傀儡の恋
79
プラントが《ラクス・クライン》の偽物を用意していたことは知っていた。
しかし、それを逆手にとって宇宙に上がるとはあの男も予想していなかったのではないか。
「無事にエターナルと合流したって」
ミリアリアがこう報告をしてくる。
「そう。良かった」
ラミアスがこう言って微笑む。
「後は何も心配いらないわね」
バルトフェルドが一緒であれば、と彼女は続ける。
「あの方の本領は宇宙ではなく地上戦だと思いますが?」
ラウはそう言いながら首をかしげて見せた。
「おそらくだけど、昔の部下達が合流していると思うの。彼等が一緒なら大丈夫だわ」
それは実際に共に戦ってみての感想なのか。
柔らかな表情の彼女は元は技術士官だったのだそうだ。しかし、種族にかかわらず公平な見方、そして状況に臨機応変に対処できる判断力はラウの目から見ても指揮官として十二分の資質を備えている。
その彼女が断言したのであれば間違いないはずだ。
「あなたがそう言われるなら、そうなのでしょうね」
ラウは素直に引き下がる。
「どうしてもからかわれたという気持ちが先に出ますので」
それでもこう言ったのはせめてもの意趣返しなのかもしれない。
「バルトフェルドさんは平気でいじってきますものね」
ラウに助け船を出すかのように口を開いたのはミリアリアだ。
「キラもさんざんからかわれたでしょう?」
「……三年前は……」
今はそれほどでもない、とキラが答える。
「彼も状況が見えていると言うことかな?」
「そうでしょうね」
ラウの言葉にミリアリアの苦笑を含んだ声が同意を示した。
「あるいはラクスさんが怖かっただけかも」
「そちらの方が可能性が高いわね」
こんな会話に笑いが漏れる。
「ラクスさんが最強ですか」
それに思わずこう言ってしまう。
「……まぁ。そうね」
「怒らせてはいけない人間というのは確かにいるのよ」
「とりあえず、平穏は大切だね」
その場にいた者達の口からこんなセリフが飛び出す。
ただ一人、キラだけは意味がわからないのか。首をかしげている。
「わからないならわからないままにしておきなさい」
ラミアスがキラにそう声をかけた。
「それがみんなのためよ」
「……そうなの?」
訳がわからないのだろう。キラがミリアリアに確認している。
「そうよ。だから、キラは気にしなくていいの」
彼女が力一杯断言した。
「マリューさんだけじゃなくてミリィもそう言うなら」
女性陣に団結されて勝てる人間がどれだけいるのだろうか。そう言いたくなる光景だ。
「女性陣には逆らわないでおこう」
ラウはまじめな表情でそうつぶやく。
「それが無難だろうね」
ノイマンが真顔でうなずいてみせる。その瞬間、また笑いが漏れた。