傀儡の恋
32
「……私にプラントに行けと?」
ブレアに確認するように聞き返す。
「あそこは私にとって鬼門だとわかっていて言っているのかね?」
さらにこう付け加えた。
「ええ」
彼はあっさりと頷いて見せる。
「他のメンバーはもっと鬼門ですから」
この言葉にラウはかすかに眉根を寄せた。
「どういうことかね?」
「あなたと違い、他のメンバーはなくなったときと同じ年齢のものが多いのですよ。言い逃れが出来ないほどにね」
確かに、今に自分は本来の年齢よりも八歳近く若い。
身体的特徴も微妙に差異があるはず。
それを盾に別人だと言い切ればそれ以上追求されないのではないか。
「……不本意だが、仕方がないね……」
小さなため息とともにそう告げる。
「すみません。僕が動ければ一番よかったのですが……」
「彼女に何か言われているのだろう? 我々はその指示通りに動くだけだ」
あくまでも自分達は《一族》の駒でしかない。半ば自分に言い聞かせるようにラウは言葉を綴る。
「そう、ですね」
ブレアはそう言うと顔を伏せた。
「それで、いつ発てばいいのかな?」
ともかく、話題を変えようとそう問いかける。
「一両日中には……流石に、あちらで使えるIDとなると、それなりにしっかりとしたものでなければなりませんから」
つまり、オーブでは多少穴があるIDでも通用していたと言うことか。今のオーブの中枢がどれだけ骨抜きにされているか、想像に難くない。
「わかった。その間、図書室を使ってもかまわないかね?」
時間があるなら知識欲を満たしておきたい。そう思って問いかける。
「かまいません。ただし、閲覧できないものには制限がかかっていますよ」
「問題はないよ。私が見たいのは紙の本だからね」
モニターに映し出される資料よりもそちらの方が呼んでいて楽しい。もっとも、それは個人的な趣味かもしれない。
「それならば大丈夫でしょう」
ブレアはそう言って頷く。
「では、準備ができ次第、声をかけてくれたまえ」
そう告げるとラウはきびすを返す。ブレアもそれを止めることはなかった。
窓を叩く音がする。なんだろうと思って視線を向ければ、バルトフェルドが手招いているのが見えた。
「どうかしたんですか?」
そう言いながらキラは立ち上がる。
「たまにはお前を連れ出そうと思ってな」
「……毎回、そう言われているような気がしますが……」
小さなため息とともにそう言い返す。
「気にするな」
いや、気にしたい。そう思っても、口で彼に勝てるとは思えない。実力では言わずもがなだ。
「俺にとってはここに来たときだけだからな」
それに、こう言われては反論が出来ない。
「……すぐに動けなくなりますよ、僕」
「わかっている。だから、連れ出すんだろうが」
苦笑とともにバルトフェルドが言葉を返す。
「それに、俺のリハビリにもちょうどいい」
さらにこう付け加えられては反論しようがない。
「……わかりました」
そう言うと同時に部屋を出る。
「と言うわけで、今日はつりだぞ」
前回坊主だったのがそれほど悔しいのか。そう思わずにいられない。
「……はい」
それでも付き合わないという選択肢は残されていないキラだった。