クルーゼの連絡が終わった……と思った次の瞬間――と言うと大げさだろうが――室内にアスランが飛び込んできた。そのまま、まっすぐにキラに歩み寄ってくる。 「……アスラン、久しぶり……」 そんな彼の様子に、キラは少し驚いたような表情を作りながら言葉を口にした。だが、それもアスランを止めることはできなかったらしい。 「よかった……あの時、あの女に無理矢理コクピットに連れ込まれたのを見てから、本当に心配していたんだ……」 アスランは言葉と共にキラを抱きしめる。 「アスランってば……」 みんな見ているよ……とキラがため息と共に言葉を口にした。 「本当……俺たちのことは意識の外かよ」 同時にミゲルがあきれたようにこう呟く。 「……申し訳ありません!」 ようやくここがクルーゼの前だと思い出したのだろうか。アスランは慌ててキラから離れると姿勢を正した。 「思わぬ再会でしたので、つい」 それは普段のアスランからすると信じられない反応だと言っていいだろう。 「かまわぬよ。状況が状況だったようだしな」 思わずクルーゼが苦笑を浮かべるほどに。 「ともかく、キラ君を部屋へ案内するように。必要なものに関しては、君の判断で当面は手配をしてかまわない」 ミゲルがいくまではゆっくりと休んでもらえ、とクルーゼはアスランに告げた。 「了解しました」 アスランはその言葉に敬礼を返す。そのまま視線をキラへと移すと、 「キラ」 行くよ、と言うように手を差し出す。その動作があまりにも自然で、おそらく彼らが一緒にいたことはいつもそうだったのだろうと思わせるものだった。 しかし、キラの方は直ぐにその手を取ろうとはしない。本当にいいのだろうかと言うようにミゲルへと視線を向けてきた。 「アスランなら大丈夫だろう? 先に行ってろ」 ひらひらと手を振りながらこう言えば、キラはようやく納得したという表情を作る。 「……キラ?」 そんなキラの行動が不満だったのだろうか。ほんの少しだけ刺を含ませた口調でアスランが彼の名を呼ぶ。 「だって……僕を連れてきたのはミゲルだし……」 一応、確認を貰っただけではないか……と反論をするキラに、アスランは小さくため息をつく。 「じゃ、もういいよね?」 今度はキラも素直にアスランに従う。二人の姿がそのままドアの向こうに消えたところで、残された二人は表情を変えた。 「地球軍に何か?」 ミゲルがキラの前で見せていたのとは違った堅い口調で問いかける。 「君の察しの良さにはいつも感嘆させられるな」 本気なのかからかっているのか、傍目からははっきりと判断できないクルーゼの言葉に、ミゲルは目を眇めた。 「隊長。申し訳ありませんが、今は隊長の道楽につきあえる心境ではないのですが」 そしてこう言い返す。 「いや、本気でほめているのだがな、私は」 返された言葉にミゲルは思わずキレたくなってしまう。だが、ここでキレては自分の負けだ、と必死に思いとどまる。 「それで? キラに関わる事でしょうか」 だから、早々にキラを遠ざけたのではないか、とミゲルは言外に付け加えた。 「どうやら、あちらはあの捕虜の女性士官と共にあの機体に乗り込んだ『少年』を探しているらしい。一応、ヘリオポリス内に潜入している者には彼の友人達とご両親の身柄の保護を命じてあるが……」 正体を隠している以上、どこまで可能かはわからない……とクルーゼは口にする。 「……連中の出方次第で、キラの衝撃の大きさが違う、と言うわけですか」 厄介な、とミゲルは呟く。同時に、地球軍の馬鹿さ加減にもあきれるしかない。 「とりあえずヤマトご夫妻に関しては、別方面から手を回してある。オーブの軍人が護衛についているはずだが、問題は彼の友人達だな。オロール達が一応彼らの容姿を伝えているとは言え、あの状況だ。探し出すのに時間がかかるだろう」 さて、連中が探し出すのが先か、それとも……とクルーゼは呟いた。 「……地球軍は、どう出ると思っておられるわけですか?」 自分が行けば早いのはわかっている。だが、それではキラに不安を感じさせるだけだ。最悪の場合、自力で何とかしようとする可能性すらある。 自分のことには無頓着なのに、身近な人のためなら危険すら平然と冒すのだ、あのオコサマは。 「おそらく、彼と捕虜を自軍に引き入れるための道具に使うだろうな。それに関しても、一応オーブ本国には打電してあるが……」 さて、どう動くかな、彼らは……とクルーゼは考え込むような素振りを見せる。 「……自国の民間人を楯に取られては、抗議を入れざるを得ないと思いますが」 「そして、地球軍はオーブに糾弾されるか。こちらにとっては有利な状況だが……彼にとってはそうではないのだろうな」 何事もないのが一番いいのだが、とクルーゼは付け加えた。 「そう思いますよ、俺も」 キラのためだけではなく自分のためにも。 あの一件で、コーディネイターに友好的な彼らが反コーディネイターになってしまうのは不本意だ。それでは、かすかな希望すら費えてしまうだろうと。 プラントがオーブとのパイプラインを保っているのは、あの国がどちらの人種も平等に扱っているからだ。もちろん、その中でも偏見もあれば反感を持つ者もいるのは事実。それでも、彼らとキラのように友情を築き上げている者たちもいるのだ。 それが、ナチュラルに対し完全な絶望を抱かせないのだろう。 自分の祖父母や両親がナチュラルである、と言うことも関係しているのだろうが。 「この一件は、彼には話さないように。何事もないかもしれないのだからな」 言外に退出していいとクルーゼは告げる。 「了解しました」 ミゲルは敬礼をすると、そのまま彼の前を辞した。 |