「そうですか……とりあえず、それなりに使えるのでしたら、組み込んじゃってください」
 ストライクのOSの解析結果を耳にして、彼はあっさりとこう口にする。
「それと……そうですね。エンデュミオンの鷹、でしたか。彼と同レベルだと思えるパイロットに優先的に試作機を回してください。それと……彼らにもね」
 そう言いながら、彼が視線を向けた先に小さなモニターがある。
「彼らの存在が、ナチュラルにとっても一つの到達点でしょ。成功すれば、コーディネイターの存在は必要なくなる」
 そう世間に知らしめるには十分だろうと彼は付け加えた。
「もっとも、その土壌を作るには何年もかかりますからね。その間、あれらを有効活用する必要はあるでしょうね。忌々しいですけど」
 だが、それでも自分たちに従順なものであるのならば妥協しても良い。彼はそう呟く。そうすることで、自分たちに利益が得られるのであれば、かまわない。そう割り切ってしまう彼は、間違いなく軍人ではないのだろう。
「……で? あれについての情報は?」
 そこまで考えたところで、彼は側に控えている男――地球軍では大佐の地位にある――を冷たいまなざしで見つめた。
「……残念ですが、ご報告出来るようなことは何も……」
 本当に彼らは死んだのではないか、と男は言葉を返す。
「アナタ、本当に使えませんね」
 そんな男に彼はわざとらしいため息共にこう告げる。
「あれらのうち、ナチュラルの子供に関しては現在オーブにいることが確認できているんですよ? もちろん、こちらの書類上はMIAですけどね。と言うことは肝心のあれも何処かで生きている、と言う事でしょ?」
 違います? と付け加えれば、男は信じられないと言うように目を丸くした。
「まぁ、彼らの気持ちも……理解したくはありませんが理解できますね。ボク達に渡せば、あれがどうなるか、想像が付いたのでしょ。もっとも、ボクがたとえ人形とは言え、有能で従順なものなら手元に置いておくと言うことまでは想像できなかったのでしょうが」
 そして、それは正しいのだ、と彼は思う。そうでなければ、自分たちの理念を具現化するなんてできないのだから。
「……アズラエルさま……」
 男が初めて彼の名を口にした。本来であれば、まだまだ隠しておかなければならないものだが、それだけ驚愕が大きかったのだろうと彼――アズラエルはは妥協する。
「たぶん、ボク達の手の届かないところで小鳥は隠れている。なら、出てこなければならないように仕向けるまでです」
 お仕置きはそれからでも十分だろう。そして従順になるようにしつけるのだ、とアズラエルは笑った。
「そう言うことですのでね。出来るだけ早く準備を整えてください。あぁ、あれらもまだまだ使い道がありますからね。殺さないようにはしてくださいよ」
 あいつらはどうなっても、かまわないが。
 アズラエルは言葉と共にさらに笑いを深めた。

「……見つけた……」
 ようやく、欲しかったもののうちの一つが見つかった。
 その事実にキラの口元にうっすらと微笑みが浮かぶ。だが、それはすぐにかき消された。その代わりに浮かんだのは嫌悪の色。
「何で、地球軍の本拠地の奥底に、こんなものが……」
 存在しているのだろうか、とキラは思う。
 これがまだ、自爆装置のたぐいであれば認めたくはないが理解できるのだ。機密を敵方に渡さないためには必要なものであろうから、と。
 だが、キラが見つけてしまったものは違う。
 サイクロプス。
 それは、巨大な殺戮兵器だ。
 しかも、核を除けば一番被害が大きくなるのではないか、と推測することが出来る。
 そのようなものを使うような機会というのは一体どのような場合なのだろうか。
「それよりも……これを使うには、その範囲内に敵がいないとダメなんだよね?」
 基地の防衛だけであれば、オートでも十分可能だ。キラでも、そのためのプログラムを組むことは容易だと言っていい。
 しかし、それだけではダメなのだ。
 基地の周辺で戦う者がいなければ、どんな人間であろうとそれが《罠》だ、とわかるのではないだろうか。
 と言うことはそれを引き留めておく者たちが必要だ、と言うことなのではないだろうか。つまり、捨て駒とならなければならない者がいると言うことだろう。
「イザークさん達が言っていたことが、嘘じゃなかったなんて……」
 認めたくはなかったが、あるいはそうなのかもしれない、とキラは唇を咬む。
 彼らの言葉――地球軍にとって最大の資源は《人間》だ、というそれ。
 フラガ達の存在を知っているからこそ、そんなことはない、と思いたかった。彼らの上官であったハルバートンは、キラがコーディネイターだと知っても、彼女――あの頃はまだ男だった――を解放しようとしてくれたのだし、と。
 だが、目の前に突きつけられた現実はそれを否定しようとしている。
 それとも、そう考えているのは地球軍の一部の者たちだけで、ほとんどの者たちはフラガ達のような考えをしている、と考えていいのだろうか。
 あるいは……とキラは心の中で呟く。
 フラガが最悪のパターンだと言っていたかのように、ブルーコスモスが地球軍の上層部を掌握してしまったのか、と。
「どちらにしても、少佐達が危ない……」
 アークエンジェルはまだ、JOSH―Aにいるのだ。
 そして、彼らが配置換えになったという情報をキラは掴んではいない。
 と言うことは、彼らはまだあそこにいると言うことだろう。
「あそこが、戦場にならないならいいんだ……」
 そうであれば、あれは使われることはない。そして、フラガ達が前線に出ることも、その場でイザーク達と敵対することもないはずだ。
 多くの者たちの命が失われていくことは否定できない。だが、それよりも彼らを優先してしまう自分は卑怯なのだろうか。その答えをキラは見つけ出すことが出来ない。
「ともかく、もう少しくわしく調べないと……」
 しかし、今日はここまでにしておこう、とキラは小さな声で呟く。さすがに、そろそろからだが辛いと訴えだしている。倒れることは、いまできないのだから、と。
「みんな、無事でいて」
 祈るように呟かれた言葉は、間違いなくキラの本心だった。

「ラクス様、お疲れの所申し訳ありませんが、今お時間はよろしいでしょうか?」
 シホの声に、ラクスは背筋を正す。
「どうぞ。開いておりますわ」
 そして、ドアの外にいる彼女に向かって声をかけた。
「失礼致します」
 次の瞬間、言葉と共にシホがドアを開ける。そして、そのまままっすぐにラクスの元へ歩み寄ってきた。柔らかな線を描く私服を着込んでいるものの、彼女のその態度はあくまでも《軍人》のものだった。
「何かありましたか?」
 疲れを感じさせないように気を遣いながら、ラクスは問いかける。そのせいで彼女が相談をためらってはいけない、と思ったのだ。
「キラさんのことなのですが……」
 それでもシホは気づいているのもしれないが、それ以上に重要な事なのだろう。こう口にしてきた。
「キラがどうしました?」
 もっとも、それは自分も同じ事だ。キラのことであれば、何に置いても知らなければいけない、と。
「何かを、こっそりと調べておいでのようなのですが……その内容がわかりません。あるいは、私はまだ信用して頂いていないだけかもしれませんが……」
 悔しさを隠せない、という態度で彼女はこう告げる。
「それは違いますわ。キラの性格をすれば私たちに迷惑をかけたくない、と思っているだけでしょう……出来れば、自分から相談してくれるまで待ちたいところですが……」
 その前に倒れられては仕方がない、とラクスはため息をつく。
「普段の仕事の量を減らして頂きましょう。お願いしてかまいませんか?」
 そして、こう告げる。
「わかりました。その分、もっと親しみを持って頂けるよう、出かける機会を増やさせて頂きます」
 まずは、ケーキの食べ歩きでも……と、シホは苦笑混じりに告げた。
「よろしいですわね。私もご一緒したいわ」
 彼女が一緒であれば、護衛の人間が側にいなくても大丈夫だろう。ラクスはそんなことを考えながら、初めて笑顔を作った。


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アズ様名前が出ました。ついでに、あいつらも(^_^;
本格的に出てくれば、マジで長くなりそうです……でも、出したいよなぁ、三バカ。