どこかほのぼのとした一同の耳に、がさっと何かが動くような音が届く。 慌ててミゲルが視線を向ければ、そこに見慣れたパイロットスーツを身にまとった者たちの姿が見える。 「何でお前らがここにいるんだ?」 どこかほっとしたような口調でミゲルが問いかければ、 「隊長の命令だ。お前のフォローをしろと……で、そいつらは?」 うさんくさそうな視線でキラ達を眺めながらその中の一人が逆に聞き返してきた。 「ヘリオポリスの民間人で、ついでに言えば俺の知り合いだ。ここにいる地球軍の士官に協力を強要されていたんでな。保護したところだ」 ミゲルの言葉に、彼らはそれでも警戒を解かない。 「だが、ナチュラルだろう?」 「こっちの四人はな。こいつは第一世代だ」 視線でキラを示すと、ミゲルは彼らを睨み付ける。 「だからといって、ぞんざいに扱うな。ここにいるのはみんな、友人同士だからな。お前らにしても、同胞はもちろん、コーディネイターに偏見を持っていないナチュラルを減らしたくはないだろう?」 そして、思わず5人をかばうように位置を移動しながらこう告げた。 「悪い……そう言えば、ここはオーブ所属だったな……」 ふっと表情を和らげると、彼はこう言い返す。そして、サイ達4人の方へ視線を向けると、口元に微笑みを浮かべた。 「すまなかったな。普段、そこにいる地球軍の士官のような連中しか相手にしていないんだ。つい、偏見を捨てきれなかった」 そして、謝罪の言葉を口にする。 「いいえ……それに関しては俺たちもわかっています。キラやミゲルが特別だと言うことも」 悲しいですけどね、とトールが付け加えた。 「まぁ、お前らが来てくれたから人手が増えて安心だ。悪いが、オロール。彼らが安全なところに避難するまで守ってやってくれ。何も知らない連中に攻撃されたら困る」 4人に視線で合図を送りながら、ミゲルは言葉を口にする。 「わかっている。って、こっちの子供達だけでいいのか?」 脅かしたお詫びにな、と付け加えながらも、オロールが聞き返す。 「キラは……ザフトで保護をする。でないと、地球軍の連中に何をされるかわからないんでな」 それだけで何かを感じ取ったのか。オロールはミゲルに頷き返した。 「坊主達はこれからでも逃げ込める場所を知っているのか?」 ミゲル達が驚くほど優しい口調でオロールはサイ達に声をかける。それは彼の子供にかけるそれとよく似ている、とミゲルが気づいたのは4人がそんなオロールが差し出した地図を使って説明をし始めてからだった。その様子に、彼に任せて大丈夫だろうとミゲルは判断をする。 「で、俺は?」 もう一人、マシューがミゲルに指示を仰ぐように問いかけてきた。 「こいつを頼む。どうやらこの機体の開発に関わっているらしいからさ。連れて行って話を聞かせて貰おう」 その瞬間、地球軍の女性士官は反射的に逃げ出そうとする。だが、それを許すミゲル達ではない。あっさりとその体を拘束した。 「と言う状況だ。逃がすなよ」 「了解。お前は?」 「こいつと一緒に、あれのOSを確認する」 そう言いながら、ミゲルはキラの肩に手を置く。 「こいつは、その女にあれのコクピットの中に拉致されていたらしいんでな。手順なんかを見ているはずだ」 ミゲルがそう説明をしたときだ。 「貴方達と一緒にしないで! 私はその子を保護しただけよ!」 「で、その後、助けてくれたこいつらを拉致しようとしていたよな? 銃で脅して、無理矢理」 そんな彼女にミゲルは冷たい口調で言葉を返す。 「……ミゲル……」 「気にするな、キラ。一応条約があるからな。命までは取らない」 形はどうであれ、一応お前の命を救ってくれたのは事実のようだし……と何か含むような口調で口にしてしまったのは仕方がないことか。 それの意図をキラは的確に受け止めたのだろう。ふっと視線を伏せる。 「まぁ、お前も厄介事に巻き込まれたもんだ……どうやらそれがなくても『ヤマト博士』の息子である以上、連中にとってはカモネギだったんだろうがな」 その言葉にキラは体を硬直させ、マシューは納得したというような表情を作った。 「お前がそう言われるのを嫌がっているのは知っているがな。こいつらは、それでお前のお父さんを協力させようとしたんだろうぜ。こいつのOSを完璧なものにするために」 そして、このままであれば、ザフトが去った後で再びキラを拉致しようと動くはずだ、とミゲルは確信している。彼の父親がオーブの保護を受けている以上、本人の意思なしで地球軍がどうこうできるわけがないからだ。 「それは……わかっている……その人も、僕の名前を聞いたとき表情を変えたから……」 だから、父さんのことを知っているんだと……とキラは付け加える。 「そう言うあなた方がそうしないと言い切れるわけ?」 悔しさに満ちあふれた声で地球軍の女性士官が口を挟んできた。 「するわけないだろう? 俺たちはお前らと違う!」 あくまでも、キラを保護するのは地球軍に利用させないためだ、とミゲルは付け加える。 「第一世代でも、俺たちぐらいまで成長していれば自分自身の意思で両親と離れることだって可能だがな。こいつはまだ16だ。一応成人と認められるとは言え、ナチュラルであるご両親は手元に置いておきたい年齢だろうが。だから、不文律として存在しているのさ。本人が望まない限り、この年代以下の第一世代を戦争に巻き込まないってな」 だから、キラが望まない限り戦争に巻き込むことはしないし、させない……とミゲルは言い切る。同時に彼の瞳は『だから安心しろ』とキラに告げていた。 「……結局、あんた達地球軍は自分たちの尺度でしか世界を見てないってことじゃないかよ」 どうやらキラに別れを告げにきたらしいトールが口を挟んでくる。 「どっちが現実を知らないんだよ! だから、俺たちは地球軍なんて嫌いなんだ! ザフトが好き、とは言い切れないけどさ。少なくとも、キラもミゲルも好きだしな、俺は」 「あら、それなら私だって同じだわ」 「右に同じ」 「だよな」 他の3人も口々にこう言いながら、乱入してきた。 「だから、絶対戻って来いよ、キラ!」 「待っているわ」 そして、キラの体を抱きしめると口々にこう言い合う。 「なるほどな。お前が大切にしているのもわかる光景だよ」 オロールの言葉にマシューも大きく頷いている。 「だからさ。この世界を認められない馬鹿は早々にご退場願いたいってわけだ」 俺から大切なものを奪おうとしている連中はな、とミゲルは手足を拘束され地面に転がされている女性を冷たい視線で見つめた。 「本来なら、あれがあるべき姿だろう、コーディネイターとナチュラルの」 そして、全員とは言わなくても大多数の者が彼らと同じような態度を取っていれば、ここまで二つの種族は亀裂を深めなかったはずだ、とミゲルは思う。 「どうしても俺たちをどうこうしたいって言うなら、自分たちの世界だけでやれよ! オーブまで巻き込むんじゃない!」 この言葉に、彼女からの返答はなかった…… |