戦場を切り裂くかのように、蒼い翼が舞い降りてくる。
『ザフト、地球軍、双方の兵士にお伝えします』
 それが何なのか、と確認する前に耳に届いたのは、この場にふさわしくない柔らかな声。だが、それには緊張と焦りの色が滲んでいた。
「まさか……」
 その声の主が誰なのか。それを確認しなくても、イザークにはわかる。だが、同時にそれはこの場にいるはずのない相手のものだった。
『大至急、JOSH―Aから離れてください! サイクロプスが作動します!』
 そのセリフとともに、デュエルのモニターに、サイクロプスと呼ばれるもののデーターが表示された。それがあの機体から流されたものだ、というのはバカでもわかるだろう。同時に、それが簡単に行えるわけではないことも。
「キラ! お前なのか!」
 イザークは思わずこう叫ぶ。だが、その言葉は相手に届かないのか。
『作動したら、基地から半径十キロは溶鉱炉になります! だから早く!』
 それとも、この言葉をすぐにでも伝えなければならないと思っているのか。
「なんだと……」
 だが、彼女の言葉が真実だとするのであれば、それも仕方がないのか、とイザークは思う。
『イザーク!』
 どうするのか、とディアッカが問いかけてくる。
「……言葉を信じる信じない、どちらにしても……キラの側に行く!」
 あれにキラが乗っているなら……と付け加えると同時に、イザークはグゥルを反転させる。そして、そのままフリーダムへと近づけていった。
『お前らしいよ』
 仕方がない、付き合うか……と言いながら、ディアッカもまたバスターを反転させてきた。
 この場に、アスランとニコルの姿がないのは、あるいは位置の関係だけかもしれない。
 それならばいい、とイザークは思う。どれだけ嫌な相手でも、キラには大切な幼なじみ――もちろん、相手にその気持ちはない――なのだから。
「あいつが諦めれば、一番早いんだがな」
 それは無理だろう、とイザークにもわかっている。かつて《執念深い》と他人から言われていたのは自分だが、実はアスランの方が一度執着した相手にはしつこいのではないだろうか。そうとまで思える。
「ともかく、今はキラの安全の方が優先だな」
 一体ここまでどうやってきたのか。それを考えれば、はっきり言って怖い。
 少しでも早く、医師に診せなければならない状況でなければいいのだが……と思いつつ、イザークはデュエルをフリーダムの側へと寄せた。
『ザフトの方々、大至急、撤退してください。それが最高評議会の命令です』
 その間にも、キラの言葉は続いている。だが、最初ほどの力が感じられなくなっているのは気のせいだろうか。
『イザーク!』
「わかっている!」
 キラの言葉が嘘ではない、とモニターに表示されたデーターが告げている。それを確認したのだろう。ザフト側は撤退をはじめた。
 いや、ザフトだけではない。
 地球軍側も次々と海域を離脱していく。
『よかった……間に合って……』
 それを確認したのだろう。キラの呟きがイザークの耳に届いた。それにイザークも安堵のため息を作ろうか、としたときだ。
『キラさん!』
 何処か聞き覚えがあるような声がイザークの耳を叩く。
「キラ! どうしたんだ!」
 だが、それを確認するよりも先に、キラのことを……とイザークは叫ぶ。
『気を、失われました……現在、フリーダムは私が操縦をしておりますので、墜落する可能性は低いと思いますが……ですが、少しでも早く、キラさんを休める場所へ……』
 お連れしたい、と柔らかなアルトが言葉を返してくる。
「だが……」
 この場にキラを連れていっても安全な場所があるだろうか。そう思いながらイザークが周囲を見回したときだ。
『足つきがいるぜ……どうやら、エンデュミオンの鷹は、まだ、あれに乗っているようだな』
 ディアッカの声が一つの答えをしさしてくれる。
「ならいい……あれを、接収するぞ」
 そうすれば、キラのとの約束も果たせるだろう。イザークはそう判断をすると、残りの二人に従うよう、合図を出した。

「今の声は……」
 スピーカーから響き渡った声。
 その内容もさることながら、その声がアークエンジェルのクルー達に衝撃を与えた。
『キラ、だな……間違いなく』
 それに追い打ちをかけるかのようにフラガがこう告げる。
 彼がそういうのであれば、間違いなく、あの白い機体乗り込んでいるのは《キラ・ヤマト》だ、と言うことになる。
「そこまで、回復してくれたのでしょうか」
 体が、とラミアスは小さな声で呟く。ならば、彼らに預けたのは間違いではなかったのではないか。そう思える。
 その脳裏に、自分たちが巻き込んでしまった少年の、柔らかな――だが、何処か寂しげな――微笑みが浮かぶ。
「しかし、何故、あれに乗り込んでいるのでしょうか」
 ふっと、バジルールがこう呟く。
「まさか……」
「キラ君に限って、それはあり得ないのではないですか?」
 そうなのだとすれば、ザフトだけ撤退をさせれば良いだけのこと。しかし、彼女は地球軍にも避難を勧告してくれた。だから、とラミアスは思うのだ。
『俺も艦長に賛成だな』
 フラガもまたラミアスに同意を示してくる。
『キラであれば、俺達の危険を知れば何を置いても駆けつけてくるに決まっている。ただ、そのせいであいつの体に悪影響を出ているとか、あるいは立場がまずくなるとか、なっていなきゃいいんだが……』
 ザフトの様子を見れば、その可能性は低いかもしれない、と彼が付け加えたことで、誰もが胸をなで下ろす。しかし、キラの体調は……と思ったときだ。
「ザフトのMSが接近してきます! デュエルです!」
 パルの声が全員の耳に届く。
「何?」
 一体何故、とバジルールが確認を求めている。
「後、二機……バスターと例のMSも一緒です!」
 この言葉に、ますますブリッジ内は驚愕に包まれた。
『少佐!』
 ラミアスがフラガに意見を求めようとしたときだ。
『この艦を接収する……軍医はいるか?』
 キラのものではないが、聞き覚えがある声が彼らの耳を打つ。
『……キラが倒れた……』
 だから、休ませて欲しい。そう付け加えられた声は密やかなものだった。


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と言うわけで、キラとイザークの再会?
ついでに、フラガ達も合流できた……と言うことで良いのかな?