「……シャワーと着替えか……」
 キラの希望を耳にして、イザークは微かにため息をつく。
「そのくらいなら、連中から借りればいいだろうが……」
 問題はシャワールームで倒れないか、と言うことだよな……と心の中で付け加える。
「無理かな? シホさんに言えば、付き合ってもらえると思うんだけど……」
 そんな彼に、キラは小首をかしげながらこう口にした。
「プラントからここに来るまでは、そんなこと、気にならなかったんだけど……やっぱり……」
 汗かいたし、着替えたいかも……とキラは首をすくめながら言葉をつづる。
「気持ちはわからんでもないがな」
 そんなキラのセリフに、イザークは小さく笑いを漏らす。
「どうやら、ラクス嬢達がこぞって、お前に女としての常識をたたき込んだ、と見える」
 それはそれで良いことだがな、と付け加えると、彼はキラの額にキスを落とした。
「イザークさん?」
 だから、シャワーを浴びてきたいのだ、とキラは瞳で彼に訴える。それからにしてくれないか、と。
「俺は気にならないが」
 お前が気にするなら仕方がないな。こう付け加えながら、イザークはキラの体を抱き上げる。
「……イザークさん、ってば!」
 何を、とキラは彼の腕の中で目を丸くした。だが、彼の腕の中から逃れようとはしない。むしろ甘えるように、彼の首に腕を絡めている。
 これが無意識の仕草だから怖いのだ、とイザークは心の中で呟く。
 フレイの話だと、気を許した相手にはこうして甘えたがるのがキラらしい。それを教えて貰わなければ、誘われていると勘違いしたかもしれない、とイザークは心の中でため息をついた。だが、キラがこんな仕草を見せる相手も限られている、という言葉を聞けば、嬉しくないわけはないが。
「まだ、体調が完全ではないからな。少しでも気を抜けないだろうが」
 ここで倒れても、キラを診察できる医師はいないのだから、とイザークは付け加える。
「……ごめんなさい……」
「だから、謝るな。少なくとも、俺には」
 好きでやっていることだ、と付け加えながら、イザークはキラを抱えたまま通路へと出た。
「キラ君、気がついたの?」
 そうすれば、キラの様子を確認しに来たらしいラミアスが、二人に声をかけてくる。
「あぁ。とりあえず異常はなさそうだ」
 だから、心配しなくていい、とイザークがキラより先に答えを返した。
「なら、いいのだけど……では、どこに?」
 まだ休んでいた方が良いだろうと彼女は微笑む。そして、そうっとキラの額に手を添えてきた。
「……シャワーを浴びたいので……すみません、勝手なことを」
 許可も取らずに、とキラはイザークの腕の中で首をすくめる。
「そのくらい、別にかまわないわよ。でも、それなら、私の部屋でもかまわなかったのに?」
 艦長室には一通りの設備がそろっているのだ、と彼女は問いかけてきた。
「一人でシャワールームに行かせるのが不安だからな。下に、護衛として付いてきたパイロットがいる。彼女と一緒に、と思っただけだ」
 イザークもまたこう付け加える。
「というと、パイロット控え室のシャワールームね。わかったわ。適当に着替えを見繕って持っていって貰うわ、ナタルに」
 ついでに、見張りもして貰いましょう……と笑いながら彼女が口にした言葉の意味を、キラだけはわかった。
「……俺が覗くとでも? まぁ、ディアッカならやりかねんかもしれんが」
 だが、彼に関しては自分が見張っているとイザークは微かに眉を寄せながら付け加える。
「じゃないの。この艦に、困った奴がいるのよ……ね、キラ君?」
「……はい……」
 ラミアスが言いたいのが誰のことなのか、キラにはよくわかっているらしい。しっかりと頷いている。しかも、その表情から推測すればかなり厄介な相手でもあるようだ。
「なら、お言葉に甘えます」
 バジルールであれば、大丈夫なのだろう。そう判断して、イザークはこう口にする。その瞬間、キラがほっとしたような表情を作ったのがわかった。

 もっとも、フラガがそうしたいと希望しても、状況がそれを許してくれなかったらしい。
「……坊主達。どっちでもいいから、ちょっとブリッジまで付き合ってくれ」
 キラにはシホが付いている。だから、自分は側にいなくても大丈夫だろう。そう判断をしたイザークが、マードックが整備をしてくれたデュエルをチェックしていたときだ。フラガのこんなセリフが彼の耳に届く。
「何か?」
 ハッチから身を乗り出しながら、イザークが聞き返せば、
「ザフトのものらしい識別信号を拾ったんだが、俺達では判別も対処も出来ないからな」
 このままでは攻撃をされてもおかしくはない、と彼は言葉を返してくる。
「わかりました。今行きます」
 このままでは、この艦を自分たちが接収した、と言っても信用してもらえないだろう。それはイザークにもわかっている。元々のクルーが、平気で歩き回っているのだから。
 ならば、自分が応対をした方が良いだろう、と彼は判断をする。
 念のために、デュエルのOSをロックすると、そのままコクピットから滑り出す。そうすれば、ディアッカも彼の側に歩み寄ってくるのが見えた。
「まぁ、適当に誤魔化して……追い返すしかないだろうな」
 人手が足りないから、応援を連れてきて欲しい。だが、現在、デッキが故障しているために着艦は出来ない、と付け加えれば、一時的にでも時間は稼げるだろう。その間に対策を考えればいいか、とディアッカが気軽な口調で告げてくる。
「そうだな。それが、一番無難か……もっとも、相手があいつらでなければ、の話だが」
 イザークはこういうと眉を寄せる。
 相手がアスランやニコルであれば、そんな二人の言い分に耳を貸すわけがないのだ。もっとも、二人であれば、それぞれの機体で来るに決まっているが。
「それを判断して、だな」
 いざとなれば、ニコルを抱き込んでしまえばいい、とイザークは判断をする。そのためであれば、自分のプライドの一つや二つ、簡単に捨ててやる、とも。
「……それがイージスやブリッツであれば、違うと思うが……もっとも、ブリッツがミラージュコロイドを展開しているようであれば、こちらでは捕捉できないが……」
 だが、識別信号を出している以上、それはないだろうとフラガは付け加えた。
「……ただ、それこそニコルがいるという可能性は否定できないからな」
 ともかく、相手を確認してからにしよう、とイザークは口にする。
「で、キラ達には?」
 言付けておかないと、心配するぞ、とディアッカが今思いついたというように呟く。
「あぁ、その心配はいらん。ナタルに連絡が言っているはずだ」
 だから、彼女が説明をするだろう、とフラガは彼らに告げる。
「ならいいが……」
 先ほど会った彼女の様子では、それは心配いらないだろう、イザークも思う。だから、それ以上は何も言わずにフラガについて歩き出した。


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ラブラブと言っても、キラの場合、ほとんど無意識だから厄介だ、と言うことで(苦笑)
次回でようやく合流かな。