傀儡の恋

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『そう。わかった。お前たちの報告は心の中にとどめておく』
 その言葉とともに通話が打ち切られる。
「これからどうすればいいのかな?」
 真っ暗になったモニターを見つめながらラウはそう問いかけた。
「そうですね」
 そう言いながらブレアは首をかしげる。
「本当はオーブに戻っていただくべきなのでしょうが……今はやめておいた方が良さそうですね」
 小さなため息とともに彼はそう告げた。
「セイランのことがなければ行っていただきたいのですけどね」
 さらに彼はこう続ける。
「私がオーブにいることを見つかればまずいか」
 無理矢理カガリ拉致の実行犯にされかねない。
「えぇ」
 言外にそう告げればブレアも頷いて見せる。
「そうですね……もう一度、宇宙に上がられますか?」
 確認してきて欲しいこともありますし、と彼は続けた。
「そうですね。何もしないよりもいいでしょう」
「では、お願いします。マーシャンの存在もありますから」
 それはそれで厄介だが、と彼はため息をつく。
「……この時期だから、かな?」
「否定しません」
 今はまだ、それぞれの態勢が整っていない。だが、近いうちに世界の均衡が破られるのではないか。
 その時、彼はどうするのだろう。
 キラの顔を思い出しながらラウはそんなことを考える。
 間違いなく、彼は嵐の中心へと引き寄せられるはずだ。
 それでも、少しでも笑っていてくれればいいのだが。難しいとはわかっていても、ラウはそう願わずにいられなかった。

 顔を上げれば、既に外は夕闇に包まれている。
 その事実にキラは小さな苦笑を浮かべた。
「みんな、いないんだったね」
 いつもならラクスか子供達が夕食の時間を教えてくれる。しかし、彼女たちは今、マルキオとともに本土の方へと行っている。この島に残っているのは自分だけだ。
「……ご飯、食べないと」
 小さな声でそう呟く。だが、空腹だという感覚がないのだ。
 かといって、食べなければ後で倒れるだろう。
 その方がまずいと言うこともわかっている。
「仕方がないね」
 子供達の前で怒られるのは結構クるものがあるのだ。それよりは無理にでも食べておいた方がいいだろう。
 あれはあまり思い出したくない経験だった。
 そんなことを考えながらキラは立ち上がる。
 確か、食事は冷凍庫の中にあると聞いていた。それをレンジで溶かすぐらいはキラにも出来る。
 カリダのことだ。きっと、手軽に食べられるものを用意していてくれるだろう。
 部屋で食べられるものなら、持っていって作業ついでにつまめばいい。そう考えていた。
「久しぶりね、キラ君」
 キッチンに入った瞬間、声がかけられる。
「マリューさん?」
 どうして彼女がここにいるのだろうか。そう思いながらその名前を呼ぶ。
「休暇、という名の隔離よ」
 苦笑とともに彼女はこう言い返してくる。
「モルゲンレーテに地球軍の技術士官が来ているの。顔見知りだったから逃げて来ちゃったわ」
 マードックも一緒に、と彼女は笑う。その言葉に、キラは目を丸くした。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。顔を見られていないもの」
 そう言っても、と思わずにはいられない。
「それより、キラ君は大丈夫なの? 顔色が悪いわよ」
 眉根を寄せながらこう問いかけてくる。
「僕は、コーディネイターですから」
 こう言い返せば、マリューは深いため息をつく。
「違うでしょう? コーディネイターだって人間なのよ。無理は禁物だわ」
 そのまま彼女はそう言った。
「いいでしょう。カリダさんにも頼まれたし、ここにいる間はちゃんと面倒を見てあげるわ」
 だが、すぐに表情を和らげるとこう言ってくる。本気で自分は彼女たちの監視対象らしい。
「お手柔らかにお願いします」
 そう言うしかないキラだった。

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最遊釈厄伝