フレイ達の足音が遠ざかってすぐのことだ。 「キラ、いいか?」 ノックの音と共にイザークの声が室内に届く。 「イザークさん?」 どうかしましたか? とキラは彼に言葉を返す。そうすれば、そうっとドアが開かれた。 「ちょっとな……お前に会いたいって言う人がいるんだが……」 通信施設にまで付き合ってくれ……とイザークが言いながらキラに歩み寄ってくる。 「……僕に、ですか?」 その瞬間、キラは思いきり不安そうな表情を作ってしまった。 あるいは……と思ったのだ。 「心配するな。あいつじゃない」 ラクス嬢だ、と付け加えると、イザークはキラの顔を覗き込んでくる。 「いやなら断るが?」 そしてこう付け加えてきた。そんな彼に、キラは首を横に振ってみせる。アスランに近しい人とは言え、ラクスならばその点を考えてくれるだろう……判断したのだ。本の数日間しか一緒にいなかったとは言え、彼女はそう思わせるだけの行動を取っていたのだし……とキラは心の中で付け加える。 「なら、移動をするが……抱き上げてもいいな?」 さらに問いかけてくる彼に、キラは素直に首を縦に振った。 自分の体が立ち上がったり室内の移動程度ならば何とかなるが、それ以上の距離となれば不安だとしか言いようがないことを自覚しているのだ。 そして、いつものようにイザークの首筋に腕を絡める。そうすれば、彼は小さな笑みを浮かべてキラの体を抱き上げるのだ。 「……でも、どうしてラクスが……」 軽々と抱きかかえあげられながらキラは小首をかしげてみせる。 「俺達が……お前を保護していると連絡したからだろう」 そうしたら、自分で確認させて欲しいと言い出したのだ……とイザークは言葉を返してきた。 「イザークさん達が?」 どうして? とキラは彼の顔を見上げる。 「いろいろとな。状況を考えれば、本国で協力をしてもらえる人間が欲しい、と判断しただけだ」 状況も変わって来つつあるし……とイザークは告げた。その言葉の裏に、キラは不安を感じてしまう。一体何が起きているのか、と思ったのだ。 「……イザークさん……」 「心配するな。何があっても俺が……俺達がお前を守ってやる」 バルトフェルド隊の人間も見なそう思っているから安心しろ、とイザークは笑みを深める。 「僕は……」 何も知らないことが怖い……とそんな彼の胸に頭を預けながらキラは呟く。 「知らなくてもいいことだからだ。それよりも、もう少し体力を付けないとな」 さりげなく話題をそらされたような気がするのは、キラの気のせいだろうか。 だが、自分が体力を付けなければいけないこともまた事実。だから、今はイザークの行動については忘れることにしたのだった。 「荷物をまとめろ、ですか?」 いきなりブリッジに呼び出された。そう思った次の瞬間、ラミアスからこう告げられて、サイ達は目を丸くする。 「えぇ……あなた方はここでアークエンジェルから降りて貰うことになります。もうじき戻ってくるはずのフレイさんも一緒に……」 ラミアスがきっぱりと頷いた。 「でも!」 「君が言いたいことはわかる、ケーニヒ二等兵」 何かを言いかけたトールの言葉を征したのはバジルールだった。 「君たちはここで戦闘中に行方不明になった。その後、オーブの人間に保護され、オーブへ帰る。あそこから地球軍への連絡は不可能だからな。そのまま、ご両親の元へ帰っても問題はない、と言うことだ」 そしてこう続ける。 「……どうやって……」 ぼそっとカズイが呟く。自力で帰れるわけはないのに……と付け加える彼に、ミリアリアもまた不安そうな表情を作った。 「カガリさんが責任を持ってくれるそうよ。彼女は、オーブ本国からここに来たのですって。だから、帰ることもできるそうよ」 そして、みんなを連れて行ってくれるとも言っていたわ、とラミアスが彼らを安心させるように微笑む。 そんな彼女の表情に、トール達もまたほっとしたような表情を作った。 だが、サイだけは違う。 「艦長達と……キラはどうなるのですか?」 堅い口調で問いかけの言葉を口にする。その瞬間、他の三人の表情もまた強張った。自分たちのことだけしか頭になくて、そちらにまで気が回らなかったと言うことに気がついたのだろう。 「我々は今まで通りだ。フラガ少佐が戻ってこられ次第、ここを出発する。幸い、あちらが見逃してくれるというそうだしな」 ならば、無駄な戦闘を避ける意味でもその方がいいだろう……とバジルールが言葉を返してくる。 「ヤマト少尉に関しては……状況次第だ。あちらが責任を持って保護してくれる……と言ってくれているようだし、アルスター二等兵の話であれば、心配はいらないと判断できる」 状況さえ許せばオーブに戻ってもかまわないだろうが……と口にするバジルールが飲み込んだ言葉が何であるのか、サイ達にも想像が付いた。 「ともかく、あなた方にしても、すぐに移動……と言うことは出来ないでしょうし……段取りが整うまであちらが保護してくれるそうだから、何も心配はいらないわ」 無事にオーブに戻り、ご両親と再会を果たして欲しい……とラミアスが優しい視線を彼らに向ける。 「運命が味方をしてくれれば、再会できる日も来るでしょうし……その日を願っていてくれればいいわ」 私達も、その日が来ることを希望して、アラスカまで向かう……と言葉を締めくくった。 そこまで覚悟を決められていてはもう何も言えない、とサイは思う。彼女たちは皆、覚悟を決めているのだろう。そして、自分たちまで巻き添えにしないように……と最良の方法を差がしてくれたのだ。 「わかりました……俺達も、そしてキラも、皆さんとの再会出来る日を首を長くして待っています」 そして、その時には戦争が終わっていて欲しい……とも。 「では、急ぐがいい。時間が限られているからな」 バジルールの言葉に、彼らは一斉に頭を下げる。そして、彼女たちの前から立ち去った。 前回よりはちょっと短め……ですが、内容的にはちょっと進んだでしょうか。大人達の結論がこれです。 |