傀儡の恋

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「……失敗したね」
 結局、生きて捕まえられたのはリーダーらしき男だけだった。
「これを片付けるのは、少し面倒だ」
 子供達に見つからないよう、死体を始末しなければいけない。そして、ここの汚れも消しておかなければ。
 やることが多すぎて時間が足りない。
「とりあえず、マルキオ師にこちらに子供達が来ないようにしてもらおうか」
 そうつぶやいたときだ。
「それも良いかとは思いますが、私に命じられた方が早いかと思います」
 聞き覚えのある声が木の陰から響いてくる。
 それに視線を向ければ、ソウキスがこちらに歩み寄ってくるのが見えた。
 自分の感覚に間違いがなければ、彼は《一族》に属している《ソウキス》だ。以前、自分と共にこの島の監視をしていた相手でもある。
「いいのか?」
 ここに自分がいるのは上の許可が出ているわけではないが、と言外に問いかけた。
「かまわないでしょう。すでに我々は《一族》から切り離されています」
 この言葉に反射的に相手をにらみつける。
「どういう意味だ?」
「……我々の存在はすでにデーターから消されていると、ブレア指令から聞いております。私の存在はアーノルド・ノイマン氏に譲渡されております」
 それがバルトフェルドと共に行動することが多い人物の名前だと言うことはラウも知っている。
「あちらの方がとりあえず一息ついたので、あなたのフォローをするように言いつかってきました。間に合って何よりです」
 彼はそう言って笑う。
 確かに、彼が来てくれたのはありがたい。だが、同時に何か胸の中をざらりとしたものでなでられたような感覚に襲われた。
 いったい何が起きているのか。
 しかし、それを確認するのは今でなくてもかまわない。
「わかった。それらの処理は……」
「私がしておきます」
「頼む」
 後はここの始末とリーダーから情報を引き出す作業か。
 それは館に戻ってかでもいいだろう。あるいはバルトフェルドに引き渡すかだ。
 どちらにしろ、一度は連れて帰らなければいけないか。だが、と思いながらラウは口を開く。
「とりあえず、こいつらを海岸まで運ぶか?」
 遺体は早々に処理したい。そう思ってつぶやく。
「私一人でも十分ですが?」
「夜明け前にはすべてを終わらせたい」
 ソウキスの言葉に対しこう反論する。
「子供達がこの光景を見たらショックを受けるだろう」
 さらにこう続ければ、彼は少し考え込むような表情になった。ソウキスは感情を制限されている。だから、すぐに納得できないのだろう。
「わかりました」
 それでも時間をかければ納得してもらえたらしい。
「では、作業を始めましょう」
 言葉と共に二人で動き出そうとした。
 まさにその時だ。
 誰かが木の枝を踏んだときの音がした。
 まだ敵が残っていたのか。そう思いながらラウは振り向く。しかし、そこにいたのは敵ではなかった。
「……何を……」
 真っ青な顔をしたキラがそこにいた。
 一番見られてはいけない相手に見られるとは、どうしてこうタイミングが悪いのか。ラウは心の中で小さなため息をつく。
 いったい何と言えば彼の心を守れるのか。
 そのための方策がすぐには見つけられない。そんな自分がとても歯がゆかった。

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最遊釈厄伝