「……まさか、キラとあいつが幼なじみだったとはな……しかも、あいつの口調からすれば、どこかで出逢っていたって事か?」 さすがにそれを問いつめるのは、あの場でははばかられたが……とディアッカが付け加えた。 だが、それにイザークは答えを返さない――いや、返せなかったと言うべきか。 キラの気持ちは理解できる。 間違いなく幼なじみの立場を気にしているのだろう。そして、危険を冒してまで《幼なじみ》の《婚約者》を逃がしたことからも、幼い頃はそれこそ大切な相手だったのだと推測できるのだ。そんな相手であれば、自分でもためらうに決まっている。 だが、相手に関してはどうか……と言えば理解なんてしたくないし、する気もない……と思ってしまう。 「……あいつ……足つきに民間人が乗っていた、と言うことを知っていた……と言うことか?」 同時に、こんな事も思ってしまう。だとしたら、どうして誰にも伝えなかったのか、と憤りを覚える。知っていれば、もっと他の方法をとった可能性もあったのではないか、と。 「可能性は……否定できないな……」 イザークの呟きを耳にしたディアッカが同意の言葉を口にする。 「思い出してみれば、ストライクに対するあいつの行動はかなりおかしいものがあったしな……おそらく、あの時点でストライクに乗っているのが《キラ》だ、と知っていた可能性は否定できないか」 だから、命令違反をしてまで捕獲しようとしていたのかもしれないぞ……と言われてみれば、納得するしかないだろう。だが、それはますますイザークの怒りをかきたてただけだった。 「……だとしたら、許すつもりはないな……」 自分の意地だけで、保護すべき民間人を危険にさらしたのだ。 そして、結果的に彼らをイザークに殺させた。 直接罪にとうことはできないかもしれない。 だが、イザークにしてみればますます彼を気に入らない理由が出来てしまった……と言うところだろうか。 「同感だな」 自分たちに話すのがいやであれば、ニコルあたりにでも伝えていればよかったのだ……とディアッカは付け加えた。そうすれば、もっと他の方法をとることも出来ただろうと。機会はいくらでもあったのだから、と告げる彼の言葉はイザークの考えと同じものだ。 「と言っても……過ぎてしまったことはもうどうしようもないことだがな」 それよりも、これからのことを考えた方が建設的か……とディアッカは意味ありげな視線をイザークに向けてくる。 「キラの気持ちか……ともかく、前向きにしてやらないとな。あいつの体には精神状態も大きく関わってくると言う話だし……」 それ以上に、自分の気持ちも……とイザークは心の中だけで呟く。 「あいつのことはどうでもいい。俺にとって大切なのは、今、目の前にいる《キラ》だしな」 そして、あいつ――アスランはその事実を知らないのだ。ならば、いくらでも出し抜けるだろう。 「キラにとって一番いい状況を整えてやりながら、あいつを蚊帳の外においておく方でも考えるか」 自分の《キラ》に対する気持ちはアスランへいやがらせではない。二人の関係を知る前に、自分は彼女に恋をしたのだ。 だが、男としてアスランの行動を認められない。 大切な者を守ろうとするには、彼の行動は間違っていたとしか言いようがないからだ。そして、それは自分に対する反目からではないだろうか。 「俺だったら、あいつらのことを知った瞬間、相手に対する自分の感情を押し殺して事実を伝えただろうしな……」 それができない奴にキラの存在を教えたくない……とイザークは言い切る。 「じゃ、まぁそう言うことで、手を打つか……ラクス嬢を味方に付けられれば一番確実なんだがな……」 どの方法がいいだろうか……とディアッカは考え込む。 「ともかく、直接連絡を取りたいな」 そうすれば、自分の目で真実を確認することが出来るだろう……とイザークは口にした。 「あぁ、それが先決か」 親の権力をあてにするのはいやだが、この状況では仕方がないか……と言うディアッカの言葉にはイザークも頷いてみせる。 「適当にぼかして事情を説明しなければならないか……」 まぁ、それは妥協するしかないだろう……とイザークは考えた。 全ては《キラ》の為だ。そして、惚れた相手のためと言えば、母は苦笑をしながらも手助けをしてくれるのではないか。楽観的な希望ではあるが、それが間違っていないだろうとイザークは心の中で呟いていた。 「キラちゃん」 ベッドに戻ったキラの側にいたアイシャが、不意にこう問いかけてくる。 「何でしょうか?」 そんな彼女に視線を向けて、キラは答えを返す。 「あぁ、そんなに難しく考えなくていいの。ドクターからね。ちょっと頼まれたことがあったから」 今の貴方に話していいのかどうか、ちょっと悩む所なんだけどね……とアイシャは苦笑を浮かべた。その表情に、キラは不安を感じてしまう。 「……あの……」 そして、それが表情に出てしまったのだ。その瞬間、アイシャは苦笑を深める。 「貴方も、男女の体の違いについては勉強したことがあるでしょう?」 その表情のまま告げられた言葉に、いぶかしく思いながらもキラは頷いて見せた。 「で、今の貴方は女の子でしょう?」 アイシャがさらに付け加えた言葉に、キラは嫌な予感を覚える。 「……まさか……」 つまり、そう言うことなのだろうか。 「そろそろ、女の子になって一月ぐらいかしら……体の方の機能は正常なの。だからね、月経が来る可能性は否定できないわ」 いきなり来るよりも、事前に少しは覚悟をしておいた方が衝撃は少ないのではないか……と彼女は付け加える。 「……僕……」 「大丈夫よ。みんな、ちゃんと乗り越えているんだから」 何なら、フレイが戻ってきてから聞いてみればいいだろう……とまでアイシャは口にした。と言うことは、どうあがいても逃れられないことなのだろうか、とキラは気が重くなる。 「それにね。それは赤ちゃんを産めるって言う証拠だもの。キラちゃんだって、いずれ誰かを好きになってお嫁に行くかもしれないでしょう?」 この言葉を耳にした瞬間、キラの心の中に浮かび上がったのは、幼なじみではなく《彼》の面影だった。 「……僕は……」 「今は無理でも、いずれ考えなければならいことでしょう?」 結婚に関しても……と言われてしまえば、キラは頷くしかない。男に戻れない以上、それは覚悟しなければならないことなのだから……と。 「そっちについては、焦らなくてもいいんでしょうけどね。こっちの方は覚悟を決めるしかないの」 だからね……と言いながら、アイシャはポケットから何かを取り出す。 「それは……」 「月経の時に使う物よ。種類は幾つもあるんだけど、これが一番基本的なものだし……まずはこれの使い方を説明させて貰った方がいいかしらって」 言葉と共に、それをキラの掌にのせる。 その後に続けられた説明に、キラは思わず泣き出したくなってしまった。 「……バルトフェルドさんの馬鹿野郎!」 しばらく後、キラの部屋からこんな叫び声が周囲に響き渡る。だが、それに関しては誰もとがめ立てできなかった。 キラの上に突きつけられたまた新たな問題……と言うことで……恨まれていますねぇ、バルトフェルド(^_^; |