「まさか、お前がストライクのパイロットをねぇ……」 キラと話を終えて戻ってくれば、ディアッカがからかうようにこう言ってきた。そんな彼を睨み付けるが、慣れている相手に通用するはずもない。 「まぁ、こだわりの方向が変わっただけか」 さらにからかうようにこう言ってくる。 「……何が言いたい……」 ここまで言われては黙っていられない、とばかりにイザークはディアッカを恫喝するように口にした。 「確かに、美人だし……庇護欲を刺激してくれるよなって思っただけだ」 それに、予想外にイザークに懐いているようだし……とも彼は付け加える。 「……あいつは……俺のことをバルトフェルド隊のメンバーだと思っているからな……」 だから、素直な視線を向けてくるのだろう……とイザークは思っていた。もし、自分がクルーゼ隊の一員で、しかもデュエルのパイロットだと知れば、あんな風に無条件で微笑みかけてくるわけがないとも。 「イザーク?」 マジで、熱でもあるのか? といいながらディアッカがイザークの額に手を当ててくる。 「バカか、貴様!」 その手を振り払いながら、イザークがディアッカを怒鳴りつけた。 「何で、俺が《バカ》なんだよ! 理由次第では、いくらお前でもただじゃすまねぇぞ!」 もちろん、ディアッカもそれを大人しく受け入れるような性格はしていない。イザークの言動をそれなりに受け流せる彼にしても、限度はある……と言うことなのだろう。本気で怒鳴り返してくる。 「……だから、バカだと言っているんだ。あいつがストライクに乗って、望まない戦いに借り出されるはめになったのは、間違いなく俺達のせいだろうが!」 そんな自分たちを、キラが許すと思うか? とイザークは付け加えた。 「だけどさ……いずれ話さなきゃないことじゃねぇ?」 特に、恋仲になりたいと思っているなら余計に……とディアッカは口にする。それは間違いなく正論なのだろうとわかっていた。 だが、とイザークは思う。 そうなれば、間違いなく《キラ》は自分を憎むに決まっている。いや、憎まれるならばまだましかもしれない。それは、キラの心の中に自分がいるという証拠でもあろうから。しかし……とイザークは考えてしまう。 「……怖いんだろうな、俺は……」 ぼそっとイザークは言葉を口にした。 「あいつが、俺を見てくれなくなる……という状況が……」 あの菫色の瞳が自分の姿を認めた瞬間そらされる……という状況を考えただけで、イザークは心臓を鷲掴みにされるような痛みを覚える。 「……お前って……」 次の瞬間、信じられないと言うようにディアッカは目を丸くした。 「実は純情だったんだな……本国では、結構遊んでいたと思っていたんだが……」 信じられねぇ……と言う彼にあれこれ相談をしていたのは自分だ、とイザークは過去の自分をけりつけたくなる。だが、今更それらの事実について取り繕うつもりは全くない。 「あれは……全部、向こうからこなをかけてきただけだ」 だから、適当に相手をしていただけだ、と付け加える。 「なるほどね……見てくれだけ言えば、お前はコーディネイターの中でも上の部類だからな」 それに、ジュール家の跡取りでもある。女性陣からすれば格好の標的だ、と言うわけだ……とディアッカは他人事のように口にした。 「お前だって似たようなものだろうが」 「まぁね。おかげさまで、ザフトの紅服だし……MSのパイロットだしな」 それなりに遊ばせて頂いています……とディアッカは笑いと共に口にする。そう割り切れる彼が少しだけうらやましいかもしれない、とイザークは思いながら、さらに言葉を重ねる。 「自分から、欲しいと思ったのは……あいつが初めてだ……」 ストライクのパイロットだからかもしれないし、この傷を付けた相手だ、と言うことも関係しているのかもしれない、とイザークは心の中で付け加えた。 「だが、それを言えば、キラだって同じだろう。あいつがストライクのパイロットであると同じように、俺はあいつと戦ってきたデュエルのパイロットだからな……」 イザークがこういうのとほぼ同時に、二人がいた部屋のドアが開かれる。反射的に視線を向ければ、そこにはアイシャと……キラがいた。 「キラ!」 しかも、その小さな顔からは次第に血の気と感情が失せていく。 「……貴方が……デュエルの……」 パイロットだったなんて…… キラの唇が声にならない言葉をつづる。 「キラちゃん!」 ぐらりっと崩れ落ちるキラの体を、アイシャが慌てて支えるのが見えた…… 時間は少し前に戻る。 「あら、どうしたの? 一人で」 廊下を歩いているキラに、華やかな声がかけられた。 「アイシャさん……少佐がフレイと話があると言うことで……追い出されちゃったんです」 ついでだから、イザークさんに借りた本を返そうかと……と口にしながら、キラは手にしていたそれをアイシャに見えるように掲げた。 「それにしては……変なところを歩いているわよね?」 言葉を口にしながら、アイシャがゆっくりとキラの側に歩み寄ってくる。そのセリフを耳にした瞬間、キラは思わず視線を泳がせてしまう。 「ひょっとして……迷子になったのかしら?」 そんなキラの様子を見た瞬間、アイシャが微かに笑いを滲ませながらこう問いかけてきた。とたんに、キラの頬に朱が走る。 「あぁ、そんなに恥ずかしがらなくていいわよ。ここは結構複雑だから、新人は必ず迷子になるの」 もっとも、それだからこそ、こうしてバルトフェルド隊の本拠地として使われているのだが……と言いながら、アイシャはキラの腕を取った。 「あの二人の所ね。案内してあげるわ」 そして、こう告げる。 「でも……お忙しいのではないですか?」 そんな彼女に向かって、キラはこう問いかけた。そうであれば、場所だけ教えてもらえればいいから、とも口にする。 「私はね。ここでは暇人なの。だから安心していいわ。それに、貴方を一人でうろつかせる方が心配だもの」 どこかで倒れていないか……と思うと、とアイシャは付け加えた。その事実が、キラにますます申し訳ないという思いを抱かせる。 「そんな表情しないの。ね?」 せっかく可愛らしい顔をしているのだから……とアイシャはキラの頬に触れてきた。その言葉に、キラは少しだけ憮然とした表情を作る。 「僕は……」 「女の子でしょう、今は。戻れないなら、慣れないとね」 そう言われることに……とアイシャは微笑みを深めた。 「もっとも、急がなくていいのだけど。体の方が急に変わってしまったから仕方がないのだけど、意識はね」 そう簡単に変えられないものだから、と彼女の微笑みに少しだけ悲しい色が滲む。それがどうしてなのだろうか……とキラは考えてしまう。彼女のイメージと合わないのでは、と思ったのだ。 しかし、その答えはすぐに見つかってしまう。 彼女もまた、自分の思考を覆されるような経験をしたのだ、と思い出したのだ。 「それに、故意をすればいやでも変わるわよ」 その色を瞬時に消すと、アイシャはこう口にした。 「どうやら、あの子はお買い得のようだし……ね」 何があっても、キラを守れるだろう……とアイシャはさらに付け加える。 「……僕を、ですか?」 「そう。アンディががんばって戦果を上げているのは、私のせいなのよね。それと同じ事よ」 そうすれば、ザフト内での地位が上がる。地位が上がれば、それだけワガママを口にすることが出来るから……と言いながらアイシャは歩き出した。キラもまた、その腕に引かれるように歩き出す。 「……僕は……」 「女はね。そう言う男の見栄に付き合ってあげることも大切なの」 それがまた、彼らにとっては必要なことなのだから、とアイシャは声を立てて笑った。 「その一番いい例が目の前にいるでしょう?」 この言葉でキラが思い出したのは、もちろんフラガだ。 「……少佐って……」 「そう言う男だったの。いえ、今でも変わっていないわね。見栄と根性だけでエースの地位を保っている男よ、あいつは」 それがまたいいのだろうが……と言いながら、アイシャは先ほどキラが曲がったのと反対の方向へと進んでいく。どうやら、自分はここで間違えたのだろう、とキラは思う。 「もう少しよ」 あのドアだから……と言いながらアイシャは微かに歩を早める。そして、そのまま何のためらいもなくその部屋のドアを開けた。 その瞬間だった。 「あいつがストライクのパイロットであると同じように、俺はあいつと戦ってきたデュエルのパイロットだからな……」 イザークの言葉がキラの耳に届いたのは…… それと同時にキラの脳裏に浮かんだのは、爆発するシャトル。 「……貴方が……デュエルの……パイロットだったなんて……」 キラは、自分の足下が崩れていくような感覚に襲われていた。 ここで素直にくっつけないのがふみづきの作品でしょうか……まぁ、ここで知らせておいた方が後々のショックは少ないかな、っと(^_^; |