「例の機能とは?」 移動をしながら、ディアッカがニコルに問いかけている。 「あの機体――ブリッツにはミラージュコロイドシステムと言うものがあるんです。何でも、一定時間、全てのセンサーから機体を隠すことができるとか……もっとも、その弊害として、PS装甲が使えないのですが……」 それでも気づかれずに接近できるのは作戦の幅が広がるだろう、とニコルは付け加える。 「……って言うか……よく気づいたよな、お前……」 そんな特殊な機能……と感心したように言い返すディアッカからニコルがふっと視線をそらした。それは、何かやましいことでもあるのかとその場にいた全員に思わせるに十分な行動である。 「……それに気づいたのは……キラ、か?」 ふっとアスランが口を挟む。 「……はい……」 ほんの少しだが、怒りが籠もったその問いかけに、ニコルは素直に頷いた。 「どうしてもわからない箇所があって……キラさんに」 申し訳ないとは思ったのですが……とニコルは付け加える。それが珍しく本心から出ているセリフだ、と言うのがその場にいた全員にわかった。 「……あいつを戦争に関わらせるんじゃない……」 怒るべきなのか、それとも悲しむべきなのか。複雑な感情がにじみ出ている声でアスランがニコルに告げる。 「そのせいで誰かが死んだ、と知れば……見知らぬ相手でもあいつは悲しむぞ」 それでも釘だけは刺しておきたいと思ったのだろう。アスランは付け加えた。 「……すみません……」 ニコルは身を縮めると蚊の鳴くような声でこう告げる。 「そう思うなら、あいつの友達を無事に助け出すんだな。あるいは、キラもこの状況を予感していたのかもしれないし……」 このままでは志気が下がる、と判断してミゲルが口を開く。 「そもそも、あいつは興味があるプログラムを目の前にしては、な。自制できないから……」 こっちが気をつけてやらないと行けないんだよな、とミゲルは付け加える。 「今も、ですか」 本当にあいつは……とアスランがため息をつく。 「それしか自分は他人の役に立てない、と思っているからなぁ、あいつも」 あの思いこみは一体どこで刷り込まれたんだか……とミゲルが口にした瞬間、アスランが苦笑を浮かべた。と言うことは、彼らが一緒にいた時期にはもう……と言うことなのだろうか。 「……キラは第一世代だから……どうしても俺たち第二世代に比べると体力面で劣っている。それを他の連中がからかって……でも、プログラムだけは誰もかなわなかったんだ……」 だから、キラはそれだけが自分の価値だと思いこんだのかもしれない、とアスランは苦々しいという口調で呟く。そんなことはないのに、と。 「厄介だな。俺たちと同じ世代で第一世代って言うのはほとんどいないから、仕方がないのかもしれないが……」 それ以上に、そう言う差別をする同胞にあきれるしかないな……と口にしたのはディアッカだった。 「……今更言っても仕方があるまい。せめて、この艦内にいる間だけでも気をつけてやるしかない」 イザークのこの言葉に、ミゲルはかすかに目を見開く。彼の口からこんなセリフが出るとは思っていなかったのだ。 「何だ、お前ら……」 他の者も同じ思いだったらしい。一斉に視線を向けられて、イザークがむっとしたような表情を作る。 「お前、キラが気に入らなかったんじゃないのか?」 ここで彼に機嫌をこそ寝られては、これからの作戦に支障が出る。そう判断して、ミゲルは口を開く。 「……気に入らなかったのは事実だな。だが、あいつが戦争を嫌がっている理由は一貫している。そして、それは第一世代なら仕方がない、と妥協しただけだ。それ以上に、あいつらがしでかしていることの方が気に入らない、と言うのも事実だがな」 ナチュラルとは言え、中立国の民間人を楯に取るというのは……とイザークは付け加える。 「……それが珍しいんだって、お前の場合」 ナチュラルを心配しているだろう、とディアッカが笑う。 「ナチュラルを全滅させられないんだ。あちらがこちらに友好的だというなら、こちらも妥協するしかないだろうが」 そう言う奴らまで殺しては意味がないだろうとか、どうせなら、地球軍を糾弾する材料にしてしまえばいいとか、イザークはもっともらしい理由を口にしている。だが、それは今までの彼からは聞くことができなかったことでもある。 「まぁ、何にせよ、お前がその気になってくれたのはありがたいけどな」 ミゲルが笑いながら言葉を口にした。 「お前自身にとってはどうかわからないが……少なくとも、キラがよろこぶ」 ついでに、少しだけでも気持ちが楽になるだろうとミゲルは付け加える。キラの両親はあくまでも『ナチュラル』だから、と。 「そうだな。俺たちがナチュラルを排斥しない。有能な相手にはそれなりの尊敬の念すら抱けると言うことを知れば、キラもほっとするか」 俺やミゲルの言葉だけでは信用してもらえないんだよな、とアスランが悔しげにぼやく。自分たちはキラに近すぎるから、と言うのがその理由らしい。 「あいつはなぁ……」 本当、どうしてこう妙なところで頑固なんだか……とミゲルはぼやく。 「傲慢すぎるのも問題と言えば問題なんだがな」 本当、誰かさんと足して二で割りたいよ、と付け加えた瞬間、 「ミゲル!」 「ダメですよ、それじゃ……」 「……キラが可愛くなくなるだろう」 「言いたいことははっきりと言え!」 四人の口からそれぞれいかにも彼ららしいセリフが飛び出した。 「と言うところで、肩の余計な力は抜けたようだな」 それを平然と受け流すと、ミゲルは笑う。 「……それがねらいだった……というのか?」 イザークがどこか毒気が抜かれた、と言う口調で呟く。 「ただの偶然だと思いますけどね」 怪我の功名って言う奴ですか、とニコルが口にした。それはキラの前では魅せない、どこか刺を含んだものだ。 「だが、余計な力が抜けたのは事実だな。気負いがなくなった分、冷静に対処できるか」 それだけは感謝しておこう、とアスランがミゲルに笑みを向ける。 「本当、お前らは可愛いよな。どこぞの三人も見習って欲しいものだよ、本当」 ぼそっと付け加えたセリフで、ミゲルが墓穴を掘ったのは言うまでもないだろう。だが、それでも彼らの雰囲気が珍しくも友好的になったのは事実だった。 |