「……本当は、君の顔なんて見たくないんだけどね……」 モニターに映った相手に渋面を隠すことなくバルトフェルドは言い放つ。 『そう言われましても、今回の件では我々が協力をした方がよい、と思うのですが?』 彼女のためには……と相手――クルーゼが口にする。その口元に浮かべられた薄ら笑いがいやなのだ、と叫びたくなるのを、バルトフェルドは必死に堪えた。 「そうおっしゃる理由をお聞きしてかまいませんかな?」 目の前の男が、なんの見返りもなく自分に協力をするはずがない。バルトフェルドはそう考えていた。 『多くの兵士を守ってくれた存在を、無事な場所へと向かわせたい……と思うだけではいけませんかな?』 そんな彼の心情もわかっているはずだ。だが、相手はあくまでもこう言って笑っているだけである。 『それに……本国からの指示も来ておりますしね。我々が保護するよりも、あなた方の方が、彼女のためになる、と』 さらに付け加えられた言葉に、バルトフェルドはさらに渋面を作った。 おそらく、ラクスあたりが手を回してくれたのだとはわかる。しかし、それを相手が迷惑に思っているのかもしれない、と考えられるのだ。 だが、キラを無事にここに呼び寄せることが出来るなら、気に入らない相手でも妥協するしかないか、とも思うのだ。 「まぁ、そう言うことにしておきましょう」 それでも、まだ他に理由がありそうだ……と考えてしまうのは仕方がないことだろう。 『第一、今、彼女とともにいるのは、私の部下ですしね』 そして、地球でのキラの保護者はバルトフェルドだ、とクルーゼは告げる。だから、自分に協力を求めてきたのだ、と。 「……イザーク君とディアッカ君からの連絡は?」 バルトフェルドは意識を切り替えるとこう問いかける。 『残念ながら、ありませんな。困ったことに、あの区域は現在、サイクロプスの影響で、電波状況が悪い。そのせいだ、と思うのですが』 それに、Nジャマーの影響もある、という彼の言葉は納得できるものだ。実際、バルトフェルドもアイシャ達との連絡を取れないでいる。 「そうですか。そちらならあるいは、と思っていたのですがね」 一言ぐらいイヤミを言いたくなるのは、今までの関係からすれば仕方がないことだろう。相手もそれをわかっているのか、苦笑を浮かべるだけだ。 「ともかく、ご協力をいただけるのでしたら、こまめに情報をいただきたいものですな」 これだけは明言しておかなければいけない、とバルトフェルドは口にする。 『もちろんですよ』 どこまで信用できるだろうか。そう思うが、今は信じるしかないと思うバルトフェルドだった。 「……やはり、それしかねぇだろうな……」 マリュー達の言葉を耳にして、フラガも頷く。 「あの男なら、まぁ、俺達が転がり込んでも笑って終わりだろうしさ」 キラのためなら、自分たちでも平然と受け入れてくれるだろう。そして、必要があればそれなりの処遇を斡旋してくれそうだし、とフラガはことさら明るい口調を作って告げた。 「フラガ少佐……」 「そういう問題ではないと思うのですが……」 それに対し、他の二人は頭を抱えてしまう。 「お気楽に考えるしかないだろう? もっとも、反対したい連中がいても、当分下ろしてやれないんだが……」 そんなことをすれば、最悪、地球軍に掴まる可能性がある。そうすれば、絶対、追撃されるに決まっているのだ。 「ザフトに関しては……彼らがいてくれれば、何とかなる可能性がありますしね」 キラのためなら、無条件で協力をしてくれるだろう。 でなければ、今の自分たちがこうしてゆっくりと結論を出すまでの間待っていてくれるはずがないのだ。 「そういえば……キラ・ヤマトは気がついたのでしょうか」 かなり時間は経っているが、とバジルールが呟く。 「……まだだったら、マジで急がないとな」 少しでも早く、キラをコーディネイターの医師に診せるために、とフラガが呟けば、他の二人も頷いてみせる。 「……じゃ、様子を見に行くついでに、他の連中にもこの結果を知らせて歩くか……」 協力してくれない連中に関しては、悪いが監禁させて貰おう、と彼は呟く。 「仕方がありませんね……ですが、航行に支障が出ないような人数が残ってくれればいいのですが……」 「心配いらないでしょ。少なくとも、ブリッジの連中が残ってさえくれれば、何とでも出来るんだし」 もちろんその場合は、非常事態には対処できなくなるが、とフラガは微かに眉を上げた。 「整備の連中は、間違いなく最後まで付き合ってくれるだろうからさ。そんときは、俺が何とかするって」 だから、二人は心配しなくてもいい、と笑う。 「いえ。最終的に決断を下すのは艦長である私です。ですから、私も……」 「今から肩に力を入れっぱなしだと、途中でダウンするぞ」 だから、今は自分に任せておけ、とフラガはラミアスの肩を叩く。そしてそのままブリーフィングルームを後にした。 ザフトの高速飛行艇を使って、アイシャ達はJOSH―Aの近くまで来ていた。 「……ずいぶんとまた、思いきったことをしてくれたものネ」 大地に大きく空いた穴を見つめながら、アイシャが呆れたように呟く。 「そうですね……彼女が忠告のために降りてきてくれなければ……今頃、全員があそこで死んでいたわけですね」 アイシャの隣に座っていた兵士が眉を寄せながら言葉を吐き出した。 「実は……あの作戦には弟が参加していたのです。彼女のおかげで、命を拾いました。他にもそういうものが多くいます」 だから、今度は自分たちがキラを助けるのだ、と彼は付け加える。 「そうネ」 もっとも、それがなくても自分は彼女を守るだろう、とアイシャは心の中で呟く。ようやく、キラは生きるための希望をつかみかけていたのだから、と。彼女に、全てを諦めきったような表情を再びさせないためにも、がんばらなければいけないのだ。 「しかし、この周囲にはザフトはもちろん、地球軍の艦艇の陰もありませんね。連中にも罪悪感はあるのでしょうか」 そんなアイシャの気持ちを知っているのかいないのか。彼はこんなセリフを口にする。 「わからないわ。でも、アークエンジェルはこの周囲にいるはずよ。そうね。半径百キロ以内の地図データーをくれる?」 隠れていそうな場所をそれから割り出そうと、アイシャは彼に告げた。 アークエンジェル級の艦艇が隠れられそうな場所はそう多くはない。 そして、自分はフラガ達の思考をそれなりに理解している。 だから、他の連中よりも有利だ、といえるだろう。 「それと……一応、うちの識別信号を出しておいてね。彼らであれば、理解してくれるかもしれないわ」 そうすれば、声をかけてくれるだろうとも思う。 キラが体の不調を訴えていればなおさらだ。自分たちが医師を連れてきたと彼らは判断するに決まっているのだ。 「了解です。ですが、出来るだけ出力を絞って、ですね?」 地球軍に察知されないように、と彼はアイシャに笑いかける。 「正解」 その察しの良さが大好きよ、とアイシャもまた笑い返した。 大人組のそれぞれの決断と行動ですが……やはり、不気味ですね、仮面。 今回は、悪役ではない……はずです、はい(^_^; |