パソコンをいじりだしたキラは周囲のことに無頓着になってしまう。それでも一応声をかけてからミゲルは通路に出た。
 そこにはもうニコルとアスラン……だけではなくイザークとディアッカの姿もある。
「何だ?」
「必要かなと思いまして、声をかけました」
 おそらく、これからの戦闘に関わることで……と付け加えるニコルの、その洞察力にはミゲルも感心するしかない。
「確かに、お前らにもいて貰った方がありがたいのは事実だな」
 万が一の事態になれば、自分だけではどうしようもない。
 戦闘という状況になればなおさらだ。
「時間がない。手早く説明をさせて貰うぞ」
 こう前置きをすると同時に、ミゲルは先ほどブリッジで聞いた話を彼らに告げる。
「……地球軍の馬鹿共が……」
 話を聞き終わった瞬間、イザークがうなるように言葉を吐き出す。
「あいつの友人達がその艦に乗せられていると、ミゲルは思っているのか?」
 今にも飛び出しそうな彼を羽交い締めにしながらディアッカが問いかけてくる。
「でなければ、あいつらにあの女性士官とキラがこちらにいると知られるわけがないだろう?」
 MS奪取の際の戦闘で戦死した……と考える方が普通だろうとミゲルは付け加えた。もちろん、機体に関してはこちらに奪取されたとわかっているだろうが。
「ただ、あちらからは《ヤマト》の名は出ていないからな。もし、キラがこちらにいることがばれているなら、例えそれが嘘でもご両親の名を出すに決まっている」
 そうすれば、キラが無視できなくなることがわかっているからな、とミゲルは口にする。
「それですめばいいが……最悪の場合、あいつ、ここから飛び出すぞ」
 それだけの知識も実力も持っている……とアスランが吐き出す。
「ひょっとしたら、MSすら動かせるかもしれないな、キラは……」
 そんな気がするんだけど……とアスランが付け加えた。
 どうやら、自分が離れている間に何かそう思わせることがあったのだろうとミゲルは思う。同時に、動かせるかもじゃなく実際に動かしたんだ、と心の中で付け加えた。
「……それだけの実力を持っていると連中が知れば……」
「間違いなく、僕たちと戦うために利用されますね、キラさんは」
 そうすれば、キラの心がどうなるか。
 つき合いが浅いニコル達3人にも想像が付いてしまったらしい。まして、彼らよりももっとキラに近いところにいるミゲルとアスランではなおさらだろう。
「だが、いつまでも知らせないわけにもいくまい」
 連中がその友人達の命を保証するとは限らないんだしな、とイザークが口にする。
「あぁ、そうだ。だから、お前らに今、話をしているんだよ」
 最悪の場合、協力をして欲しい、とミゲルは告げた。キラのために、と。
「あいつの友人達はナチュラルだからな……お前らにとっては不本意かもしれないが……俺にとっても可愛い後輩だしな」
 不本意だろうが、とミゲルはさらに言葉を重ねた。
「……その方々は……キラさんが『コーディネイター』だとわかっていてかばっておられるのですよね?」
 以前話題に出した内容を思い出したのだろうか。ニコルがこう問いかけてくる。
「あぁ。ついでに言うと、俺のことも知っていて懐いてくれているが?」
 キラもそうだが、あいつらはコーディネイターとかナチュラルとかで人間を判断しない、とミゲルは付け加えた。これは主に他の三人に向けての言葉だ。
「そう言う連中を見捨てることは、個人的にはプラントのためにならないと思うが、どうだ? 俺だって、ナチュラルが全部いい奴だとは言わない。だが、こちらを理解しようとしてくれている奴らまで見捨てては、戦争が終わった後、困るというのも事実だろう?」
 言外に、自分にとって大切なナチュラルは、キラの両親とあいつらだけだ、とミゲルは言い切る。
「そうだね……キラが大切にしている連中なら、俺も会ってみたい、とは思う」
 友人になれるかどうかはわからないが……とアスランが呟く。
「だろう? そのためには、あの新造艦からあいつらを助け出す必要がある。それにはお前らの協力が必要なんでな」
 もっとも、本当に乗り込んでいるのかどうかまだわからないのだが……とミゲルが口にした瞬間だった。
 今までしまっていたはずのドアが開く。
 そこに立っているのは、もちろんキラで……
「ミゲル……あいつらって?」
 誰のこと、とキラが問いかけの言葉を唇に乗せる。
「まさか……サイやトール達? みんなに、何かあったの?」
 そのまま大きな瞳に不安を映し出しながらキラはミゲルに詰め寄ってきた。
「……今のところはそんな話は聞いていない……」
 別の話だって、とミゲルはとっさに微笑みを作る。
「こちらに協力をしてくれた民間人がね、あるいは……と言う話になっているだけだよ、キラ。それに関して、今情報を集めている最中だから」
 気にする必要はない、とアスランも彼をフォローするかのように付け加えた。
「……本当?」
 すがるような、と言うのがぴったりとくる表情でキラはさらに問いかけの言葉を口にする。その表情は、キーボードを叩いているときとはまったく別人のようだ。
「もし仮に、そいつらが一緒に掴まっていたとしても」
 ディアッカの腕を振り払ったイザークが不意にキラの顔を覗き込みながら口を開く。
「その時は俺たちが助けてやる。ナチュラルは気に入らないが、だからといって、見殺しにするようなマネはしたくないからな」
 だから安心しろ、と言うイザークにキラはきょとんとしたような表情を作った。だが、次の瞬間、口元に淡い微笑みを浮かべる。
「ありがとう……えっと、イザークさん」
「気にするな。民間人を守るのも俺たちの役目だ」
 きっぱりと言い切る彼に、他の4人は信じられないと言う表情を作っている。
「……まさかイザークが……」
「キラさん相手、だからでしょうか」
「かもな。あいつ、昔から小動物系に弱いんだよ」
 ぼそぼそと呟く3人の声を耳にしながら、ミゲルは苦笑を浮かべた。
「ひょっとして、また増えたのか。キラの保護者が」
 それはそれでいいのだろうが……本人はどう思うだろうとミゲルは苦笑を深める。
「ともかく、厄介事をさっさと片づけて……キラの不安を解消してやらないと、また倒れるな、あいつは……」
 そうさせないためにも、早々にあの新造艦をどうにかしたいものだ……とミゲルは心の中で付け加えた。