傀儡の恋
19
見た目はブレアとそう変わらない。いくつかは年上だろうが、まだ少女と言ってよいのではないか。
そう考えたところで、微妙な違和感をラウは覚えた。
いったい、それは何なのだろう。
「これがそうなの?」
その答えを見つけ出す前に少女が口を開く。
「適任だと思いますが?」
ブレアが静かな声音でそう告げた。
「少なくとも、他の面々よりは、です」
その言葉に少女は少し考え込むような表情を作る。
「他の者達にはそれぞれ役目があるか」
確かに、と彼女は呟く。
「不本意だが仕方がない」
だが、とまっすぐに少女はラウをにらみつける。
「監視はつけるぞ」
そして吐き捨てるようにこう言った。
「貴様が有能なのはわかっている。だが、私は貴様を信じていない」
自分以外、誰も信じていないのだろう……とラウは心の中で吐き捨てる。
「だが、信じていないからと言って放り出すのももったいないからな。貴様らには金がかかっている」
ならば最初から死んだままにしておいてくれればいいものを。そう思わずにいられない。
あの瞬間であれば、何の未練も抱かずにすんだのだ。
だが、今こうしていれば新たな欲望が生まれてくる。それはかなえられないとわかっているのに、だ。
「そういうことだ。よく言い聞かせておけ」
ブレアに向かってそう言うと彼女は立ち上がる。
「わかりました」
凪のような、何の感情を感じさせない声音でブレアはそう言い返す。
「安心しろ。私を裏切らないうちは可愛がってやろう」
そう言い残すと彼女はそのまま部屋を出て行く。
その背中がドアの向こうに消えた瞬間、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
「どうした?」
反射的にその腕を捕まえると、ラウはそう問いかける。
「大丈夫。少し疲れただけ」
そう言いながらブレアはゆらりと立ち上がる。
「それよりも、こちらへ。あなたにして欲しいことを説明します」
そう言うと疲れた足取りで移動を開始した
その様子はかつての自分よりも年齢を重ねているように見える。
いったい、何が、彼をそこまで疲労させたのだろうか。
先ほどの少女が原因だろうが、と内心で首をひねる。自分にはさほど怖いと思えなかった。あるいはある程度免疫疫があったからかもしれない。
そんなことを考えながら目の前の背中を追う。
以前の自分からすれば小さな、だが、今の自分とそう変わらない背中に、ラウは違和感を覚える。
彼はこんなに大きかっただろうか。
それともただの錯覚か。
しばらく会っていなかったから記憶の中で補正をしてしまったのかもしれない。
だが、と心の中で呟く。
彼はあの男のクローンだ。クローンの悪い面が協調されたのであれば、不具合が出たとしてもおかしくはない。
つまり、自分もその可能性があると言うことか。
一度死んだ身である以上、あまりあれこれとは言いたくないが、ショックがないわけではない。
だが、もしそうだというのであれば、最後にキラの顔を見に行きたいと思う。
その願いは叶えられるだろうか。
ラウがこことの仲でそう呟いた時だ。
「君にお願いしたいのは、彼の監視です。一族は彼と彼女を危険視しているので」
彼の言葉とともにモニターにキラの姿が映し出される。
「ただし気を付けてください。今の彼はマルキオ師が所有している島にいます。下手に近づくと監視していることがばれるでしょう」
その言葉も耳をすり抜けていく。
どうして彼はあんな表情をしているのか。
ひょっとして、それは自分のせいなのか。
そんな思いのまま、モニターに映し出されたキラの姿をただ見つめていた。