一体どれだけの時間、こうして一機の相手をしているのか。
 さすがのミゲルも時間認識ができなくなりつつある。
 もう何日も経ったようでありながら、ついさっき戦闘を開始したとも思えるのだ。
「……まだかよ……」
 一体どれのことを口にしているのか、ミゲル自身わからない。それでも、こうぼやきたくてたまらないのだ。
「ともかく……自分が沈められないようにしないと……」
 間違いなく、キラに泣かれるだろう。そうなれば、幼なじみのアスランだけではなく最近キラに心酔しているらしいニコルに何をされるかわかったものではない。それ以上に、二度も機体を失ったなどという汚名はいらないと思う。
 もっとも、相手が相手なだけに、あとどれだけ踏ん張れるのかと問いかけられても答えられないだろう。
 あのクルーゼが手放しで評価するだけのことはある、とミゲルは改めて認識させられている。
『しつこいね、お前さんも……さすがクルーゼの部下だ、っと言うところか』
 そんなミゲルの耳に、エンデュミオンの鷹の声が届く。口調は変わらないが、かすかに疲労の色が見え隠れしているような気がするのは気のせいだろうか。
「そう言う貴様こそ、いい加減諦めたらどうだ?」
 そうすれば、お互い楽になれるぞ……とミゲルは言い返す。同時に、心の中でアスラン達に『まだか』と呼びかけた。
 予定ではそろそろあちらを掌握しているはずなのだ。
 だが、まだその連絡はない。
 あるいは……とミゲルは最悪の状況を考える。
 目の前の相手だけではなく同レベルの誰かがいると言うことなのかもしれない……と。そして、その相手をするのにてまどっているのだろうか、とも思う。
「だが……ヴェサリウスからの連絡はないな……」
 その状況であれば、間違いなくこちらにも連絡が来るはず。あるいは、状況によってはクルーゼが出撃するのではないだろうか。
「単に、あちらが強情を張っているだけならいいんだが……」
 万が一の事態になれば、キラが悲しむな……とミゲルが呟いたときだった。
「ちっ!」
 衝撃と共にシールドが飛ばされる。
『ミゲル!』
 イザークの声が耳に届く。
「大丈夫だ!」
 答えを返しながら、ミゲルは左手にもビームサーベルを掴んだ。エネルギーの消費量は多いが、シールドがない以上、攻撃に徹した方がいいだろうと判断してのことだ。
「それよりも、あの動き回るガンパレルに注意しろ!」
 あれが予想もしないところから攻撃してくるのを避けるので精一杯だ、とミゲルは悔しげに口にする。同時に、あれを使えるであろうパイロットが目の前の相手以外にいないという事実に感謝してしまう。こんなのがごろごろいたら、いくらコーディネイターとはいえ苦戦を強いられるのは目に見えている。
 ともかく、あれをどうにかしないと……といいながら、ミゲルはビームサーベルを照準をロックするために静止したそれへと突き立てようとした。
「ちっ!」
 だが、寸前でのがしてしまう。
 しかし、あちらとしてもこの攻撃は予想外だったのか、ロックが外れたことだけは事実だ。
「と言うことは、有効だって事か」
 どうやらイザークも同じ判断をしたらしい。同様に本体からガンパレルへの攻撃へと切り替えたようだ。
『本当に、隊長に似て嫌な連中だな、てめぇらは』
 苦笑混じりのこの声がミゲルの耳に届く。
 それにどう言い返してやろうかと思ったときだった。
 周囲の空間をまばゆい光が彩る。それが信号弾のものだとわかったのは、今までの訓練の成果だろう。
『あららららら……まぁ、予想は付いていたがな』
 それでもがんばった方じゃない……と付け加える声が通信機から響く。
『ミゲル! そのMAの武装を解除してヴェサリウスへ』
 まぁ、こうなった以上、馬鹿はしないとは思うがな……と笑いを滲ませた声でクルーゼが告げてきた。
「了解」
『相変わらず、嫌な奴だな』
 ミゲルの言葉に被さるようにエンデュミオンの鷹がこう口にする。その声が心底嫌そうだ、というのは聞き間違いじゃないだろう。
「諦めるんだな。元はと言えば、お前らがあそこで余計なことをしてくれた結果だろうが」
 彼に言っても仕方がないと思いつつ、ミゲルは思わずこう叫ぶ。
「ったく……あそこはコーディネイターもナチュラルも関係なく過ごせる数少ない場所だったのに……こんな事があっちゃ、少数派のコーディネイターは間違いなく排斥されるぞ!」
 大人ならまだしも、十代以下の第一世代はますます行き場がなくなるじゃないか……とミゲルが口にしたときだった。
『それが……ジンを破壊したパイロットの正体か……』
 ぼそっと呟くように言われたセリフにミゲルは息を飲む。まさかこれだけでキラのことがばれるとは思わなかったのだ。もっとも、あの艦にいるメンバーの言動が根底にあっての推測であれば不可能ではないだろうが。だからといって、この場で出して欲しい話題ではない。
『そして、あのお子様達と仲がいい相手だった……と言うことはザフトの一員じゃなかったって事か』
 これは完全にこちらの判断ミスだな……と告げる声に被さるように、
『キラだったのか、あれは!』
 イザークの声が飛んできた。
『ミゲル!』
「ノーコメントだ、それに関しては」
 この調子であれば間違いなくばれるだろうが、今言うべき事ではないだろう。
「それよりも、さっさとこいつをヴェサリウスへ運ぶぞ。それに……そろそろ目を覚ましている可能性もある」
 誰が、とは言わなくてもイザークには十分伝わったらしい。
『……あいつに泣かれるのは不本意だからな』
 その言葉と共にデュエルをメビウス・ゼロへと近づけていく。ミゲルもまたストライクを移動させて行った。
「しかし……大騒ぎになるな、間違いなく」
 拉致されてきたメンバーも間違いなくその事実を口にするだろう。それを聞いたときのアスラン以下の反応が怖い、とミゲルは心の底から思ってしまった。同時に、どうやってキラを無事に本国に送り届けるか、と言う問題も浮上してくる。
「性格的に無理だ、と言うことはわかっているだろうけどなぁ」
 なんだかんだと側に置いておきたいと思っているメンバーも多いようだし……と思わずため息が漏れてしまう。
「その前に、あいつらのことが地球軍の他の連中にばれていないかどうかを確認する方が先か。ついでに、ヘリオポリスに返してやる手はずを整えてやらないと」
 なんだかんだと言って忙しくなることだけは間違いないらしい。
 それはかまわないが、余計な仕事まで押しつけられるのはごめんだ……と本気で思ってしまう。
「まずは、キラを何とかしないとな」
 これが一番難関だろう、とわかっているミゲルだった。