「アスラン、どこに行くのですか!」 ニコルの声が背後から飛んでくる。 「……どこにって、決まっているだろう?」 イザーク達の捜索だ、とアスランは振り向くことなく言葉を返す。 「許可は取った」 だから、邪魔をしないで欲しい……とアスランは付け加える。 もちろん、正確に言えば探し出したいのは《キラ》だけだ。その身柄さえ確保できたら、他の者たちなんてどうなってもいいと思う。だが、その気持ちを口に出すことははばかられる、と言う事もわかっていた。 そんなアスランの態度をどう判断したのだろうか。 「邪魔はしませんが……僕もご一緒します」 ニコルは即座にこう言ってくる。 「一人で探すよりも、二人の方が確実でしょう?」 違いますか? と付け加えられては、アスランも『嫌だ』とは言えない。 いや、ニコルまで敵に回すのはまずい、と言うべきか。 「わかった。ただ、時間がない」 「すぐに用意をします」 だから待っていてください、とニコルは口にするとそのまま駆け出していく。 その後ろ姿を見つめながら、アスランは状況の厳しさに歯がゆさすら感じていた。 イザークには腐れ縁のディアッカだけではなく、バルトフェルドと言うある意味、非の打ち所がない味方が付いている。そして、ラクス達本国にいる者たちも『キラが望んでいるから』という理由でやはりイザークの味方なのだ。 だからといって、諦めるつもりは全くない。キラはあくまでも自分のもので、今の状態は間違っている、とアスランは信じているからだ。 きっと、キラは、女になってしまったときの衝撃で、藁にもすがりつきたい気持ちだったに決まっている。 その時側にいたのがイザークだったから、キラはそれが《恋》だと誤解してしまったのだ、と。 そして、周囲の者たちもみな、それが正しいのだ、と教え込んでしまったのだ。 「だから、あいつらから切り離さないと……」 そして、自分だけがキラを見つめられる場所で、静かに静養させればいい。そうすれば、いくらキラでも、自分が間違っていたと認識できるだろう。 「ともかく、キラの身柄を確保するのが最優先だな」 キラの優秀さと今回の一件で兵士達に与えた影響。それらは、さすがの上層部でも無視できないほどのものだったらしい。 実際、他の者たちの間でもキラの存在はラクス並みのアイドルとして受け止められている。それは、今後のことを考えれば良いことなのかもしれないが、頭が痛い問題でもある、とアスランはため息をつく。 それ以上に問題なのが、自分たちの上司だった。 「隊長が、何を考えておられるのか……」 それがわからない。 少なくとも、キラを害しようと思っていないことだけはわかる。だが、と不安になるのだ。 「隊長の動きに、注意を払っておく必要がある、かな?」 彼の動き次第で、自分の計画は全て瓦解に帰す可能性すらあるのだから。 アスランが小さくため息をついたときだ。 「アスラン、すみません!」 言葉とともにニコルが駆け寄ってくる。その腕にはアスランが手にしているものと同じ装備が抱えられていた。 「いや」 気にしなくていい、とアスランは微笑む。そして、全ての考えを一時的に意識から切り離した。 今しなければならない、ただ一つのことを残して。 「じゃ、行こうか」 こう口にすると、アスランは再び歩き出した。 瞳を開けた瞬間、キラの視界に飛び込んできたのは、何者にも汚すことが出来ない白銀だった。 それを身にまとっている人物を、キラは二人知っている。 だが、同時に《紅》を身にまとっている人間は一人しかいなかった。 「……イザーク?」 しかし、彼がどうしてある意味、見覚えがあるこの場所にいるのだろうか。それとも、自分はまだ寝ぼけているのか、と思いながらキラは彼の名を口にした。 その声が彼に届いたのだろう。イザークがキラへと視線を向けた。その瞬間、光に透けた淡い水色の瞳に、キラは一瞬、どきりとしてしまう。 「気がついたようだな」 キラの顔を覗き込むと、彼はこう言って微笑む。 「本国から地球にあれで来るなど、無謀なんて言うものじゃないぞ?」 わかっているのか、と付け加えながら、イザークはそうっとキラの額に手を触れる。そして、ほっとしたような表情を作った。 「どうやら、熱はないようだな。気持ちは悪くないか?」 そして、優しくこう問いかけてくる。 「はい……あの……」 今の彼になら問いかけても迷惑ではないだろうか。そう思いながらキラは言葉を口にしようとした。 「なんだ?」 指先を額からキラの髪へと滑らせながら、イザークは微笑む。 「ここは、アークエンジェルですよね?」 どうして、とキラは瞳で問いかける。 「お前が警告を出した後に倒れた、というのと、あいつらがふらふらと航行をしていたからな。こっそりと乗せて貰っただけだ」 もっとも、連中の判断次第では、すぐにでも降りなければならないだろう、とイザークは付け加えた。つまり、彼の様子からすれば全員無事だ、と言うことなのだろう。そう判断して、キラはほっと安堵のため息をつく。 「キラ?」 出来るなら、他のみんなの顔も見たい、と思いながらキラはゆっくりと体を起こす。だが、自分の体を支えることが出来ずに、ふらりと体が揺らめいてしまった。その体をイザークは片腕で軽々と支える。 「お前は……」 「……ごめんなさい……」 イザークの呆れたような声に、キラは慌てて謝罪の言葉を口にする。 「すぐに謝らなくてもいい。それに、他の連中に会いたいなら、すぐに呼び出してやる」 だから、心配するな……と笑いながら、イザークはキラの頭をそうっと自分の肩へと引き寄せた。 「だが、少しこうしていろ」 自分だって、こうして触れられるのは久しぶりなんだから……とどこか照れたような口調でイザークは口にする。 そんな彼に、キラは小さく頷くことで同意を示した。 そのまま、キラは小さな吐息と共に瞳を閉じる。そんな彼女の髪を、イザークの指が何時までも愛しげに撫でていた。 本格的に、アスランが動き出しました。 しかし、あの二人は本当にラブラブ……と言っていい状況ですよね。幸せそうだなぁ、イザーク。 |