名残惜しそうだったサイ達を送り出した後、ミゲルはキラを連れてストライクのコクピットへと乗り込んだ。
 キラを脇に立たせたまま、ミゲルはシートへと腰を下ろす。
「……しかし、かなりジンとはレイアウトが違うな」
 目の前のコンソールを見つめながらミゲルが呟く。
「……キーボードなら……シートの下だよ……」
 そんなミゲルの耳に、キラのためらいがちな声が届いた。そんな彼に、ミゲルはいぶかしげな――だが、何かを確信したような――視線を向ける。
「右がタブレットで……左がキーボードだったはず」
 そんな彼に、キラは諦めたようなため息をつきながらさらに言葉を重ねた。
「あの女が使っていたのを見たのか?」
 ミゲルが問いかければ、キラは静かに首を左右に振ってみせる。
「さっき……これがザフトのMSに襲われたとき……足下にみんながいたから、僕が……」
 何故キラがこうまでも言いにくそうにしているのか、ミゲルにはだいたい想像が付いていた。
「お前が?」
 だが、ここできちんと口に出させておかないと、後々までキラを苦しめる結果になってしまうだろう。そう判断して、ミゲルは追及の言葉を口にした。
「OSを書き換えて……」
 これを操縦してジンを破壊したのだ……と吐息と共にキラは言葉を吐き出す。
「そうか……まぁ、俺も頭に血が上っていたからな」
 シートの下からキーボードを引っ張り出しながらミゲルはできるだけ軽い口調で言葉を口に出し始めた。
「足元まで見ている余裕はなかったし……あいつらがいたことがわかっていたらもっと他の場所に移動してから戦闘を開始したんだが……」
 ここまで口にした瞬間、キラが息を詰める。そのまま呼吸をすることすら忘れたかのように凍り付いていた。
「大丈夫だ。俺は生きているだろうが。怪我もしていない。だろう?」
 あの状況なら仕方がない、と口にしながら、ミゲルは手を伸ばすとキラの手首を掴む。掴んだキラの手はひやりとするほど体温が下がっているのに、汗が滲んでいる。それだけキラの中で衝撃が大きかった、と言うことなのか。
「ったく……」
 そう言うところは相変わらずだな……とため息をつきながら、ミゲルはキラの腕をひいた。そして、そのまま自分の膝の上に彼を座らせる。片手でキラの頭を胸へと押し当てると、
「ほら。ちゃんと俺の心臓の音が聞こえるだろう? ちゃんと生きている。お前は誰も殺していないって」
 だから、ちゃんと息をしろ、とミゲルは怒鳴るように口にした。
「……ぼ、く……」
「お前は自分と友人達を守っただけだろう? そのための道具がたまたまこれで相手が俺だった、と言うだけだ」
 巡り合わせって言う奴だって、といいながら、ミゲルはキラの髪を優しく撫でてやる。
「過ちは生きていればいくらでも償える。それに、お前が自分の意思でこれに乗り込んだわけはないからな。全部『事故』だったんだ」
 だから、そんなに自分を責めるな……と言っても、直ぐにキラは納得できないだろう。だが、このまま放っておけばさらに自分を追いつめるのだと言うことをミゲルは知っている。だから、少しでも納得をさせなければ、と言葉を惜しみなくキラの上に降らせた。
「……でも、僕が……」
 ミゲルを殺していたかもしれない……と口にすると同時に、キラの体が大きく震える。
「かもしれないだろう? ここにいる俺はお化けでも何でもないだろうが」
 生きているから、可能性だけで悩むんじゃない……とミゲルが口に出す。
「それに、どうしても俺に悪いって言うなら、知っていることを全部教えてくれ。とりあえずはそれでいい」
 な、と言えば、とりあえずキラは小さく頷いた。
「と言うわけで、お前が書き換えたというOSのチェックだな。本当楽しみだよ」
 お前のプログラムは非常に独創的だからな、とミゲルは話題を変えるように口にする。
「というか……あんなOSでこれを動かそうと考えていたなんて……無謀の一言だけなんですけど……」
 だから、つい……とキラは呟く。
「そうか……そんなにすごかったのか」
 だからナチュラルは……とミゲルはため息と共に吐き出した。
「……うん……普通に歩くとかなら何とかなっただろうけど……戦闘は無理だったとおもう。ナチュラルなら、余計に……」
 タイムラグが大きくなる、とキラは付け加える。
「全ての動きをコンピューターに計算させる気だった……って事か」
 何を考えているんだか、とため息を盛大につきながら、ミゲルはOSを呼び出す。
 モニターに表示されたそれにざっと目を通して、今度は別の意味でため息をついた。
「相変わらず見事だよな」
 自分が見知っているものとはまったく基本が異なっている。だが、はっきり言って今の状況でこれに手を入れることはミゲルの実力では不可能だと言っていい。
「……ここは……どうなるのかな……」
 そんなミゲルの耳に、キラのこんな呟きが届く。
「どうって?」
 キラが一体何を心配しているのか、ミゲルはわからずに問いかけ直す。
「ここも……戦場になるのかな……」
 地球軍がいて、そしてこんなものを作っていたから……とキラがぽつぽつと呟くように言葉を口にする。
「ならないさ。ナチュラルが嫌いな連中は多いが……さすがに中立国の民間人にまで危害を加えようって言う奴はいない。オロール達がサイ達にどんな反応をしたか、お前だって見ただろうが。これに関しては……責任はオーブ首脳陣にあるだろうが、お前らには関係ない」
 だから、何も心配はいらないんだ……とミゲルはキラに笑いかけた。
「……ミゲルが……そう言うなら……」
 信じる、とキラは呟くように口にする。
「いい子だ」
 微笑むと、ミゲルは再び作業を再開した。