傀儡の恋

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 自分達の他にもカーボン・ヒューマンはいるようだ。
 しかし、何故かラウはブレア以外のものと顔を会わせたことはない。
 そこに何か意図があるのだろうか。
 ふっとそんな疑問がわき上がってくる。
 それもきっと、時間的な余裕があるからだろう。このトレーニングは体は動かしてもさほど頭脳は必要としないのだ。
 確かにこの体は以前のものと同じように作られているらしい。感覚さえ思い出せば動くことに支障はない。
 しかし、まだまだあちらの望むレベルではないのだろう。自分にかけられる声は最低限だ。その誰かに問いかければいいのかもしれない。
「と言っても、誰に問いかけていいか、わからないが」
 下手な行動を取った場合、どのような判断を下されるかわからないのだ。
 ブレアならばかまわないだろう。しかし、彼は答えてくれないような気がするのだ。
 彼は何かを隠している。
 それがいったい何なのか。
 つきあいが浅い自分には推測することも難しい。
 これがムウやレイであれば手に取るようにその考えを読み解くことが出来るのに、だ。
「同じ遺伝子から生み出されたとはいえ、環境が違えば別人になると言うことか」
 レイが自分によく似ているのは、彼が自分のそばにいたからだろう。
 自分を目標にしてはいけない。そう言っていたにもかかわらず、彼は自分の一挙一足をまねしようと見つめていたのだ。
 自分も彼に本音などを隠さなかったし、とラウはため息をつく。
「その上、ギルが教育していたからな」
 レイには自分の出来なかったことをして欲しいと思っていたものを、と彼は続ける。自分とは違い、時間と選択肢はたくさんの超されていたのだ。それなのに、自分が離れている間にあれこれと吹き込んでくれたらしい。
「あの男も今となっては要注意だな」
 何をしようとしているのか。概要だけでもつかんでおきたい。
「こうなると、端末を使えないのは辛いね」
 せめてデーターの収集ぐらいはしておきたいのだが。ため息とともにそう呟く。
「そこまでにしておけ」
 不意にそばに付いていた研究員が声をかけてくる。
「わかった」
 素直にしたがっておいた方がいいだろう。そう判断して素直にマシンから降りる。
「汗を流したら医務室に来るようにだそうだ」
「検査だろう。承知している」
 男の言葉にこう言い返す。
「素直なのはいいことだな」
 その言葉に微妙なイヤミが混じっていたのをラウは聞き逃さない。
 だが、今の立場では仕方がないのか。それでも、望んで首輪をつけられたわけではない。いずれ食い破って見せよう。そう心の中で呟いていた。

 椅子に座りながら空を見上げる。
 そこには無数の星が輝いていた。
 あの戦いの最中にみた星空は、戦場だというのに美しかった。
 だが、それに気づくことなく命を落とした者達も多い。
 その中の何割かは自分がこの手で殺した。
 キラはゆっくりと視線を己の両手に向ける。そこには傷ひとつないきれいな手のひらが確認できた。
「……僕は……」
 本当に正しいことにしたのだろうか。そう呟く。
 ひょっとしたら、彼の言葉の方が正しかったのではないか。そうも考える。
 それでも、自分にはあの選択肢しかとれなかった。
 誰かを見捨てるなんて出来なかった。
「わからない」
 何が正しくて何が間違っていたのかなど、とため息をつく。
 それでも誰かに『お前は間違っていなかった』と言って欲しい。それも、今ここにいる人間以外に、だ。
「世界はどこに向かっているんだろう」
 答えは出ない。
「出来れば、優しい世界でありますように」
 そこに自分の存在はなくてもいいから。キラはそう呟いていた。

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最遊釈厄伝