艦長室のベッドの上でキラが小さな寝息を立てている。
 別段、医務室でも空いている士官室でもよかったのだ。
 それでも、万が一のことを考えれば目を離すことが出来ない。そう主張をするイザークに、ラミアス達も同意を示した、というだけである。
「……その話が真実だ、とするのであれば……誰もが、そいつらの目的通りの行動を取ってしまった、と言うことか」
 その結果、キラがここにいるのだとすれば……とイザークは唇を咬む。
「ともかく、それで命を拾った連中が多いなら、感謝するべきだろうし、少しでも早くキラを安全な場所へと移すしかないのだろうが……」
 ザフトでも迂闊なところにはおけない、と言うのが実情だ。もちろん、このままここに置いておくことは出来ない、というのも事実であるが。
「……で? あんたらはどうするわけ?」
 黙りこくってしまったイザークの代わり、と言うようにディアッカが口を開く。
「少なくとも、俺らと敵対する気はないんだろうが……地球軍に戻るのか?」
 彼らの立場を考えれば、それが普通なのだろう。だが、とも思うのだ。彼らが地球軍に戻れば、またキラをおびき出すための餌にされるのではないか、という不安がある。
 そうだとわかっていても、彼らを見捨てられないのもキラだ。
 ならば、いっそ、このまま捕縛してザフトに連れて行くのもいいかもしれない、とまで考えてしまう。
「そうすべきなのはわかっていても、気が進まないのは、どうしてなのかしらね」
 ラミアスが深いため息と共にこう口にする。
「我々を……上層部がただの道具扱いにしかしていなかった、とわかったからでしょうか」
 バジルールですら、こんなセリフを口にした。
「だが、キラが地球に降りてきた、と言うことは、先ほどの一件でばれた、と見るべきだろうな」
 そして、自分たちと合流した可能性を、連中は否定していないだろう……ともフラガは付け加える。
「それに関しては、そいつらが責任持ってくれるだろうが……俺達はどうするか、腹をくくらないといけないって事だ」
 戻る戻らないを含めて……とため息をつく。
「と言っても、追いかけられるのは必定だからな。迂闊なところには逃げ込めないって事は目に見えているが」
 自分だけならどうとでもなるが、他の者までは守るのは難しいから……と彼は正直な気持ちを口にする。そんな彼の態度は、いつ見ても好ましいと思える、とイザークは感じていた。
「……オーブに逃げ込めば、カガリ嬢ちゃんが何とかしてくれるとは思うが……それをあてにするわけにはいかないか」
 まして、オーブを戦いに巻き込むわけにはいかない、という考えには誰もが同意を示す。
「となると、選択肢は一つしかありませんね……」
 しかし、それはすぐには認められないことではある、ともラミアスは頭を抱える。いや、他の者たちも同じ事だ。誰であろうと、先日まで銃口を向け会っていた相手に投降をするのは難しいだろう。
 イザークにしても、ディアッカにしても、その後のことを考えれば、迂闊に勧めるわけにはいかない。
「バルトフェルド隊長くらい、本国に影響力を持ってれば……あんたらの安全も確約できるんだがな……」
 自分たちでは、キラを守るだけで精一杯だ。それも、親の権力をあてにして……とディアッカが悔しそうに呟く。
「それだけでも、十分だ……と言わなければならないのだろうがな……」
 自分たちにとって、一番優先すべき事がそれだったのだから……とバジルールが口にした。その時だ。
「んっ……」
 イザークの手の下でキラが小さく身じろぐ。
「起きたのか?」
 優しく声をかければ、菫色の瞳がまぶたの隙間から現れる。そして、周囲を確認するように彷徨っていた。
「……ラミアス艦長と少佐と中尉がいる……」
 どうして、と付け加えられた言葉から判断して、まだ完全に意識が覚醒しているわけではないだろう。イザークはそう判断をした。
「それに、イザークさんも……」
 どうして、とその唇がつづる。
「まだ寝ていろ」
 いい子だから……と優しい声でイザークが告げれば、キラは小さく頷いて見せた。
「僕……夢、見ているんだよね……」
 そして、キラはこう呟く。
「でなきゃ、みんなが一緒にいるわけないもんね……」
 本当は……と続けられた言葉は、再び眠りの中に吸い込まれていく。その目尻に光ものを見つけて、イザークは微かに眉を寄せた。そして、そうっと指先でそれを払ってやる。
「キラの希望は、どう考えてもお前らの安全のようだからな。どういう結論を出すにしても、出来る限りのことはしてやる」
 自分の力の及ぶ範囲で……とイザークは口にした。
「……少し、考えさせてくれる? どうするのが一番いいのか、というのは個人的にはわかっているの。でも……」
 指揮官としてそれが正しいのかわからない、とラミアスが呟く。
「わかっている。どうせ、キラはまだ目覚めないようだしな」
 それまでに結論を出してくれればいい。イザークのこの言葉に、ディアッカも頷いていた。

「……どうやら、あれはねらい通り、地球に降りてきたようですね……」
 言葉と共に、アズラエルはゆっくりと立ち上がった。
「ですが、行方が……」
 それにサザーランドが言葉を返す。
「ヒナが行く場所なんて、一カ所しかないでしょ? あの様子であれば、巣に帰ったに決まっています」
 アークエンジェルという名の……とアズラエルは微笑む。
「どうやら、あれはおみやげも持ってきてくれたようですし……なら、丁重に出迎えないといけないでしょうね」
 ですから、さっさとアークエンジェルの居場所を特定してください、とアズラエルはサザーランドに命じる。
「それと、あれらはまだまだ利用価値がありますから、出来るだけ壊さないようにね」
 いろいろな意味で、と付け加える言葉の裏に含まれている感情に、当然サザーランドも気づいているだろう。
「了解しました」
 だが、彼にしても連中に対する利用価値を見出しているのだから、お互い様、だろう。そう思いながらアズラエルは部屋から出ようと歩き出した。
「それと、あちらの方は?」
 ふっと思い出した、と言うように足を止めるとこう問いかける。
「数名、ですが、フラガ並みの動きを出来るものがおりました。その者たちには、開発中の試作機を使わせる手配を……もっとも、カラミティタイプだけですが……」
 レイダーとフォビドゥンタイプは、彼らでは扱いきれないようだ、と報告を受けている。サザーランドはそう答えた。
「OSもしくは補助システムさえ何とかなれば、彼らでも十分扱える、と思うのですが」
 こう付け加えられた言葉に、アズラエルは頷く。
「では、やはりヒナを早々に連れ戻さないといけないですね。親鳥も含めて」
 奴らが鳥かごの中に囲ってしまわないうちに……と付け加えると、今度こそ歩き出す。
「蒼き清浄なる世界のために」
 その彼の背中に向けて、サザーランドが敬礼をした。


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ぐるぐると悩んでいるメンバー……このまま、しばらく悩んで貰いましょう。
アズ様は……相変わらずですね(^_^;