パタパタという足音が響いてきた。そして、しばらく待てば、予想通りの人物が室内に飛び込んでくる。
「キラが、地球に戻ってきているって……本当なんですか?」
 前置きもなにもなくこう問いかけてくるのは、彼女が誰よりもキラを大切にしているからだろう。
「そういう話だよ、ラクス様の話だと」
 そして、それらしい話も耳に届いている、とバルトフェルドは彼女に告げた。だが、その後の話を告げていいだろうか、と一瞬悩む。
「今、何処に?」
 だが、いずれ耳にはいるだろう、とも思う。ならば、自分が伝えるのが一番いいのかもしれない。バルトフェルドはそう判断をした。
「わからない」
 そして、はっきりとこう告げる。
「わからないって……どういう事なんですか?」
 予想通りというかなんというか。フレイが食ってかかってきた。
「あのあと、あの子が乗ったらしい機体がロストしたそうだ。最後に確認されたときには、デュエルとバスターが側にいたらしい。ただ、かなりの混乱状態だったのでね」
 集結したときには、その三機はいなかったのだ、とバルトフェルドは告げる。
「デュエルとバスターって……あの二人、ですよね?」
 その言葉をどう受け止めたのか。フレイの態度が微妙に変化をした。
「あぁ。イザーク君とディアッカ君だよ」
 それがどうかしたのかな、とバルトフェルドはフレイに笑みを向ける。
「なら、キラは大丈夫ですね……」
 この言葉は確認ではなく確信。
 しかも、フレイの表情には明確な安堵の色が伺える。
「どうして、そういえるのかな?」
 その理由を教えて欲しい、とバルトフェルドは彼女に問いかけた。
「あの銀髪がいて、キラを殺させるわけがないわ。そんなことをするくらいなら、自分がキラの身代わりに死にそうだもの。でも、あの男が死んだら、キラもショックで死にかねないでしょ……そして、あの二人をあの色黒が見殺しにするわけないわ」
 だから、三機が同時に行方不明になったのであれば、それは生きていることと同意語だ、とフレイは言い切る。
「それに……」
「それに?」
「あそこには、アークエンジェルもいたのでしょう?」
 違いますか、という彼女の言葉に、バルトフェルドは小さな笑みを漏らす。誰から聞いたわけでもなく、彼女自身がその答えを見出したのだろう。
「……喜ばしい、と言ってはいけないのだがな」
 むしろ、そんな洞察力はない方が良いのにと口の中だけで付け加える。
「しかし、どうしてそう結論を出したのかな?」
「だって、アークエンジェルの目的地はアラスカだったし……キラが無茶をしてまで地球に戻ってくる理由が、それしか思い浮かばなかったんだもの」
 だから、とフレイは真っ直ぐにバルトフェルドを見つめてきた。
 彼女の考えは、間違っていないだろう。いや、そうだからこそ、連中はあそこを作戦の地に選んだに決まっている。そして、そうなるように根回しをしていたのだ。
「おそらく、奴らもそう判断したのだろうね。だから、彼らは姿を隠した。そして、我々としては、そんな彼らをフォローしなければならないと思うんだよ」
 無理をして戻ってきただろう少女。そして、そんな彼女を守るために全てを捨ててもかまわないと思っている者たち。その者たちを守るのが自分の役目だろうとバルトフェルドは判断をしていた。
「そう言うわけだから、君は、何時、キラ君が戻ってきても言いように準備をしていてくれるかな? 彼と一緒に」
 任せてもかまわないね、と問いかけえば、フレイはしっかりと頷いてみせる。
「もちろんです……でも、あまり無理をしないでくださいね?」
 アンディさんも、とフレイは先ほどまでの勢いが嘘のように口にした。
「自分のせいで、貴方が無理をされた、と知れば、キラは悲しむに決まっているし……私も心配ですから……」
 微かにはにかむようにして、フレイはこう告げる。その言葉が重ねられるうちにバルトフェルドの頬に笑みが浮かぶ。
「もちろんだよ。だから、君も無理をしないようにな」
 その表情のままこう言えば、フレイはわかったというように首を縦に振る。
「お邪魔しました」
 この一言を残すと、入ってきたときのように駆け出していく。
「いい子だな、あの子も」
 後ろ姿を見送りながら、バルトフェルドはこう呟いた。
「だから、無茶をしないように側で見守っていて欲しいんだけどね、僕としては」
 君に、といいながら、視線をずらす。そうすれば、パーティーションの陰からアイシャが姿を現す。その全身を、パイロットスーツが包み込んでいた。
「それなら、貴方でも十分でしょ?」
 にっこりと微笑みながら、彼女はこう言い返してくる。
「それに、貴方が動けないんだもの。私が動くのが当然じゃない」
 違う? と赤い唇が問いかけの言葉をつづった。
「何処が当然なのかね。君の方がまずい、と思うんだが?」
 地球軍に見つかれば、と彼は付け加える。そうなれば、脱走兵として処罰されるのではないか、と。
「見つかれば、でしょ? 私がそんなミスをすると思う?」
 この言葉は自信にあふれていた。そして、そんな彼女の表情が実に魅力的だ、とも思う。
「それに、あの子にしてみれば、知った顔が迎えに行った方が良いと考えるとは思わないの?」
 人見知りをする子だし、とアイシャは付け加える。そのせいで気を遣えば、キラの体に悪影響が出るに決まっているだろう、と彼女は主張するのだ。
「どうせ、僕が止めても勝手に行くつもりだろう、君は」
 そんな彼女を止められるか、というとかなり疑問だろう。いや、そもそも止めるつもりがない、と言うべきか。実際、現在自由に動けるとすれば、彼女だけなのだ。
「それで君を失うのは耐え難いしね。知り合いには声をかけておく。便宜をはかってくれるだろう」
 だから、無事に帰ってきて欲しい、とバルトフェルドは正直な気持ちを口にした。
「もちろんよ。あの子を悲しませるつもりも、貴方をがっかりさせるつもりもないわ」
 信用して、とアイシャはさらに笑みを深める。
「では、ちょっと行ってくるわね」
 そこに買い物に行ってくるような気軽さで、彼女はきびすを返す。
「本当に、うちの女性陣は」
 みんな強いね、とバルトフェルドは笑う。そして、新たな命令を出すために端末に手を伸ばした。


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久々の砂漠組。と言うことで、彼らも再登場です。しかし、アイシャさん……格好良いぞ。と言うわけで、彼女が一番先にキラ達に合流するはず(^_^;