「……マジ?」
 キラの部屋に集められた面々は、一様に信じられないと言う表情を作っている。その気持ちはわからないわけではない。一番信じられないのは当の本人なのだ。
「本当よ……私とミリィがちゃんと確認したもの……」
 間違いなく女の子だった……とフレイが胸を張れば、その隣でキラが身を縮めてしまう。しかも、その表情は今にも泣き出しそうだ。
「……っていうか……そいつは間違いなく《男》だったのか?」
 こう問いかけてきたのは、一番つき合いが浅いカガリだった。
「確かに、そうとは思えなくはなかったが……女だと言っても通用できたんじゃないのか、そいつの場合」
 この言葉に間違いはない……と、キラ以外の者たちは思う。思うが、それを指摘すれば、間違いなくキラは絶大なダメージを受けてしまうだろう。それだけは避けてやりたい、と友人達は考えていた。
「だってなぁ……」
「あぁ……この間まで、一緒にシャワーブース使ってたんだぞ、俺達は」
 間違いなく男だった! とカズイとトールが力説をする。
「でなきゃ、フラガ少佐と一緒になんかさせられないって」
「キラが男だってわかっていても、平気でセクハラする人だしな、あの人は……」
 さらにあれこれ説明をしようとして、キラをどつぼに追い込んでいるのがわかっているのだろうか、彼らは。
「……二人とも、そこにまでにしておいて。大切なのは、これからのことでしょう?」
 でないと、本気でキラが泣くわよ……とミリアリアが男性陣二人をたしなめる。
「……こう言うとき、サイがいてくれないと……結構困るんだよな……」
 結局、自分たちの中心になるのはキラか彼だったのだ……とトールが吐き出す。そして、今回はその《キラ》に降りかかってきた災難なのだ。だから、もう一人のリーダーがいなければ話にならないとため息をつく。
「サイも駄目よ……この話をしたら、パニックを起こしちゃったもの」
 そのおかげで、あれこれごまかせたのは事実だけど……とフレイが付け加えたセリフは、キラの耳以外には届かなかっただろう。
「それにしても、ここしばらく、キラの体調が悪かったことと関係しているのかしら?」
 だとしたら、地球に降りてきたことが原因があるのかもしれない、とフレイは口にする。
「キラ、調子悪かったの!」
「いつから!」
「マジ?」
 それって、思い切りやばかったんじゃないのか……と口々にキラの顔を仲間達が覗き込んできた。ひょっとして、これもフレイの策略なのだろうか、とキラは思う。
「調子が悪いって……ちょっと食べられなかっただけだし……昨日は、いろいろあったから、疲れたんじゃないかなって思ってたんだけど……」
 地球の重力にも慣れられなかったし……といいながら、キラはますます身を縮める。
「あんた達が騒ぐから、内緒にしておいてくれって言われたのよ」
 だから、最近、キラと一緒だったの! とフレイは言い切った。
「……本当にそれだけ?」
 これだけであれば、フレイはとてもいい人だと言い切れるだろう。だが、彼女の本性を多少なりとも知っているミリアリアは納得しなかったらしい。
「それだけで、コーディネイター嫌いのあなたが、キラと一緒にいるわけないわよね? 面倒なこと、嫌いだったでしょう?」
 にっこりと微笑みながら、さらにミリアリアはフレイを問いつめる。
「……だって、サイったら……未だに、キスどころか、自分から手を握ってくれたこともないのよ! だから、キラに手伝って貰えば、少しは何とかなるかと思ったの! ついでに、キラで遊べば憂さ晴らしになるかなって……」
 自分たちを守って貰うことはもちろん、自分の気晴らしにもなると思ったから……とフレイはさりげなく視線を彷徨わせながら口にした。
「それに、どうせなら、いつでもシャワー浴びれる環境は欲しいかなって……キラったら、私の裸を見ても反応しなかったから、安全だと思ったし……」
 女の子になっちゃったんなら、ばらしてもかまわないよね……とフレイはキラが今まで隠しておきたかった事実をあっさりと口にしてしまった。
「……フレイ……」
 その瞬間、キラはとうとう泣きだしてしまう。
「フレイ……それは、男には禁句だって……」
「ストレスでも駄目になるって言うし……キラの場合はなぁ……」
 成り行きでストライクに乗っていたようなものだから、なおさらだろう……とカズイも気の毒そうな表情で告げる。
「……お前ら……それよりも先にしなければならないことがあるんじゃないのか?」
 キラの涙を拭いてやりながら、カガリが口を挟んできた。
「そうよね……このままじゃいけないだろうし……下着とかもねぇ……」
 サイズも測らないと……と言うミリアリアも、実はかなり動揺をしているのだろうか。どうでも良さそうなセリフを口にしてしまった。
「その前に……どうしてこうなったか、だよな。原因はわからなくても、要因は見つけられるんじゃないのか?」
 この症状が出たのがキラだけなら、他人と違ったことを思い出せばいい……とカガリが冷静な口調で指摘をする。
「まぁ……こいつがコーディネイターだったとしてもだ。こんな状況、あるなんて聞いたことないからな」
 でないと、こいつだってこれからどうするべきかわからないだろう……と言うカガリのセリフはもっともなものだろう。
「でも……昨日のキラは、朝ご飯以外、艦内で食べていないはずよ。薬だって、飲んでいないし……」
 と言うことは、街に出ている時よね……とフレイが口にした。
「だが、食べたもの、と言えば……ケバブぐらいなものだぞ」
 もっとも、虎の所でバラバラにされていたときのことまではわからないが……とカガリが即座に告げる。
「……あそこでも……コーヒーを飲んだだけだよ……」
 ぐすぐすとしゃくり上げながら、キラもこう言った。
「……まさか……それに変な薬が入っていた……なんてこと、ないよね?」
 黙って話を聞いていたカズイが、いつもの通りさりげなく爆弾発言をしてくれる。
「……そんなこと……」
 あるわけないだろう、とキラは言いかけた。だが、それよりも早く、
「あり得るかもしれないな……あいつ、キラの正体に気づいていたし……」
 とカガリが口を開いた。
「キラさえ、戦えなくなってしまえば……アークエンジェルを落とすのは簡単だよな……」
 トールが、まさか……と滲ませながらぼそっと呟く。
「あいつ、キラに『投降しろ』って言っていたし……まさかとは思うんだが……」
 これもあいつの目的か……とカガリが拳を振るわせ始めた。
「あの野郎! キラを《愛人》にする気だったなぁ!」
 さすがに《男》では外聞が悪いと思ったのか。それとも、キラが《地球軍》に与していたことがネックだったのか。それはわからないが、男から女にしてしまえば、いくらでもごまかせる……と考えたのだろう、とカガリは力説をする。
「……まさか……」
 いくら何でもそれはないのではないか……とキラは言いかけた。
「そうね……キラを見て……と言う可能性は否定できないわ。だって……ねぇ」
 しかし、それに賛同をしたのは意外なことにフレイだった。そのまま、彼女はミリアリアへと視線を向ける。
「そうよ! ただでさえ可愛らしかったのに、こんなに可憐になるなんて!」
 そうすれば、ミリアリアもしっかりと首を縦に振って見せた。
「……フレイ……ミリィ? カガリも……」
 そのまま盛り上がる少女達に、キラは何と言えばいいのかわからない……という表情を作る。
「まぁ……確かに、キラは美人だよなぁ……」
 カズイがどこかのほほんとした口調でこう感想を言いかけて、不意に息を飲む。
「ってことは……フラガ少佐のストライクゾーン、ど真ん中?」
 そして、今気がついた……というようにトールにこう問いかけた。
「……それって、めちゃくちゃやばくないか?」
 ただでさえキラはフラガと一緒にいる時間が長いのだ。万が一と言うことは否定できない。
「そっちの方が優先じゃないの?」
 さらに、我に返ったミリアリアが口を開いたときだ。
 噂をすれば影……というのはこういう状況なのだろうか。
「坊主! マードックが怒ってるぞ!」
 こう言いながらフラガが踏み込んできた。もっとも、彼も現状を確認した瞬間、全ての動きを止めてしまったが……



と言うわけで、オコサマ達の現実確認。キラがどうなっているかは次回まで引っ張らせてくださいなっと(^_^;