傀儡の恋

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  01  



 燃えさかる炎をそれとは真逆の視線で見つめていた。
「あなたの言っていたことが正しかったようですね」
 自分の主治医とも言えた女性の顔を思い出しながらラウはそう呟く。
「それとも、あなたが俺をこの世界に誕生させたから、全てわかっていたのかな?」
 いずれはこうなると言うことが、と続ける。
 それでも、あの男と違って彼女には恨みを感じない。それは、彼女が自分の状況を少しでも変えようと努力してくれていたからだ。
「……あのまま、あなたやあなたの子供達と一緒に暮らしていたら、俺は幸せだったのでしょうか」
 そう問いかけても答えは返ってこない。
 だが、ラウもそれを気にする様子はなかった。
「無理ですね」
 最初から答えが勝ってくるとは思っていなかったのだ。
「あなたもあの子達も、もうこの世にはいない」
 自分が引き金を引いたのだ、とラウは口の中だけで付け加える。
「その方が、あの子達にとっては幸せでしょう?」
 少なくとも、誰かに利用されることはない。それに、もう命を狙われることもないはずだ。
 それでも、と心の中で呟く。
 もし、何かの奇跡が起きて彼女達と出会えたら、自分はどうするのだろうか。
 だが、それに関する答えはすぐに見つからない。
「そう遠くない未来、俺もそちらに行くでしょうしね」
 自分の寿命はそう長くはない。
 彼女があれこれと手を尽くしてくれていたが、それでも、すぐにどうこうできる問題ではなかったはずだ。
 もちろん、彼女があきらめていなかったことも知っている。あるいは、あのままであれば何か解決方法が見つかったのかもしれない。
 その未来を壊したのも自分だ。
「もっとも、俺は貴方たちと同じ場所には行けないでしょうけど」
 全ての罪は自分に。
 あるいは、あの炎の中で燃え尽きようとしている男にだろうか。
 それとも、とさらに続けようとしてやめる。
「後から考えればいいことだな、それは」
 その人間の善悪など、その時の情勢によって変わるものだ。だから、自分が考えたところで結局は自己弁護にしかならないのではないか。
 何よりも、と彼は嗤う。
 自分が脳裏に思い描いているこの計画を実行に移すならば、今までの行動はささやかだと言われることになるかもしれない。
 もっとも、それまで生き延びることが出来れば、の話ではあるが。
「……そろそろ移動するか」
 ここで掴まっては意味がない。
 それでは、自分がしたことが無駄になる。
 ラウはそのままきびすを返す。そして、そのまま彼は歩き出した。

 背後から誰かの叫び声が響いてくる。
 しかし、ラウはそれを耳にしても足を止めることはなかった。

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最遊釈厄伝