ザフト本部ではなく、最高評議会議場の一室だ、ということが事の特殊性を表してる、と考えていいのだろうか。
 そして、自分の目の前にいるのがエザリア・ジュールとアイリーン・カナーバだと言うことがさらにそれを際だたせている。
 普通であれば、穏健派と強硬派が同じ場所にいるとは考えられないのだ。
 だが、それ以上に不可解なのは、自分に与えられた任務だと言っていい。それは、自分でなくても十分つとまるはずだろう、というのがシホの考えだった。
「何故、私が……私が女だから、でしょうか」
 だから、質問を許された瞬間、シホは思わずこう問いかけてしまう。  自分は実力でアカデミーのトップ10を確保したのだ。しかし、女だから……という理由で未だに本国勤務を余儀なくされている。自分よりも実力が劣っている者たちはみな、男だからという理由で既に実戦に出ているのに。そう思うと苦々しい気持ちを隠せない。
「確かに、君が女性だ、ということは選考理由の一つだ」
 エザリアが微かな笑みと共に言い切る。
「私は!」
 その瞬間、シホの中で怒りが爆発をした。無礼を承知で言葉を口にしようとする。
「話は最後まで聞きたまえ、シホ・ハーネンフース」
 だが、それをエザリアが遮った。
 自分を見つめている瞳の奧に、厳しい光を見つけて、シホは唇を咬む。
「申し訳、ありません」
 それでも悔しさが声に表れてしまうのは、シホの経験不足ゆえだろうか。そんな彼女のに向かって、エザリアはほんの少しだけ表情を和らげる。
「それと同等に重要だ、と我々が考えたのは、君がMSのパイロットである、ということだよ」
 それがなければ選出しなかった、とエザリアは付け加えた。
 だが、どうして……とも思うのだ。
 何故、パイロットでなければいけないのか。ただの警護であれば、もっと適任者がいるはずなのだ。それ以上に、自分が警護しろと言われた相手は今、プラント内でも指折りの安全と思われる場所にいるのだ。
「彼女の経歴には、目を通したな?」
 そんな思いがシホの表情にしっかりと表れていたのだろう。エザリアにこう問いかけられた。
「はい。確か、あの……」
 元ヘリオポリスの住人。
 ザフトと地球軍の戦闘に巻き込まれ、そのまま地球軍の戦艦に保護されたのだとか。そして、その艦がバルトフェルド隊の制圧地域に降下した際に、バルトフェルドによって救出された。その時、性別が変化した、と彼女の経歴には書いてあった。
 だが、それだけでは説明がつかないのではないか、とシホは思う。
 そのような例が以前になかったわけではない。だが、その誰にもこのような警護が付けられたことはないのだ。
「……あれには書かれていない部分がある。それが、何より重要であり、同時に最重要機密でもあるのだ。君の口の堅さも、また、選考理由の一つでもあるのだよ」
 つまり、それだけ彼女たちがシホを信頼している、と言うことなのだろう。ここまで説明をされれば、シホとしても納得しないわけにはいかなかった。
「彼女は……元ストライクのパイロットでもある。クルーゼ隊のMSを一人で撃退してきた人物だ」
 小さなため息と共に告げられた言葉は、シホに衝撃を与えた。
 それならば、確かにあの経歴の不自然さも理解できる。だが、それならば何故、プラントが彼女を保護しているのだろうか、とも思う。
 地球軍に協力をしていたのであれば、それは《裏切り者》と同意語ではないか、と。
「といっても、それは彼女の本意だったわけではない。同時に地球軍によって艦内に収容されていた民間人の命を楯に、同胞と戦うことを強要されていたのだよ、彼女は」
 そして、半ば洗脳のようなこともされていたのだ、と。全ては、彼女の才能によるものだ、と付け加える。
 地球軍の艦がクルーゼ隊から逃れることが出来たのも、彼女のプログラミング能力があってのことだ、とエザリアは説明をした。
「ラクス・クラインが、一時期行方不明になった件は知っているな?」
 その後を受けるようにアイリーンが口を開く。
「はい」
 彼女が行方不明になった一件はザフト内でも騒動になったのだ。当然、シホの耳にも届いていた。
「ですが、クルーゼ隊によって無事に救出されたと……」
「それに関しても、我々が故意に秘匿していたことがある。ラクス・クラインをクルーゼ隊に返してくれたのは、彼女なのだよ」
 地球軍の艦に保護されていたラクスを、彼らに利用されないように……と。自分がその後どのような扱いを受けるかわかっていただろうに、危険を冒したのだ、とアイリーンは口にする。
 つまり、彼女がストライクに乗っていたのは、民間人を守るためだった。
 地球に降りてからは、その危険が少なくなったために逃げ出したのだろう。そして、そこをバルトフェルトに拾われたのか、とシホは推測をする。
「つまり、彼女は元々、ザフトに敵対するつもりは全くなかったのに、成り行きでそうなったのだ、とおっしゃりたいのですか?」
 そして、確認を求めるために問いかけの言葉を口にした。
「そうだ。彼女はオーブ籍の第一世代だからな。コーディネイターだけではなく、ナチュラルも《同胞》と呼んで差し支えない立場ではある」
 だからこそ、話が複雑になっているのだが、というアイリーンの言葉の意味はシホにもわかった。
 どちらの種族に与しても、彼女はもう一方から《裏切り者》と呼ばれてしまう立場なのだ。しかも、その相手が自分の両親だったという可能性すらある。
「今は、バルトフェルド隊長の養女になっているからな。それに関しては解消できる……と言っても、本人にしてみれば複雑なのだろう」
 その点も気を使える人物が、必要だったのだ、とアイリーンは微笑む。
「現在、あちらから奪取してきた機体に関しては、彼女の協力でその性能がアップしている。また、バクゥ等もOSの改良が進められている。ジンに関しても、協力をして貰っているのだが……今の彼女ではシミュレーションも不可能だ」
 護衛と共に、彼女が改良したOSをテストできる人物が必要なのだ、とエザリアが再び説明を始める。
「そして、OSの不備を的確に説明できるだけの能力も必要だ、ということだ」
 全ての条件を兼ね備えた者、と言うことで、ザフトから推薦されてきたのがシホなのだ、と彼女たちが最後に付け加えた。
「引き受けてもらえるかな?」
 エザリアがこう問いかけてくる。
「引き受け、させて頂きます」
 女性だから、というだけなら断っていただろう。だが、自分のパイロットとしての実力も選択の理由に入っているのであれば、かまわないのではないか、と思うのだ。
 それに、その相手の顔も見てみたい、ともシホは考える。
「すまないな。では、ラクス・クラインには連絡をしておこう」
 以後は、彼女の指示に従って欲しい、とエザリアは口にする。同時に、シホに退出を許可した。
「失礼致します」
 そんな彼女達に向かって敬礼をする。
 二人が頷いたのを確認してから、シホはその場を後にした。
「……キラ・バルトフェルド……」
 廊下に出ると同時に、シホはこれから自分が護衛をする相手の名前を口にする。
「一体、どのような人物なのでしょうね」
 彼女たちがあれだけ入れ込む相手。その人物に、実際に顔を合わせるのが楽しみだ。
 そう思ってはいけないのだろうが、だが、シホは小さく笑みを浮かべる。彼女の中から、この場に呼び出されたときのあの不快さは完全に消え去っていた。


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ようやく、第二部本編に入りました。今回、新たにメインで活躍してくれるメンバーの顔見せの回、でしょうか。シホさん、大活躍の予定です(^_^;
もちろん、あくまでも主役はキラですが(苦笑)