……とイザークは付け加える。
「そう思って、連れてきたわ。着艦を許可してくれる?」
 出来るだけ早く、と彼女は苦笑混じりに口にした。
「さすがに、これの燃料もそろそろまずいのよね」
 ここから、最寄りのザフト基地までぎりぎりたどり着く程度の分は残っているが、想定外の事態になればまずい、と。
『お前なぁ……』
 呆れたようなフラガの声が通信機からこぼれ落ちる。
「仕方ないでしょ。自分よりもキラちゃんの方が心配だったんだもの。それより、許可、くれるかしら?」
 他の連中に気づかれる前に、とアイシャはさらに付け加えた。
『了解。ただし、侵入角度がきついぞ?』
 大丈夫か、とフラガが問いかけてくる。
「誰に言っているわけ? 腕は落ちていないわよ」
 むっとしたような口調でアイシャはフラガにい返す。
「だから、さっさと着艦用のデーターを寄越しなさい!」
 でなければ、無理矢理突っ込む、と彼女は付け加える。
『本当、変わってないよな、鬼姫は』
 ほめているのか、呆れているのかわからない口調でフラガが呟く。それでも、その後にはすぐに、必要と思われるデーターが送られてきた。
『気を付けろよ。はっきり言って、狭いからな』
 MSを四機も収納しているから、とフラガは続ける。
「わかっているわヨ。慣れているから、心配しないの。ネ」
 任せておきなさい、といいながら、アイシャは即座に進入角度を計算した。そして、そのまま、機体を移動させるとアークエンジェルへのアプローチを開始する。
 彼女が乗った機体は、滑らかな動きでアークエンジェルへと着艦を果たした。

「……凄いな、改めてみると……」
 モニターに映し出された光景に、アスランは思わずこう呟く。
『そうですね……あの時、キラさんが来てくださらなければ、僕たちもあれに巻き込まれていた、と言うわけですか』
 はっきりと確認できたわけではないが、地球軍の兵士の少なくない者たちがあれに巻き込まれたらしい。そうをしてまで、ザフトにダメージを与えたかったのか、と思えばアスランには呆れるしかできない。
「……で、足つきが最後に確認できた場所だが……」
 何時までもそれを見ていても意味はない。そう判断をして、アスランはニコルにそのデーターを送る。
「ともかく、その場に行ってから、だな。周囲を捜索するのは」
 一応、いくつかアークエンジェルが隠れていそうな場所に見当は付けてきたが……といいながらアスランがイージスの向きを変えた瞬間だった。
『アスラン!』
「わかっている」
 二人が捕捉したのであれば、イージスの不調だ、と言うわけではないだろう。つまり、とアスランは唇を咬む。
「あいつらも、キラ達を探している、と言うわけか……」
 それも、利用するためにならばまだいい。今回のことを恨んで、その存在をなくしようと思っているのであれば最悪だ、と思う。
『どうしますか?』
 戦うか。それとも、一度撤退をするか……とニコルが言外に問いかけてくる。
「相手が、こちらに気づいているかどうか、だな」
 であれば、下手に撤退をすることは危険を呼ぶ行為でもあろう。あちらにしても、自分たちの機体がどのような特性を持っているか、知っているはずなのだ。
 だからといって、迂闊に戦闘を行うわけにもいかない。
 どうするか。
 悩んだが、アスランはすぐに結論を出した。
「……ニコル……」
 撤退をしよう、とアスランが口にしようとする。その瞬間だ。
「何!」
 ビームが二人をめがけて一直線に飛んでくる。
 反射的に、二人は回避行動を取った。
 だが、それぞれに別の位置から攻撃が加えられる。
 と言うことは、三機以上この場にいる、と言うことか。
「ニコル!」
 だが、こうなってしまえば撤退はかなり難しい。
 ある程度、相手の攻撃を受け流しながら引き下がっていくのか、それとも、撃破するか。
 どちらかしか方法がないだろう。
 しかし、とアスランは考える。相手の機体が、先日見た量産機であればそれも可能だろう。だが、どう考えても、あれではこのような攻撃は不可能だ。と言うことは、自分たちがまだ知らない機体が、地球軍の手にはある、と言うことか。
『わかっています! 適時、下がります』
 ニコルはどうやら、前者を選んだらしい。その判断は正しい、とアスランは思う。
「適当にデーターを取ったら、撤退するぞ!」
 いざとなれば、イージスをMA形態にし、ブリッツを確保してこの場を後にすればいい。アスランはそう判断をした。
「お前ら……人の邪魔をしてくれた事を後悔させてやる!」
 せっかく、キラをこの手に抱きしめることが出来そうだったのに。そう呟きながらアスランはうっそりと嗤った。


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アイシャ合流。いや、一度誰かに言わせたかったんです『セクハラの鷹』という呼称は。と言うわけで、アイシャさんに。
アスラン達の邪魔をしてくれたのはあの三人組です。恨まれるぞ、あいつら(爆)