傀儡の恋
43
アーモリーワンと呼ばれているプラントからまた別のそれへと移動をする。
その間にもブレア達の方ではいろいろとあったらしい。
ただ、完全にラウは蚊帳の外に置かれていた。
それはいったい誰の指示だったのだろうか。
「誰の仕業でもかまわないがね」
ラウにしてみれば自分の作業の時間が増えたことの方が重要だ。それだけ状況を打破するための材料が増える。
「もっとも、それまで生きていられればの話だが」
必要なくなった道具を処分するのはブルーコスモスの定番だ。
もっとも《一族》がブルーコスモスの中の一組織だとは考えていない。むしろ連中を手のひらの上で転がしているようだ。
だからこそ、キラはまだ無事なのだろう。
心の中でそうつぶやいた瞬間、彼の面影が脳裏に浮かび上がってくる。
元気でやっているのだろうか。
ふっとそんな疑問がわき上がってくる。
「会いに行ければよいのだが……今はやめておいた方がいいだろうね」
何が起きているのかわからない以上、うかつな行動をとるわけにはいかない。
「仕方がない。あの男のことでも調べておくか」
あの男のことだ。近いうちに何か行動を起こすだろうことは想像に難くない。
そのとき自分がどうすればいいのか。
判断材料は多ければ多い方がいい。
「……再び世界が割れることがなければ、それでいいのだがね」
難しいだろうと言うことはわかっている。いや、不可能だと言っていいのではないか。
わかっていてもそう願いたくなるなど、以前の自分では考えられない。
「私も甘くなったものだ」
苦笑とともにつぶやいた言葉はそのまま部屋の中に広がっていった。
小さなため息とともに手を止める。
「基本的にはこれでいいと思うんだけど……」
問題なのは、とキラはぐっとのびをしながら付け加えた。
「実際に試せないと言うことだね」
今のままでは机上の空論でしかない。だからといって、実験のためだけにクローンを生み出すわけにもいかないのだ。
「まぁ、可能性が生まれたと言うことだけで今は満足するしかないんだろうね」
同時に、とキラは心の中だけで付け加える。これは内密にしなければいけない。特に、ブルーコスモスや地球軍には渡してはいけないものだ。
渡ってしまえば、自分の希望とは真逆の目的に使われてしまう。
「もっとも、データーだけなら意味はないけど」
一番肝心なものが手に入らないだろうから、とつぶやく。
それでも念のために暗号化しておこう。ついでに正規の手順以外で閲覧しようとしたときには自壊するようなウィルスも仕込んでおくべきか。
とりあえず決めきれないから、全部やってしまおうと思う。
どうせ、時間はあるのだ。
そう考えると、とりあえずデーターに暗号をかける。これも自分が作ったプログラムだから、普通のそれでは解析は難しいだろう。
だが、不可能ではない。
ならば、少しでも解析をされる時間を延ばすしかない、というのがキラが出した結論だ。
「……ウィルスは前に作ったのを流用すればいいよね」
そうつぶやいてさらに作業を続けようとする。
「お前は、まだそんなものを作っていたのか?」
だが、それは頭の上から降ってきた声に遮られた。
「何もする気がないという状況よりはましかもしれないが……」
「アスラン」
どうして彼がここにいるのか。そして、どこから見ていたのか不安に思いながらキラは振り向く。
「とりあえず、夕飯だそうだ。続きはそれからにしろ」
カガリも来ている、と彼は続ける。
「何か、あったの?」
アスランだけならばともかく、カガリまでここに来たとは、と思いながら問いかける。
「気分転換だから、安心しろ」
そうなのだろうか。キラは納得しきれないまま首をかしげる。
「詳しいことは本人に聞いてくれ」
アスランは言葉とともに強引にキラを立ち上がらせた。そのまま引きずるようにして部屋を出て行く。
「ちょっと、アスラン!」
痛いよ、と言っても彼は耳を貸してくれない。結局、キラはダイニングまでそのまま引きずられていく羽目になった。