「本当に、無茶をしたものだ」 キラの体を膝の上にのせながら、バルトフェルドがため息をつく。 「……だって……」 自分はいけないことをしたのだろうか、とキラは不安そうな表情を作った。 「あぁ。怒っているわけじゃない。ただ、驚いただけだよ」 その表情に気づいた彼は、キラの体をきつく抱きしめるとこう囁く。 「アイシャは来ると思ったが、キラも一緒だとは思わなかったからね」 戦いの場は嫌いだろうとバルトフェルドがキラの頭を撫でながら微笑みかける。 「……バルトフェルドさんがいなくなるのは……いやだったから……」 戦いに関わるよりも、そちらの方が怖かったのだ、とキラは口にした。そして、そのままバルトフェルドの胸へとすがりつく。 「そうか」 この言葉にどう反応を返せばいいのか、と言うようにバルトフェルドはアイシャへと視線を向ける。 本心を言えば嬉しいのだが、ここで素直に喜んだときに、キラの精神が大丈夫なのか判断できなかったのだ。 「アンディ……顔がにやけているわよ。どうせなら、ちゃんとほめてあげなさいって」 そんな彼に向かって、アイシャがこう告げる。 「キラは他にもがんばったんだもの」 ね、とアイシャは言外に大丈夫だと彼に答えた。 「……そう言えば、いつの間にあれの武器システムを完成させたんだい?」 基本OSとのかねあいでもうしばらくかかると聞いていたのだが、とバルトフェルドはキラを撫でながらアイシャに問いかける。 「あの直前よ。だから言ったでしょう? キラはいろいろとがんばったんだ、って」 キラが完成させたの、とアイシャが微笑む。 「……キラ?」 この言葉に、バルトフェルドが目を丸くする。 「……ごめんなさい……勝手なことをして……」 バルトフェルドの腕の中でキラが体を縮こまらせた。 「キラは僕が怒っていると思うのかい?」 こらこら、とそんなキラにバルトフェルドは声をかける。 「本当、キラはすごい子だ。あれは皆が手こずっていたのだよ。それを本当に短い時間で完成させるとは」 そう口で言いながら、バルトフェルドは厄介なことになったかもしれない事心の中で付け加えた。 まだ詳しい分析はすんでいないが、あのシステムはかなりのレベルだろう。もちろん、微調整は必要だろうが、十分にあのバクゥの性能を引き出していた。つまり、キラのプログラミングの能力は、武器開発の場に置いても通用すると誰もが認識をしたと言うことだろう。 各地に展開する隊のために、本国では次々と新しいMSを開発している。だが、それのシステムを構築する者は逆に不足していると言っていい。つまり、有能な人物はザフトとしてはのどから手が出るほど欲しいと言うのが実情である。 「……問題は、これが知られれば……キラをザフトに入隊させろ、と圧力がかかるだろう、と言うことだけなんだが……」 さて、どうするか……とバルトフェルドは呟く。 キラを守る、と言うことは自分が決断したことだ。もちろん、それは周囲のものの協力がなければできなかったことではあるが。 「……キラは、いやだろう?」 それは、とバルトフェルドはキラの顔を覗き込む。 「……僕は……」 彼の視線を正面から受け止めながら、キラは自分の考えを口にしようとし始める。だが、上手く表現できないのだろうか――それとも、何か葛藤があるのか――直ぐに言葉に詰まってしまう。 「ゆっくりでいいよ、キラ。時間はたくさんあるからね」 そんなキラにバルトフェルドが優しく声をかけた。 「そうよ、キラ。アンディは待っててくれるから。ちゃんとまとめてからでいいのよ」 アイシャも微笑みながらキラの肩に手を置く。 「僕は、バルトフェルドさんとアイシャさんと……ここにいるみんなの命は守りたいと思うけど……」 他の人の命を守るために誰かを傷つけるのは……とキラは視線を伏せる。 「それでいいんだろうけど……でも、このままだとそう言うわけにはいかなくなるわね」 何かいい方法はないだろうか、とアイシャがため息をつく。 「一番いいのは、キラについて全ての責任を持てればいいんだけど……」 そのためにはどうすればいいのか、とアイシャは考え込む。バルトフェルドやキラも同じように考え込んでしまう。 「……現地任官と言うことにして、うちの隊の専属……という事にしてしまえば、僕の権限でシャットアウトできるだろうが、今度はダコスタ君がうるさいかな?」 あれこれさせたいとせっつかれているし……とバルトフェルドが苦笑を浮かべながら言葉を口にした。 「ダコスタ君に関しては、妥協するしかないわよね。キラも……彼は好きでしょう?」 アイシャが微苦笑と共にキラに問いかける。実際そうだから、キラは素直に首を縦に振った。 「後は……アンディ次第ね。本国に貢献をすれば、それだけ権限が大きくなるわ。がんばって貰うしかないわね」 キラのためだもの、当然、してくれるだろうけど……とアイシャはさらに笑みを深める。その意味ありげな表情に、バルトフェルドもまた笑顔を返した。 「わかっているよ。もちろん、そのつもりだ。でないと、また今回のような事になるからね」 それではキラの精神も安定しない、と言うのだろうとバルトフェルドは言葉を返す。 「……ごめんなさい……」 その瞬間、キラが小さな声でこう口を挟む。 「謝る事じゃないだろう? 僕にとってアイシャと君を守るのは当然のことだからね。そのための力を得ることは僕の義務だ」 それに、それがこの戦争を早々に終わらせるための手段なのであれば……と磊落な笑みをバルトフェルドは浮かべた。 「と言うわけで……書類を作ってしまうか。先に手を打てば、文句は言われないだろうし……誰も手出しをできないようにしておかないとな」 そして、キラがしたくないような仕事を全部却下できるように……とバルトフェルドはキラの髪を撫でる。 「……だからね。キラは大船に取った気で任せておけばいい」 ね、と言われて、キラはほっとしたような表情を作った。 「はい」 そして大きく頷く。 「いい子だね」 なら、本気でなんとかしよう、とバルトフェルドは口にする。誰にも文句を言わせないように、と。 もっとも、そのためのしわ寄せは結局アイシャとダコスタに行くのは目に見えていたが。その当事者達も文句を言うわけがないことはわかりきっていた。 |