傀儡の恋
07
地球軍のMSをモルゲンレーテが開発していたというのは予想の範囲内だ。
その協力者がこのプラントのどこにいるのかわからない。だから民間人がどれだけ被害を受けても仕方がない。
被害者の数は妥協するしかないのだ。
だが、それは自分と関係のない人物である場合だろう。
「……あいつは、お人好しで……だから、きっと利用されているだけなんです!」
アスランが目の前でそう訴えている。
そう言えば、キラのそばに《アスラン》と言う名前の子供がいた。よくある名前だからと気にしていなかったが、実は彼だったのか、と今更ながら気づいた。
しかし、それらの多くはラウの耳をすり抜けていく。
ここに彼らがいたとは予想もしていなかった。どうしてその可能性を自分は排除していたのだろうか。まさしく、後悔先に立たず、だ。
だが、それについてはまだいい。
避難する時間はあったはず。被害も限定的だったはずだ。少なくとも作戦開始時には、だが。
そうであれば、自分達が去った後にここで再び平穏に暮らすことも可能だろう。
あるいは、オーブ本土に移住するという選択肢もあるのではないか。
しかし、地球軍の艦船に連れ込まれたのであれば話は変わってくる。
このままでは、彼はプラントの敵になりかねない。そうなってしまえば、誰も彼をかばえなくなるだろう。
その前に彼を保護したい。
だが、自分が直接動くわけにはいかない。
それ以上に厄介なのは、あの男が彼のそばにいることだ。
あの男がどれだけ人好きされる性格をしているのか。ほんのわずかとはいえ、一緒に暮らしていたからよく知っている。自分とは正反対だ。
ひょっとしたらキラも彼にひかれてしまうのかもしれない。それは仕方がないことだとわかっている。だが、何故かもやもやとした感情がわき上がってくるのだ。
それが『嫉妬』だと言うこともわかっている。
自分にとって幸せの象徴とも言える相手を後から出てきて奪っていくだろう相手に対しての、だ。
本当にこの矛盾はどうすれば解消出来るのだろう。
世界を壊そうと考えているのに、未だに捨てきれないものを抱えているのだから。
だが、とすぐに思い直す。
自分が動けなくても目の前の部下を利用することは可能だろう。
「……この空域を離脱するまでは、君が何をしようと見て見ぬふりをしよう」
さりげなく彼をたきつける。
「わかりました。ありがとうございます」
アスランは表情を明るくするとこう言ってきた。
その表情から判断をして、彼は自分が利用されているとは考えてもいないのだろう。ある意味、扱いやすいとも言える。
だが、普段の彼はそうではなかったはず。
これはやはり《キラ》がかかわっているからだろう。
この執着がよい結果を残してくれればそれでいい。
だが、万が一、アスランが失敗するようなことになったらどうするべきか。それも考えておかなければいけないだろう。
「話がそれだけならば下がりたまえ」
とりあえず、一人になりたい。
そう考えてアスランにこう告げる。
「はい。お時間を割いていただき、ありがとうございました」
言葉とともに彼は軽く頭を下げた。そのままきびすを返すと床を蹴りドアへと向かう。
そのまま通路へと姿を消した。
「……本当に皮肉だな」
それを見送ると、ラウはドアにロックをかける。そして、顔の半分を覆っている仮面を外す。
そこには精悍と言える容姿が隠されていた。
「これは偶然か」
だが、その若々しさには似つかわしくない濁った眼球が室内を見回す。
「それとも、私を止めようと何かが動いているのか」
どちらが正しいのか、ラウ本人にもわからない。
それでも、もう止められない。
いや、止めるわけにはいかないのだ。
「いずれ、選択を迫られるだろうな」
何を選ぶかを、と彼は口の中だけで付け加える。
あるいは、最後まで選べないのか。
未来を知る方法がない以上、ラウにはわからなかった。