仮面

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  01  


「……そろそろ、坊主の精神、限界かもな」
 溜め息と共にフラガは小さく呟く。次の瞬間、それも無理はないかと苦笑を浮かべた。
「本当、ここは環境が悪すぎるよな」
 確かに、彼を認め、その存在を守ろうとするものもいる。だがそれ以上に彼を傷つける存在の方が多いのだ。
 キラは必死にそれらに耐えている。
 その様子は、限界までぴんと張られた糸のようだ。
 もし、後少し何かあれば間違いなく限界を超えてしまうだろう。それに気づいているのはフラガだけではなかったが、他の者たちはそれよりも現状の戦力で戦い抜けるかどうかの方が優先であるらしい。
「坊主はあれ込みだからこそ坊主なんだがな」
 壊れてしまったら意味がない……と口の中だけで呟く。
「さて、どうするか……」
 呟かれた言葉を耳にする者は誰もいなかった……

 もう何度目になるかわからないザフトの攻撃。
 だが、今回は少し様子が違っていた。
『……G四機にジン……それにシグーがいます』
 この報告に、ブリッジだけではなく、ゼロのコクピット内にいたフラガも絶句する。
「フラガ大尉?」
 回線越しに彼の様子に気がついたキラが不安そうに呼びかけてる。
『厄介な奴が出てきたな……と思っただけだ』
 小さく溜め息を着くと、フラガはこう口にした。そのセリフにキラは思わず眉をひそめてしまう。
「そうなのですか?」
 フラガの実力は、実際に一緒に戦いに赴いているキラにはよくわかっていた。ナチュラルだ……と言う言葉が嘘だと思えるくらい的確なフォローを与えてくれる。それは実戦経験の差だけなのだろうか……と悩むほどだ。
『まぁ、何とかなるだろう』
 だが、フラガの口から出たのは予想以上に明るいセリフだった。
『俺一人ならさっさとあきらめるが、坊主もいるしな』
 頼りにしている……と言外に付け加えられて、キラはうれしいと思う反面、何か重荷を背負わされてしまったような気がしてならない。
 はっきり言って、好きで乗っているわけでも戦っているわけでもないのだ。
 友達を守りたい。
 その気持ちがなければ、とっくの昔にこの場から逃げ出しているだろう。
「……その代わりに、アスランと戦わなければならいって言うのは皮肉だけどね……」
 キラは口の中だけでそう囁く。
 誰よりも大切な親友。
 戦いたくはないが、だからといって友人達も見捨てられない。そんな自分が一番嫌だ……とキラは心の中で付け加える。
『なんかいったか、坊主?』
 言葉の内容までは聞こえなかったらしいフラガがこう聞き返してきた。その事実に内心胸をなで下ろしながらも、キラは口を開く。
「いえ。無事に戻ってこられればいいな……と思っただけです」
 これは出撃前にはいつも思うことだ。
 と言っても、暖かく出迎えてくれるのは本当に一部の者たちだけ。命がけでアークエンジェルを守ったとしても、ほとんどの者たちはキラがコーディネーターというだけでそれが当然だという視線を向けてくる。
 それでもここに帰ってこようと思うのは、自分が守りたいと思う人々がいるからなのだ。
『そうだな』
 フラガも同じ気持ちなのだろうか。同意を示すように言葉を返してくれる。だが、コクピット内が暗いせいか--------あるいは彼が手元の計器を見つめているせいか--------その表情ははっきりとわからない。
『キラ!』
 だが、それを確かめるよりも先にミリアリアの声が耳に届く。
『発進準備できたわ……キラ、気をつけてね』
 モニター越しに告げられる言葉に、キラははっきりと頷いてみせる。
「キラ・ヤマト……行きます」
 この言葉と共に、キラはストライクをカタパルトへと移動させた。
『フラガ大尉もカタパルトへ。ストライク射出後、5秒でゼロも発進できます』
 その間にも、状況が次々と通信越しに届けられる。と言うことは、ザフトのモビルスーツは接近していると言うことだろう。などと考えているうちに、ストライクの背にはエールユニットが接続されていた。
 一瞬の間の後に、体がシートに押しつけられる。
 モニターに映る周囲の光景が、飛ぶように後ろに流れていった。
 そう思った次の瞬間、広大な宇宙空間へと放り出される。その落差が、一瞬だけキラの心を解放してくれた。
 だが、それをゆっくりと観察している余裕など今のキラには与えられていない。
『坊主!』
 キラの後に続くように発進してきたフラガのゼロが近づいてくる。
「何か?」
 ほんの数秒の間に戦局が変化したとは思えない。と言うことは、何か別のことだろうと思いつつ、キラが聞き返す。
『シグーは俺が相手をする……近づいて来られても、坊やは逃げろ』
 彼が何故そのようなセリフを口にするのか、キラには理解できなかった。だが、モニターに映っているフラガの表情はとても真剣なもので、キラに反論を許してくれそうにない。
「わかりました」
 だから、こう答える以外、キラにできることはなかった。

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最遊釈厄伝