傀儡の恋
09
ギルバートから送られてきたその情報を見た瞬間、大地がひっくり返るような感覚に襲われた。
「まさか……キラがあの子供だったとは……」
生きていてくれたのか、と喜ぶ自分がいると同時に、何故、と叫ぶ自分もいる。
「確かに、ヴィアには妹がいると聞いたことがあったが……」
記憶の中のカリダは彼女にあまり似ていない。だからあのとき、気づかなかったのだろうか。
同時に、彼女は自分が《自分》だと知っていて世話をしてくれたのかと思う。
もしそうだとするならば、彼女は姉夫婦が死んだ原因が自分にあると知らなかったのだろうか。それとも、知っていて世話をしてくれたのか。
どちらが正しいのかはわからない。
「……だからと言って、あの日々の記憶が失われるわけではない……」
自分に言い聞かせるようにラウはそう呟く。
もっとも、と彼は小さなため息を漏らした。
自分自身の手でその日々を粉々にする可能性はある。――あのときのように、だ。
出来れば、それだけは避けたい。
しかし、ガモフからの報告では、キラはまだ足つきと行動を共にしているらしい。
「友だち、か」
アスランの話では、キラを縛り付けているものは友人らしい。それもナチュラルの、だ。
それがアスランには気に入らないらしい。
本人は『ナチュラルごときがキラを縛り付けている』という事実が認められないのだ、と言っていた。
だが、それは真実ではないだろう。
彼はキラが自分以外の存在を『友だち』と呼ぶのがいやなのだ。
独占欲、もしくは支配欲。
それが一番近いものだろう。
もっとも、本人はそれを認めないに決まっている。そして、自分も認められない。
いずれはキラも誰か一人を選ぶのだろう。だが、その一人がアスランであって欲しくない。
「今はあの男がそばにいるしな」
気に入らない、と呟く。
「……私と同じでなければ、レイあたりをと思ったこともあったのだがね」
だが、レイはギルバート以外の人間は目に入っていないようだ。個人的には微妙だが、彼本人がそう決めたのであれば認めないわけにはいかないだろう。
「出来れば、それは私の役目であればよかったのに」
無意識に呟いた言葉で、ラウは自分の感情が何に根付いたものなのか理解する。
彼はまだ自分の存在に気づいていないだろう。だが、お互い戦場にいるならば、気づかずに終わるはずがない。
何よりも、自分の名前はそれなりに有名らしいのだ。
いずれ彼の耳に入るに決まっている。その時、彼はどう思うだろうか。
そして、自分の命の砂時計は、既に残り少ない。
例え彼の隣を望んでも、それを手にいてられるだけの時間はないのだ。
何よりも、自分は彼の両親を死へと追いやった人間である。
「君は既に知っているかもしれないがね」
カリダが話しているかもしれない。
それとも、まだ知らないままなのだろうか。
そうであって欲しい、と願ってしまうのは、自分が弱いからかもしれない。
「私は、君に何を残せるのだろうね」
苦笑とともにそう呟く。
「本当に迷ってばかりだよ」
そんな時間はないというのに、と付け加える。
「割り切ることが出来ると思っていたのだが……」
どうやら無理そうだ。
「こういうときに、仮面の存在はありがたいね」
それだけが理由ではないのに、と思いつつも指先でそれに触れる。
「さて……どこまでこの感情を殺せるかな」
既に動き出した歯車は、既に自分一人の意思で止められない。
「……もし、全てが無駄になるのなら……せめて君の手で……」
その後の言葉は声になることはなかった。