「ふぅん……こいつ、装備を換装できるんだ」 最後まで目を通し終わったミゲルが、珍しく感心したように呟く。 「……さっき確認したら、三種類あるって……」 どこにあるかまではわからないけど……とキラは口にした。 「そうか……って事はあいつに確認して……マシューにでも取ってきて貰うか」 そうしたら、早々に艦へと帰還をする。そう告げた瞬間、キラの体がこわばった。 「僕……」 「大丈夫だ。隊長には既に話が通っている。お前が糾弾されることはないって」 実際、キラがこのMSを操縦した……などと知っているのは自分だけだ、とミゲルは付け加える。もっとも、あの様子を見ていたクルーゼは気づいているかもしれないが、それに関してどうこう言っては来ないだろう、と安心していた。状況から判断をして地球軍を糾弾する口実にする可能性は否定できないが。 「それに、あいつらにも約束したからな。俺が責任を持って守ってやるから」 誰にも何も言わせないから、とミゲルはキラに優しく言い聞かせた。 「……うん……」 ミゲルの言葉を真実と受け取ったからだろうか。キラは先ほどのように悩んだ様子は見せない。それでも他の心配があるのだろうか。どこかためらうような表情を作っている。 「……他に、何か心配事でもあるのか?」 いったい何についてだろう……とミゲルは思う。 「あぁ、あの地球軍の士官に関しては心配するな。少々手荒な扱いは受けるかもしれないが、殺されるとか何かって言ったことはない。一応、条約があるからな」 あちらが捕虜交換を申し入れたときには戻されるだろうし……とミゲルは口にした。だが、それでもキラの表情は晴れない。 「キラ? 言ってくれないとわからないぞ」 不安があるなら今のうちに口にしろ……とミゲルは口にした。何を言われてもあきれないし、怒らないから……とも。 そんな彼の言葉にも、キラは悩んでいる様子を見せる。 「……ミゲル……」 だが、このままではいけないと思ったのだろう。意を決したかのような表情でキラは口を開いた。それでもまだためらいか感じられるのはミゲルの気のせいではないだろう。 「何だ?」 できるだけ優しい口調を作りながら、ミゲルが聞き返す。 「アスラン……って、知っている?」 次の瞬間、キラの口から出たのはミゲルが予想していないセリフだった。 「アスラン? アスラン・ザラのことか」 人違いか、と思いながら確認の言葉を口にすれば、キラは小さいがしっかりと頷いてみせる。 「知り合いなのか?」 さらにこう問いかければ、 「月にいた頃の親友……僕は、今もそう思っているけど……」 彼がそうだとは限らない、とキラはどこか寂しそうな口調で答えを返してきた。 「……確かに、同じ隊にいるが……どこかで逢ったのか?」 でなけれ彼がいると言うことをキラが知るはずがない。アスランがザフトに入隊したのは『血のバレンタイン』の後だ。そして、その後は外部と連絡を取れる機会はなかったはず…… 「さっき……これの前で……」 「お前がこれに乗せられたときか」 それはまたものすごいタイミングでの再会だったな……とミゲルはため息をつく。 「と言うことは……お前があいつにこれに乗せられた状況をアスランも見ていた、と言うことだな」 なら、好都合だな、とミゲルは呟いた。 「ミゲル?」 「アスランも見ていたというのであれば、あの女士官が適当な事を言ってもあいつが訂正してくれると言うことだ」 そこまで最低な奴だとは思いたくないが、プラス材料は多い方がいいだろ、と言われて、キラは小首をかしげる。その表情から、相変わらず自分のことは二の次なのか、とミゲルはあきれたくなってしまった。 「……でも、それじゃ……」 アスランに迷惑が……とキラが口にしかけたときだ。 『ストライク! ラミアス大尉、ご返答ください!』 ストライクの通信機から女性の声が響き渡る。 「まだ仲間がいるらしいな」 咄嗟にスイッチを切りながらミゲルが呟く。 「急いで移動をしないとまた戦闘が始まりそうだ。後のことは向こうに着いてからにしよう」 かまわないな、と言う言葉にキラは素直に首を縦に振る。それは、もうここを戦場にしたくないとキラが思っているからだろう。 「大丈夫だ。連中がどう思っているか知らないが、これを持って帰った時点で、ザフトはこの宙域から撤退する。いくら地球軍の馬鹿共とは言え、敵がいなければ戦争のしようがないだろう?」 だから、大丈夫だ……と告げると、ミゲルはいったんOSを閉じる。 「さて……どこにあるかな」 見当が付かないか、と軽い口調でミゲルはキラに問いかけた。 「これがモルゲンレーテの工場にあったから……多分その敷地内だと思う。見慣れないトレーラーもあったし……」 キラは記憶の中を探りながら言葉を返す。 「そう言うところも相変わらずだな。必要なくても記憶しているってか」 今回はありがたいけどな、といいながら、ミゲルはシートから立ち上がる。そしてそのままハッチから身を乗り出すと下にいるであろうマシューに声をかけた。 「これの装備があるそうだ。面倒だから、これで取りに行って、そのまま脱出するぞ。最悪の場合、その女の仲間が助けに来るかもしれん」 「わかった! オロールも戻ってきている。先に行ってくれ。直ぐにジンで追いかける」 即座にこう答えが返ってくる。 「了解!」 それに了承の意を示すと、ミゲルは再びコクピットの中に戻ってきた。 「そう言うことだ。多少勝手が違うから揺れるぞ」 再びシートに身を沈めながら、ミゲルがキラに声をかける。 「あの……僕が……」 操縦しようか、とキラが口を開く。 「ダメだ。そうしたら、お前は二度とこの戦争から抜けられなくなるぞ」 その言葉を最後まで言わせずにミゲルが怒鳴る。 「いいな。もう二度と操縦するなんて言うな。OS……に関してはどうとは言えないところが悲しいがな」 しゅんとしてしまったキラに、ミゲルは再度念を押す。そしてストライクを起動した。 |