傀儡の恋
06
プラント最高の研究者でもあるギルバートでもラウの寿命の問題はどうすることも出来なかった。
自分と同じ存在であるレイのそれも、だ。
その事実を告げられたとき、自分の中で何かが壊れてしまったのかもしれない。ラウはそう考えている。
「……自分達が生み出したものに責任がとれぬと言うなら、その責任は取ってもらわなければいけない」
キラ達と出会い、ギルバートやレイと暮らすようになって消えかけていた思考がまた息を吹き返す。
自分達が消えた後にこの世界が存在しているのは許せない。
残っていたとしても無傷というのはいやだ。
せめて自分が生きていたという証を刻みつけたい。
それが虚しい行為だとしても、だ。
「君たちはこんな私を恨むだろうか」
それとも、とラウは呟く。
「哀れんでくれるのだろうか」
どちらが正しいのか。その答えを知る術はない。
自分がプラントに来て十年ほど。その間に、ちきゅう連合とプラントの関係は坂道を転がるように悪化していった。
そして、月は大西洋連合の本拠地でもある。
そんなところで、第一世代とはいえコーディネイターの子供を抱えた家族は暮らしにくかったのだろう。彼らは引っ越してしまったようだ。以前のメールアドレスもつかえなくなっている。
「……まさかとは思うが……」
最悪の状況を想像してしまったとしても罪はないだろう。
だが、ラウはすぐにその考えを否定する。
彼らだけには無事に生き延びていて欲しい。
そう考えてしまうのは、自分が彼らの前で素の姿をさらしていたからだ。
誰かには素の自分を覚えていて欲しい。
もう一つの願いと矛盾しているとはわかっていても、そう希望してしまう。
あるいは、この矛盾があるからこそ人はここまで進化できていたのかもしれない。
「……それに、今の世を壊滅させても、人類が滅亡するわけではないしね」
火星に向かった者達もいる。
そうでなかったとしても、自分一人で地球を死の星にできるわけはない。
だから、人類は生き残るだろう。
その中に彼らがいてくれることを祈るぐらいは許されるのではないか。
この時は、そう考えていた。
すぐにラウはザフトと名を変えた軍の中でも頭角を現していった。
それは彼の目的にとって必要なことでもある。
忠実で有能な指揮官。
ラウのことをそう言うものは多い。
だが、彼の裏の顔を知る者はごくわずかだ。
情報を売り、世界を混乱させている。その中にはMSの設計図もあった。
おそらく、近いうちに地球軍もMSを配備してくるだろう。
それが最後のトリガーになる。ラウはそう考えていた。
その日が楽しみでならない。
「世界はどの選択肢を選ぶのだろうね」
運命という言葉は嫌いだ。
しかし、これに関してばかりはそう言うしかない。
それはラウが想像していた中で一番残酷なものだった。