敵の艦から飛び出してきたMAにミゲルは見覚えがあった。
「……メビウス・ゼロ……と言うことは、相手は『エンデュミオンの鷹』か」
 ずいぶんとまた大物が、とミゲルは思う。だが、それだけ地球軍にとってこれらの機体が重要だったと言うことでもあろう。
「ナチュラルとは言え、俺たちにも決して劣らない相手だ……気を抜くなよ!」
 ミゲルは他の者たちに向かって叫ぶように言葉を告げた。
「なんせ、あれでジンを5機落とした相手だ!」
 どう見ても、自分たちが今乗っている機体はおろかジンにも性能的に劣るであろうあのMAで未だに落とされずに戦場にいる。それだけでも油断ならない相手だ、とミゲルは判断していた。
 それ以上に、自分たちの上官であるクルーゼがあのパイロットに妙なこだわりを持っていることを知っている。そして、『どうしてか』と問いかけたミゲルに、クルーゼは苦笑を浮かべながら『あの男は油断ならない相手だからな』と言い返してきた。それすらも、相手のすごさを推測するのに十分な要因だろうと。
『だが、ナチュラルなんだろう?』
 しかし、それを知らないオコサマ達に相手の実力を察しろと言うのは難しいだろう。実際、ディアッカはあきれたような声を返してきた。
「その考えが、死を招く可能性だってあるんだぞ! ナチュラルの中にだって俺たちに負けない才能を持っている存在がいるって事を認識しろ!」
 そう言いながら、ミゲルはビームサーベルを抜く。
「アスラン! お前とディアッカは艦の方へ行け! イザークはつきあえ」
 それぞれの機体の特性から考えれば、この組み合わせがベストだろう――もっとも、本人達の相性は問題が残っているだろうが――そう判断して、ミゲルは指示を出す。
『わかった』
 アスランが冷静な口調で言葉を返してくる。
『仕方がないな。言われたとおりにするか』
 ディアッカもそれに続く。
『あれを押さえることの方が先決だからな』
 見せ場は譲ってやるよ、と言いながら、二人は機体を敵艦へと向ける。そうはさせまいと言うかのようにMAが進路を変更した。
「させるかよ!」
 即座にミゲルは相手に向かってライフルをロックする。だが、それを察したのだろう。相手はガンパレルを使って応戦してくる。
「……ちょこまかと……」
 そう思うと同時に、あれを個別に操作する相手はやはりただ者ではないと認識を新たにした。自分でもあの機体であそこまでの動きをさせることができるかどうか。
「……隊長の言葉は嘘じゃなかった、って事か」
 一瞬でも隙を見せれば、間違いなくこちらがやられる。と言ってもこれ自体はPS装甲があるから、リニアガンの直撃を受けてもそれなりに持ちこたえられるかもしれない。だが、中にいるパイロットもそうだとは限らないのだ。
『ちっ! 本当にナチュラルなのかよ!』
 どうやらイザークもいつまでも相手を侮ってはいられない、と気づいたらしい。こんな叫びを口にしながら、デュエルのビームライフルを撃っている。だが、相手はそれを全て避けているのだ。
「イザーク! あまり乱射するな。バッテリーが上がるぞ!」
 はで好きなイザークらしい選択ではあるが、エネルギーの消費が大きすぎる。そう判断をして一応注意の声をかける。もっとも、それに耳を貸すかどうかはあくまでもイザーク次第なのだろうが。
『うるさい!』
 予想通りというかなんというか。イザークから返ってきたのはこんな言葉だった。
「ったく……余計なプライドばかり育ちやがって……」
 思わずこんなセリフが口をついて出る。
『おやおや……ひょっとすると思い切り若いのか』
 その時だった。不意に聞き慣れない声が通信機から飛び出してきた。
「誰だ!」
 反射的にこう叫びながらもそれがMAのパイロットだろうと言うことはわかった。これは元々地球軍が開発した機体だ。相手に通信が傍受されても仕方がないだろう。
『お前ら、クルーゼの部下だな?』
 そんなことを考えていると、さらにこう問いかけられる。
「だとしたら……なんだって言うんだ!」
 めまぐるしく相手の機体と自分のそれを入れ替えながら、ミゲルは言い返す。
『あっちに行った連中に教えてやれ。右舷の中央。そこにオコサマ達がいる、とな』
 一体どう言うつもりだ、とミゲルは思う。目の前の相手も地球軍だ。その言葉を信じろ、と言うのか……と。
『信用する、しないはともかく……あの行動を苦々しく思っているものもいるって事だよ』
 反対したが、居候のセリフに耳を貸してもらえなくてねぇ……とおちゃらけた口調で付け加えてくる。
 つまり、ヘリオポリスでの戦闘で指揮系統がめちゃくちゃになったか、あるいは……と言うところなのだろう。
「地球軍の言葉だが、貴様の経歴に敬意を表して、信用してやるよ!」
 ミゲルはこう言いながら、いったん相手との距離を取る。
『そりゃ、ありがとうよ』
 しかし、それを許してくれる相手ではない。だが、脇から滑り込んできたデュエルがその矛先を引き受けてくれた。
『ミゲル! そいつを信用するのか!』
 同時にイザークの怒鳴り声が耳に届く。
「名前に敬意を表してな。それに、嘘だとしても困らないだろう、別段」
 もちろん、それが強がりだと言うことはイザークに伝わっているだろう。だが、それをエンデュミオンの鷹に気づかせるわけにはいかない。
「ようはブリッジさえ抑えてしまえばいいんだし」
 それができない連中じゃないだろう……と言いながら、ミゲルはアスラン達へと通信を入れる。
『言われてみればそうか』
 口論をする余裕もないのか、イザークはあっさりと一言で切って捨てる。
「そう言うことだ。アスラン?」
 相手に回線が繋がったことを確認して、ミゲルは手早く今の状況を説明した。もっとも、返ってきた言葉はイザークとほぼ同じものだったが。
 だが、彼のほうがあっさりと状況を受け入れてくれる。あるいは、キラの両親という限定された存在とはいえ『ナチュラル』を知っているからかもしれない。
「と言うことで、任せたからな」
 こちらとしても、相手が相手なだけに悠長なことはしていられない。イザークにしても、最初のあれが響いているのかそろそろまずそうだし……とミゲルは状況を判断する。
「だからといって、隊長に出てくれと頼むのもなぁ」
 気が引ける……とミゲルは呟く。この程度の相手を自分たちだけで片づけられないと『無能』の烙印を押される可能性すら予想できるのだ。
「それに、何かあいつは殺しちゃまずいような気もするし……」
 と言うことは、推進部を破壊して捕縛……というパターンだろうか、とミゲルは心の中で付け加える。もっとも、それを許してくれる相手かというとはなはだ問題だが。
「イザーク! バッテリーは?」
 後は、相手のバッテリー切れを待つだけだろう。もっとも、こちらの方が先に切れる可能性は否定できない。
『まだ保つ!』
「無理はするな! 動けなくなれば、その時点であの世行きだぞ!」
 それだけの実力の持ち主だと言うことは身にしみているだろう、とミゲルが付け加えれば、イザークは無言で同意を示す。
「ともかく、気を引き締めとけ!」
 死になくなければな、と言いながら、ミゲルは自分もまたスロットルを握り直した。



出てくる予定はなかったんですけどねぇ。しっかりとで張ってきていますよ、この人……結局、うちの作品では出ずにすませられないのか……う〜ん