「……君のプログラマーとしての実力は、かなりのレベルらしいね……」 げっそりとした表情を浮かべながらバルトフェルドはキラにこう言ってくる。 その理由は簡単。 キラが作ったバルトフェルド限定位置探査システムのおかげで、逃げ出しても即座に居場所が見つかってしまうのだ、彼は。ここ数日、気晴らしと称してコーヒーのブレンドもすることができないらしい。 「……ごめんなさい……」 そんな彼が淹れてくれたコーヒーを受け取りながら、キラが謝罪の言葉を口にする。 「いや、いいよ。その実力がわかっただけでもこちらとしては有意義だし……ダコスタ君なんか、君に何を頼もうかとリストアップしていたよ」 何気なく付け加えられた言葉を耳にした瞬間、キラの表情がこわばった。 「……僕は……」 戦いに関わる事はしたくない……とキラは呟くように口にする。 「わかっているよ。だから、とりあえず却下しておいたが……あの様子ではどこまで通用するか……ともかく、いやなら断っていい」 それだけは言っておこうと思ってね、とバルトフェルドは微笑む。 「……はい」 多分、それは甘えなのだろうと思いながらも、キラは素直に頷いた。彼の前で強がっても意味がないことはわかってたのだ。 「で、君の方の話、というのは何なのかな? お願いがある、と聞いたんだが」 何かな、と言われてキラは一瞬ためらうような表情を作る。だが、直ぐに思い直して口を開く。 「父さんと、母さんの……墓参りに行きたいんです……」 バルトフェルドとアイシャのおかげでようやくその事実を認識することができた。ならば、子供としてのけじめとして、それくらいはしなければいけないのではないだろうか。キラはこう付け加える。 「ようやく、そこまでキラの精神状態が安定した……と言うことだね」 ふっと微笑むと、バルトフェルドが大きく頷いた。 「バルトフェルド、さん?」 「もちろん、いいに決まっているだろう。僕が……と言いたいところだが、しばらく動けそうもないからね。アイシャに声をかけておこう」 彼女もキラがそう言い出すのを待っていたからね、と付け加えられて、キラはふっと視線を落とした。 「すみません」 とっさにキラはこう口にする。彼らがこうして自分を見守ってくれたことが改めてわかったのだ。 「その、直ぐに謝る癖は直した方がいいな」 君が悪いことは何もないだろうとバルトフェルドは口にしながら、キラの髪を撫でる。 「それに、君の希望は当然の要求だろう?」 子供として、といいながら、バルトフェルドはキラの瞳を覗き込んできた。 「僕だって、そう思うからね」 両親の墓参りは、当然の権利だろうと言う彼の言葉に嘘は感じられない。 「……ありがとうございます……」 キラは微笑むとこう告げる。 「なに。気にすることはない。ご両親にしても、君がお参りをした方が喜ばれるだろうし」 何より、自分から外に出たい……と思ってくれたことが一番嬉しいよ、と付け加えると、バルトフェルドは体を起こす。 「ただ、十分気をつけるんだよ。アイシャや護衛の者にはよく言っておくが……」 ここ数日、ブルーコスモスのテロが横行しているのだ……とバルトフェルドは言いにくそうに告げる。 「……また、誰かが死んでいるんですか?」 不安そうな声に、バルトフェルドは首を横に振ってみせる。 「どうやら、君のご両親の一件がオーブその他で問題になっているらしい。さすがに同じナチュラルからの非難は受けたくないのだろうな。ナチュラルを巻き込みそうな場所でのそれは収まっているよ。そして、今我々の所にそれに引っかかるような間抜けはいない」 だから、心配しなくていい……とバルトフェルドは笑った。 「せいぜい、建物の風通しが良くなるとか、地元の建設業の者たちの懐が潤っている程度だよ」 死人どころか医者の治療が必要な怪我人も出ていない、とバルトフェルドが口にする。それをどこまで信用していい物か、とキラは小首をかしげた。だが、ドクターの所に自分以外の者がいるシーンを見たことがないから、そうかもしれないと思う。 「なら、いいのですけど……」 どこかほっとしたようにキラは口にした。 「本当なら、いっそ、バクゥでもつけてやりたいところだが……あぁ、あれならいいか」 テスト用の機体があったか、とバルトフェルドが考え込む。 「って、MSですか?」 「まだ武装はつけていない、開発中の、だよ。それでも、多少の牽制にはなるし、第一、あいつらが使っているような武器では傷一つつけられないだろうしね」 その方が安心かな、と呟く彼に、キラはそれ以上反論を言えなくなってしまう。 「……そのMSのOSって……」 見てもいいのでしょうか、とその代わりのようにキラが口にした。 「武器だよ?」 「でも……制御系には興味がありますし……上手く使えば、MSはコロニーの建設とか、宇宙空間での人命救助とかに使えるんじゃないかと……」 思うんです……と呟くキラに、バルトフェルドは目を細める。 「あの……」 その意味がわからずに、キラは不安そうな表情を作った。 「そう言うことなら、後でバクゥ以外のMSのOSも見せてあげよう」 何か気がついたことを教えてくれれば、それで言い訳は立つし……と言われて、キラはどうしようかと視線をさまよわせる。だが、その程度はしなければバルトフェルドが何か処分を受けるかもしれない。 「……僕の意見なんかが参考になるんでしたら……」 それ以上に好奇心がキラにこう言わせた。 「あぁ、無理はしなくてもいいからな」 それで体調や精神状態が悪くなっては意味がない……とバルトフェルドが笑う。 「第一、多少の事では何も言われない程度の業績は上げているからね、僕らは……」 だから、心配することはない……とバルトフェルドは口にした。 「はい」 その言葉に、キラは柔らかな笑みを浮かべる。 「みんなががんばっているって、知っていますから」 キラがこう口にすれば、バルトフェルドは満足そうに頷いて見せた。 |