戻ってきたミゲルを見て、キラはあれっと言うような表情を作る。どうやらまだ戻ってこないと思っていたらしいのだ。
「……キラ……驚くなよ」
 ちょっと突発事項が起きたから……と言いながら、ミゲルは苦笑を浮かべてみせる。
「……アスランに何かあった、とか?」
 不安そうな口調でキラがこう問いかけてきた。このかんの中でキラが再会した幼なじみを心配するのは当然のことだろう。
「あいつらは殺してもしなねぇよ」
 だから心配するな、と言いながら、ミゲルはキラに微笑みかける。
「敵さんの艦にな……予想外の連中が乗っていただけだって」
 その表情のままミゲルは通路の方を振り向くと軽くて招いた。次の瞬間ドアから覗いた人影に、キラは思いきり目を丸くする。
「トール……ミリィ……何で……」
 二人ともヘリオポリスで安全な場所にいたはずなのに、とキラは呟く。
「……まさか、僕のせいで……」
 すっとキラの表情が青ざめた。そして、小さく震えながらこう付け加える。その様子は今にも崩れ落ちそうだ。
「違うわよ。キラの心配性」
「そうそう。俺らが乗った救命ポットがさ、いきなり射出されて……でもって、あいつらに救助されただけだって」
 ほっといてくれれば、直ぐにヘリオポリスから救援が来たのに、余計なお世話って奴だよなぁ、と付け加えながら、トールがキラの背中をばんばんと叩いている。
「……本当に?」
 だが、キラの方は直ぐに友人達の言葉を信用できないようだ。
「本当だって」
「何? キラは私達が嘘を付いているって思っているの?」
 左右からこう友人達に責められては、キラとしてもいつまでも疑っているわけにはいかないのだろう。
「だって……地球軍がそんなことするなんて……」
 思えなかった……と付け加えるあたり、キラの中で彼らに対する信用度は最低だと言っていい。もっとも、自分がキラ達に再会したときの状況を考えれば当然だとも言えるが。
「まぁ、中にはましな奴もいるって事さ」
 特に、前線で命のやりとりをしている奴の中には……とミゲルは告げる。でなければ、キラの中にある『ナチュラルに対する信頼』が揺らぎかねないと判断してのことだ。それではキラが変わってしまうだろう。友人達にとっても悪いに決まっている。
「そう、何だ」
 まだどこか不信を抱えているような表情で言葉を口にした。
「あの人のことかな?」
 何やら思い当たる節があったのだろうか。ミリアリアがトールに確認を求める。
「多分。おかげでそれなりに快適に過ごせたよ」
 トールも大きく頷いているのを見て、キラはどうやら二人が嘘を付いていないのだと判断をしたのだろう。
「じゃ……全部の地球軍に絶望しなくてもいいって事なのかな?」
 ぽつん、と呟く声がミゲルたちの耳に届いた。
「まぁ、そう言うことだな」
 俺がお前らのおかげで全てのナチュラルに絶望していないのと同じだって……とミゲルは付け加える。
「ミゲル」
 キラ達三人が、そんなミゲルの言葉にまた感心したように視線を向けてきた。それにミゲルはかすかに微苦笑を返す。
「と言うわけで、適当に座ってろ。一応、お前らの部屋をどうにかしてやらないといけないだろうし……ミリィの場合は、なぁ……」
 この艦には女性は乗っていないし……とミゲルは自分の頭をかく。
「まさか、男と一緒の部屋にするのはなぁ」
 ご両親にもまずいだろうと付け加えるミゲルに、
「……キラやトールなら、別段気にしませんけど」
 あっけからんとした口調でミリアリアが言い返してきた。
「だから……カレッジの連中だけならまだしも、ここじゃまずいんだって。お前らの関係を知っている連中だけじゃないし……キラもこの艦内では一種のアイドル状態だからな」
 いろいろと問題が起きそうなんだって……とミゲルはため息と共に告げる。
「相変わらずか、キラは」
 まぁ、その性格じゃ当然だろうな……とトールが付け加えれば、ミリアリアも同意を示すように頷いて見せた。
「何だよ、それ……」
 その言葉に、キラは頬をふくらませる。その表情は本当に小さな子供のようだ。
「だから、そう言う表情をするからいけないんだよ」
 キラのふくらんだ頬をトールが指でつつく。そうすれば、さらにキラの頬がふくらんでしまう。あるいは、それを楽しんでいるのかもしれない。
「トールったら。キラで遊ぶのはやめなさいよ」
 つつくのに飽きたのか、キラの頬をつまんでは引っ張っているトールにミリアリアが注意をする。もっとも、その声も笑いを含んでいるのだから意味はないのかもしれない。
「……ミゲル?」
 ミゲルはある意味見慣れた光景に、注意をする気も起きなかった。
 開け放したままのドアからそんなミゲルの耳に、自分を呼ぶ声が届く。
「お前ら、そのままここで遊んでいろよ」
 部屋から出るな、と一応注意を残してミゲルは通路へと出る。念のためにとドアにロックをかけた。
「何のようだ?」
 ほんの少しだけ固い声で問いかけの言葉を投げかける。
「別段、彼らにどうこうするつもりはありませんよ」
 にっこりと微笑みながら言葉を返してくるニコルの斜め後ろで、アスランがほんの少しだけ複雑な表情を浮かべているのは、親友の思いもかけなかった表情を見たからだろうか。
「ただ単に、必要なものをお聞きしようと思いまして……」
「……俺はキラの様子を……」
 もっともらしいセリフに、ミゲルは思わず苦笑を浮かべてしまう。
「はっきりと言えばいいだろうが。あいつらの様子が気になって仕方がないってさ」
 低い笑い声と共にミゲルがこう告げれば、彼らは視線を泳がせる。その表情からも図星だったとわかった。
「……あいつらがキラを傷つけるんじゃないかと……ちょっと不安になっただけだ……」
 開き直ったのか、アスランがこう口にする。
「仲が良かったとはいえ……キラのせいで拉致されたんだから」
「なら、今の言動で安心したろう? あいつらはそんなことを考えないって」
 そう言う奴らなら、とっくの昔にキラのことを話していたに決まっているだろうが、とミゲルが告げれば、二人は気まずそうに視線をそらす。
「どうしても不安だというのなら、あいつらにくっついているんだな。何か見えてくるかもしれんぞ」
 どちらもお互いの種族に対するこだわりを持っていないのだから……とミゲルは付け加える。それにしばらくためらった後、彼らは頷き返したのだった。