傀儡の恋

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 部屋に戻るとキラはおとなしくベッドの中にいた。もっとも眠っていてはくれなかったが。
「キラ」
 小さな声で彼の名を呼ぶとラウはそっと歩み寄る。
「まだ起きていたのかい?」
 そう問いかければ、彼は上半身を起こした。
「眠れません」
 そのままこう主張しているものの、彼の体は大きく揺れている。
 おそらく体は眠りを欲しているのだろう。
 だが、高ぶった精神がそれを拒んでいる。
 普通であれば体──と言うよりは生存本能が無理矢理にでも意識を落とすように導くはずだ。
 だが、コーディネイターは違う。
 精神が生存本能すらも凌駕してしまうことがある。
 キラの今の状況はまさしくそれなのだろう。
 しかし、眠らせなければいけない。
 どうすれば彼は寝てくれるのだろうか。一番いいのは一服盛ることだろうが、残念なことにここに用意はない。
 それならば、と思いながらラウはキラの隣に腰を下ろした。そのまま彼の頭を抱え込むように自分の胸へと押しつける。
「なら、私の心臓の音でも聞いていればいい」
 昔々、キラの母親ヴィアがこう言って自分を抱きしめてくれたことがあった。
 それと同じことをしてもキラが落ち着いてくれるかどうかはわからない。それでも、何もしないよりはいいだろう。
「……説明をしてくれると……」
 どうやら功を奏しているらしい。キラの声に少しだけだが眠気が混じり始めている。それでもこう言ってくるのは彼がまじめだからだろうか。
「今回のことは君たちは関係ないよ。と言うよりも、知らなかったようだね」
 知らされていなかったのではないかとは口にしない。
「狙われたのは子供達だよ」
 この言葉にキラの顔がゆがむ。
「その可能性は知らされていたからね。だから、私がここに来たわけだが」
 間に合って良かった、とつぶやく。
「流石にバルトフェルド氏ではね。目立ちすぎる」
 そう言いながらラウはキラの背中を一定のリズムでたたいた。
「僕は、子供じゃありません」
「成人していないんだ。まだ子供でいいんじゃないかな?」
 苦笑と共にラウはそう言い返す。
「私も辛いときには君に甘えるかもしれないし」
 さらにこう続けた。
「お互い様と言うこともあるだろう?」
「……お互い様、ですか?」
「そうだよ。私だって誰かにすがりたくなることはあるからね」
 もっとも、今こうしている間にも伝わってくるぬくもりだけで十分おつりが出るほどだが。
「だから、今は甘えなさい」
 この言葉にキラは素直にうなずく。おそらく眠気が強くなってきたのだろう。
「いい子だね」
 そうささやきながら背中をたたいているのとは半谷側の手でそっと目元を覆う。
 それが良かったのか。
 それとも、キラが緊張を解いたからか。
 気がつけば彼は眠りの中にいた。
「ようやく寝てくれたか」
 ほっとしたようにラウはつぶやく。それからゆっくりとキラの体をシーツの上に戻した。
「……これでは離れられないね」
 体を離そうとしたところで彼の手が自分の服をしっかりと握りしめていることに気付く。
「まぁ、いいか」
 自分も疲れている。そして、ここは自分の部屋だ。だから、とラウもそのままベッドに潜り込む。
 そのままキラを抱きしめるようにして目を閉じた。

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