「あの……僕、フラガ少佐の所に……」
 行きたいのだ……とキラは付け加える。だが、それは女性陣――もちろん、キラも今は《女性》なのだが――の耳には届かなかったらしい。
「アナタならこっちの方がいいんじゃなくて? あの子と並ぶと映えるわよ」
 こう言いながら、アイシャが今現在、キラが身にまとっているものとよく似たようなデザインの服をフレイへとさしだしている。
「うん。とてもいいと思うんだけど……サイズが……」
 言葉と共にフレイはアイシャへと視線を向けた。そして、少しも隠していない彼女の体のラインをうらやましそうに見つめる。
「大丈夫よ」
 まずは着てみて……とアイシャはそんなフレイに向かって微笑みかけた。この表情と優しい声に、フレイも納得したらしい。彼女の手から服を受け取る。
 その時だった。
 誰かがドアをノックする音が室内に響く。
 先ほどのように、誰かザフトの兵士が来たのだろうか。そう思った瞬間、キラの心臓が激しく脈打ち始めた。
「キラ?」
 どうしたの? と慌ててフレイが顔を覗き込んでくる。
「……何でもないよ……」
 そんな彼女を安心させようと、キラは何とか微笑む。もっとも、それが成功しているかというとまた別問題だったが。
「お〜い! ここに家のオコサマ達がいるって聞いたんだが?」
 開けてくんない? とどこかお気楽な声がそんな彼女たちの耳に届く。その瞬間、キラの全身から不安が消えた。
「……少佐?」
 だが、今度は何があったのだろうか……と考えてしまう。彼はバルトフェルドと一緒に待っているはずではなかったのか、と。
「まったく……出産に付き合っている夫じゃあるまいし……」
 待てないなんて……と言いながら、アイシャがドアの方へと歩み寄っていく。そして、そのままドアを開けた。
「どうしたの? 後少しで用意ができるわよ」
 機嫌が悪いと隠すことなく、彼女はフラガに問いかける。
「俺も待っているつもりだったんだがな……ちょっと厄介事ができて、一度あちらに戻らなきゃならなくなったんだよ……あぁ、お前さん達はここにいていいぞ。俺もすぐに戻ってくるつもりだから」
 言外に、自分一人の方が身軽に行動できる……と彼は付け加えてくる。だが、それはキラ達の不安をかきたてるだけだ。
「アークエンジェルで何かあったのですか?」
 フラガには散々恥ずかしいところを見られているからだろうか。それとも、一回りも年齢が離れているからか。不思議と素直に感情を見せることができる、とキラは思いながらも問いかける。
「じゃなくって……問題なのは俺の方。ちょーっと見つかってはまずいもんが副長に見つかったらしくてねぇ」
 だから隠しておいたのに……とフラガは盛大にため息をついて見せた。それが何を意味しているのか、思い当たるものがキラにはある。
「だから、下手なところに隠しておかない方がいいって、マードック曹長にもいわれていたじゃないですか」
 思わずこう言い返せば、フラガは苦笑を浮かべた。
「だがなぁ……あのくらいは男として当然だし……今までとがめられたことはないんだぞ」
 というか、息抜きとして必要なんだって……と付け加えながら、フラガは手をひらひらと振ってみせる。
「と言うことで、すぐに戻ってくるから、いい子で待ってろよ」
 そのまま、彼は視線をアイシャに移した。
「信用しているからな、とりあえず」
 だから、頼む……と彼は口にする。
「任せておいて。こんなかわいい子達ですもの。責任を持って守ってあげるわ」
 それなりの立場をここでも得ているから、とアイシャはそんな彼に確約をして見せた。それに、フラガはほっとしたような表情を作る。
「あぁ……なんか必要なものがあれば、持ってきてやるぞ?」
 そのくらいはかまわないだろう……という彼に、キラは少し考え込む。
「あの……」
 おずおずと口を開けば、
「何だ?」
 と即座にフラガは笑顔を向けてくる。
「……トリィ、連れてきて貰っていいですか? 側にいないと、どこか不安で……」
 バジルールに何か言われそうだから……とか、すぐに戻れるだろうとか、ザフトの人間にバカにされるかもしれないと思っておいてきたのだが、やはり、いつも側にいてくれた存在がないというのは予想以上に不安をかきたててくれるものらしい。キラはそう思いながらこう口にする。
「了解。あれなら胸にでも突っ込んでくればいいだろうって。部屋にいるんだな?」
「そのはずです」
 少なくとも出かけるときはそこにおいていたのだ……とキラは彼に答えた。
「わかった」
 連れてきてやるよ。とフラガは確約してくれる。
「キラはそれでいいとして、フレイ嬢ちゃんの方は?」
 なんかいるものはあるか……とい言葉に、フレイは首を横に振って見せた。
「アイシャさんが必要なものは貸してくださるそうなので……だから、私はありません」
 だから、トリィを連れてきてあげてください……と彼女もフラガに頼む。
「本当、お前さん達は仲良くなったもんだな」
 いいことだ……と笑いながら、フラガは二人の前から姿を消す。その瞬間、キラは何故か淋しさを感じてしまう。
「……キラ、大丈夫よ。少佐は強いでしょう?」
 お荷物である自分たちがいなければ、どのような自体でも対処できるはず……とフレイはそんなキラを抱きしめてくれる。
「わかっているんだけど……でも……」
 何か不安なのだ……とキラは口にする。その理由まではわからないが、と
「まぁ、ここは敵地だもの。その気持ちもわからなくはないけど……私を信用してくれないかしら?」
 それにアンディも……とアイシャは優しい声で告げる。
「フラガ少佐が貴方を信用していらっしゃるから、私達もそうしますが……あの人までは信用できません。そもそも、どうして貴方があの人の側にいるかもわかりませんから」
 キラが口を開くよりも早く、フレイが真っ正直に彼女に疑問をぶつけた。
「簡単よ。本気であの人を好きになってしまったから……ね」
 自分の立場を捨ててもかまわないくらいに、と彼女は微笑みを深める。
「アナタ達も、誰かに本気デコイをすればわかると思うわ」
 もっとも、それだけすてきな相手が見つかれば、の話だけど……とアイシャは少しいたずらっ子めいた色を笑みに含ませた。
「そうなんですか?」
 女の子、というものは、こういう話が好きらしい……とキラはフレイの表情から考えてしまう。実際、彼女は機会があればそのはなしを根ほり葉ほり聞きたいと思っているようだ。
「そうよ。そうね……夜にでも話してあげるわ。もっとも、アナタ方が聞きたければ、の話だけど」
 その前に、アンディ達と話をしないといけないでしょう? と彼女は付け加える。それは最初からの予定だった。だから、反論するつもりはキラ達にはない。
「……はい……」
「後で、聞かせてくださいね」
 二人は、素直に同意をして見せた。



いいように遊ばれていますね、キラは……がんばってくれ……としか言いようがないです(^_^;