傀儡の恋

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 ブレアの言葉がこの状況に繋がるといったい誰が想像するだろうか。
「君は、先日、プラントであったね」
 そう言いながらわざとらしい笑みを彼は浮かべている。
「こちらの指示で出かけていたまでです」
 ブレアがラウの代わりに言葉を口にした。
「そうなのかな?」
 あくまでもラウに確認したいらしい。ギルバートはそう問いかけてくる。
「えぇ。議長交代でプラントの民間人がどのような反応を見せるのか。それを確認しに行ったまでです」
 多分そうなのだろう。そう推測していた言葉を口にした。
「僕ぐらいの年代の人間が、一番情報を引き出しやすいと判断されたようです」
 ラウは仕方がないとこう言い返す。
「実際、あまり警戒されませんでしたし」
 外見年齢のせいだろうか。それとも同胞意識からかなのかはわからない。それでも、以前よりも親切にしてもらえた。
 それとも、以前がひどすぎたのか。
 戦争が終わったことでとりあえず余裕が出来てきたのかもしれない。
「なるほどね」
 そう言いながら、彼は意味ありげな視線を向けてくる。
「何か?」
「その考え方が私の知人に似ているな、と思っただけだよ」
 試していたのだろうか。しかし、このくらいは簡単にたどり着く内容だろうとすぐに思い直す。
「彼には一歩下がって状況を確認するように教育を施してありますから」
 にこやかな表情でブレアが言う。
「その中にはあなたのご友人が好んで行っていた内容も含まれていますよ」
「……それも調べ上げていると?」
「えぇ。《一族》のエージェントは優秀ですから」
 ブレアは笑みを深めるとさらに言葉を重ねる。
「ついでに言えば、僕たちの遺伝子提供者はその方の血縁になります」
 そして、さらりと爆弾発言をした。
「なっ!」
 これは予想外だったのか。あのギルバートが絶句している。
「おかしなことではないでしょう? 地球軍はヴェイアのクローンを作って利用していますよ?」
 ブレアは言葉とともに首をかしげて見せた。
「それは知っていたがね」
 ようやく衝撃から抜け出したのか。ギルバートはそう口にした。
「それで、他にいるのかな?」
 何が、と言われなくても想像がつく。
「今生き残っているのは我々だけですよ」
 何でもないことのように言うブレアが実はものすごく傷ついているのではないか。そんな予感がする。
「そうか」
 少しだけ遠いまなざしをするとギルバートが呟く。
 そのまなざしの先にいるのはかつての自分だろうか。
 そう思っても何の感慨もわかないのは、自分の中で彼が既に心を砕く対象ではないからだろう。
 これがキラであれば間違いなく歓喜するだろうに。
 我ながら勝手だと思う。それでも、それが今の自分なのだから仕方がない。
 だから、目の前の男もあの子も、今の自分にとっては不必要な存在なのだ。それなのに、どうして顔を会わせなければいけないのか。
「本題に戻ってもかまいませんか?」
 ブレアが静かな声音でそう問いかけている。
「もちろんだよ」
 それにしても、目の前の相手がどこまで納得しているのか、その表情からは読み取れない。
 味方ならばこれほど力強い存在はいなかった。だが、敵に回ればそれは一転する。
 本当に厄介な男だ。
 そんなことを考えながら、ラウはただ、目の前の会話を聞いていた。

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最遊釈厄伝