「本当に悪い人なんだろうか、あの人達は……」 キラは今日であった《砂漠の虎》の顔を思い浮かべながらこう呟く。 確かに、彼は敵だ。そして、ナチュラルを多く殺しているらしい。だが、それは彼が《ザフト》の隊長で、今二つの種族が戦争をしているからではないか。 「本当……戦争なんて……」 なければいいのに……と呟きながらキラは体をベッドの上に投げ出す。戻ってきてからと言うもの、体から倦怠感が抜けないのだ。申し訳ないと思いつつストライクの整備も抜け出してきたほどだ。 「……そうすれば、サイだって……」 あんな事をしなくてすんだだろう。それ以上に、自分たちの関係がここまでこじれることはなかったのではないか。 「キラ?」 そう思って小さくため息をついたときだ。言葉とともに、その元凶とも言えるフレイが入ってくる。 「大丈夫? 体調が良くないようだって聞いたんだけど……」 おかゆでも貰ってこようか? といいながらキラの顔を覗き込んでくる表情はあくまでも優しい。他人から見れば、間違いなく彼女はキラに乗り換えたのだと思うだろう。そして、本人もそう思われるような言動を口にしている。 だが、実際には全く違うのだ。 「……フレイ……」 キラはだるさを隠しながら彼女に呼びかける。 「僕の所よりもサイの方に行ってあげた方がいいんじゃないの? 今回のことだって、お芝居が原因なんだし……これ以上、関係がこじれないように僕とのことはお芝居だったってばらしてきた方がいいよ」 僕は、たぶん寝れば治るから……キラは付け加えた。 「キラの方が重要でしょう? キラに何かあったら、みんな死んじゃうんだから……」 それに、サイは少し頭を冷やした方がいいのだ……と彼女はさらに言葉を重ねる。 「……でも……」 「心配しないで。キラが寝たのを確認したら、ちゃんとサイの所に行ってくるから、ね?」 まずはキラ、と彼女は微笑む。 この笑顔が本心か出てくれたものならどれだけいいだろう。しかし、彼女がこうして自分に微笑みを向けてくれるのは、あくまでも『キラが自分にとって利用できる』からなのだ。 それも自分が彼女をこの艦へと連れてきてしまったせいだろう。 こう思ってしまえば邪険にすることもできない。 「きっとだよ」 ともかく、早々に眠ってしまおう。そうすれば、見たくないもの、気づかない方がいいことから視線をそらすことができるから……と考えながらキラは目を閉じる。 「ちゃんと毛布を掛けなきゃ駄目でしょう?」 本当に子供みたいなんだから……こう言いながら、フレイがキラの上に毛布を掛けてくれる。それが道具を大切にする気持ちと同じだとしてもかまわない。そう思ってしまうキラだった。 この眠りが、キラにとってある意味、最後の平穏だったのかもしれない…… 目を覚ましたとき、キラは倦怠感が薄れていることに気がついた。その代わりというようにかなりの寝汗をかいている。そして、頭の奧に何か重いものが詰まっているような気がしてならない。 「……シャワー、浴びよう……」 そうすれば、きっとそれも汗と一緒に流れていくだろう。 こう判断をして、キラはベッドから抜け出す。そのまま何気なくシャツを脱いでシャワー室へと滑り込んだ。 少尉という地位を貰って何が嬉しかったか、と言うとこうして個室にシャワーが着いていることかもしれない。 そんなことを思いながら、キラは何気なく視線を鏡に向けた。 そこには、間違いなく自分の姿が映っている。だが、何か違和感がある。 「まだ、寝ぼけているのかな、僕は……」 だから、自分の体に違和感を覚えるのだろう……とキラは自分に言い聞かせた。そして、からんをひねるとシャワーを出す。 手を伸ばしてボディソープをスポンジに取るとキラは体を洗おうとした。 「……えっ……」 この瞬間、キラは自分の体の違和感が勘違いでも何でもないことを自覚させられてしまう。 「嘘!」 信じられない……とキラは自分の体をしげしげと眺める。だが、いくら確認しても現状が代わるわけではない。 「……ないのにある……あるのにない……」 何で……と呆然とした口調でキラは呟いた。 「……どうしよう……」 というか、どうしたらいいのだろうか……とキラはおろおろとし始める。だが、どうすることもできないのは分かり切ってしまう。 そもそも、原因がわからないのだ。 「いくら僕がコーディネイターだからって……」 こんな事が起きるなんて聞いたことがない……とキラは呟く。それ以上に、こんな事がばれたら、艦内がパニックに陥ってしまうのではないだろうか。 「……本当に、どうしよう……」 それ以上に、あの人にばれたときが怖い。今まででさえ散々からかわれてきたのに、こうなってしまえば、それが増長するだけではすまないだろう。そうなってしまえば、ただでさえ限界が近いキラの精神がどうなるか。 「……えっと……」 ずるずるとしゃがみ込むと、キラは本気で考え出す。 だが、どうしたって答えが見つかるわけはない。ただ無駄に時間が流れていくだけだ。 「キラ?」 いつまで経っても食堂にキラが姿を現さなかったからだろうか。フレイが部屋に戻ってきた。そして、こう声をかけてくる。 「シャワー浴びてるの? マードック曹長がすぐに来て欲しいって言っているんだけど」 ノックと共にさらに言葉がかけられた。しかし、それもキラの耳を右から左に通り過ぎていくだけだ。 「どうしよう……絶対にまずいよ……」 ぶつぶつと呟く声は、ドアの向こうに届くことはない。 「キラ……倒れているの?」 ひょっとして……といいながら、フレイはためらうことなくシャワー室のドアを開けた。そして、床にうずくまってぶつぶつと何かを口にしているキラの姿を見てほっとしたような表情を作る。 「キラったら……いるならちゃんと……」 彼女の口からお小言は最後まで出ることはなかった。 今回、フレイはちょっといい役です。しかし、いいのか、これ(^_^; |