傀儡の恋

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  02  



 どうやってここまで来たのか。自分でも覚えていない。
 だが、ここから先へ移動することの方が難しい。
「……カードが止められていたとは……」
 あの男が死んだ以上、与えられていたカードは止められるだろうと予想していた。だから、あえて別口座を作っていたのに、とラウはため息をつく。
「手持ちの金では、プラントに行くのがせいぜいか」
 シャトルには乗れる。
 しかし、次のシャトルが出発するまで一週間近くあるのだ。
「タイミングが悪い」
 プラントまでつけば金を持っていなくても何とかなると聞いた。そんな風に、身一つで逃げ込む第一世代が多いからだとか。
 しかし、現実問題として、一週間も飲まず食わずというのは不可能だと言っていい。
 どうするか。
「最優先は、プラントへのチケットですね」
 それは間違いない。
「後は……連中に捕まらないようにすること」
 そうなれば、自分は間違いなく《処理》されるだろう。
 それでは、あの人達を犠牲にした意味がなくなる。
「食事は、何とかするしかないな」
 最悪、水さえ飲んでいれば死ぬことはないだろう。
 後は寝場所か。
「……ここは天候も管理されている。そう考えれば、地上よりましか」
 そう呟くと、ラウは立ち上がる。そのまま、どこか疲れた足取りで歩き出した。

 しかし、ここで想像もしていなかった出会いがあった。

 あと三日、この状況に耐えれば、プラント域のシャトルへ乗り込める。
 しかし、だ。
 既にラウの体は限界を訴えている。
 このままでは動けなくなってしまうだろう。そんな状態で誰かに発見されれば、病院に収容されてしまうのは目に見えていた。
 それは避けなければいけない。
 自分の秘密がそう簡単に露見するとは考えていない。それでも、シャトルに乗れなくなるのは確実だ。
 だが、このままここにいても同じことだろう。
 何か打開策はないだろうか。
 真っ先に思い浮かんだのはお金を入手することだ。
 非合法な手段だとしてもかまわない。そんなことすら考えてしまう。
 しかし、その考えはすぐに捨てた。
 実際に実行に移すとなれば、かなりのテクニックと機材が必要になる。前者はともかく、後者に関しては自分の手元にはない。だから、実行に移すのは不可能だ。
 スリや何かも考えたが、リスクが高すぎる。第一、自分の今の体力では人混みまで歩いて行けそうにない。
「八方ふさがりか」
 無事にプラントまでいけると信じていた。だが、それは全て、机上の空論だったと言うことか。
「結局、俺は何も出来ないまま消えるのか」
 その事実は悔しい。
 だが、自分にはどうすることも出来ない。
 結局、今の自分は何も出来ない、十四歳の子供でしかないのだ。
 その事実にラウは唇をかむ。そのまま背中をビルの壁に預けると目を閉じた。
「……俺は……」
 何かを言おうとしたのに、言葉にならない。
 それはきっと、自分の中でまだ完全に形になっていないからだろう。
 あるいは疲労がたまりすぎて思考能力が落ちているのか。
 実際、体から力が抜けていくのがわかる。
 このまま意識を手放したら二度と目覚められないのではないか。そう考えたときだ。
「お兄さん、どうしたの? 具合でも悪いの?」
 柔らかな声が振ってくる。そう認識したのが、その場での最後の記憶だった。

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最遊釈厄伝