「……これ、使っちゃダメかな」 ふっとキラはこんなセリフを口にする。 「そうすれば、実戦データーも取れるよね?」 「そうして頂ければ、助かりますね。隊長に相談してみますか?」 「……そうしてくれる?」 もっとも、本人にしても、他の整備陣にしてもそれはあくまでも冗談のつもりだったのだ。目の前にはキラがかつて使っていたジンがある。クルーゼに許可を求めても、そちらで出撃をするようにと言われるはずだ、と思っていた。 しかし、だ。 相手はあのクルーゼだ。面白ければ許可を出す相手でもある……と言うことを彼らは完全に失念していたと言っていい。 「……すみません」 あっさりと許可が返ってきた瞬間、クルーゼに許可を求めた整備兵がキラに向かってこう頭を下げてくる。 「気にしなくていいよ。あの人のあの性格を忘れていた僕も悪い」 まぁ、何とかなるでしょう……と付け加えながら、キラは手早くパイロットスーツに着替えた。だが、それが微妙に大きいという事実に気づいて、キラは思わず眉をひそめてしまう。しかし、それはすぐに脳裏からかき消された。 次々と指示を出しながら、キラは奪取してきた機体――ストライクのコクピットへと戻る。 「どうせ、すぐにミゲル達も出撃するはずだし……フォローよろしくって伝えておいて」 万が一のことになっても、彼らがフォローしてくれれば対処できるだろう。キラはそう判断をして整備兵に伝言を頼む。 「わかっています。お気を付けて」 それに頷き返せば、彼は離れていく。 「さて……と」 ハッチを閉めながら、キラは小さく呟いた。 「何処まで、思い通りに動いてくれるかな、こいつは」 こう呟きながらも、キラはわくわくとした思いを抱いていたことも事実。ジンについては手足になるようにと思い切りカスタマイズをした。これがキラの愛機になるかどうかはわからないが、少なくともOSについては責任を持ちたいと思っている。 そんなことを考えながら、キラはゆっくりとストライクを移動させていく。 「敵は……新造艦とそれに……ゼロ、ね」 ブリッジから送られてきたデーターを確認して、口元に笑みを刻む。 「と言うことは、状況次第であちらに残ったMSも出てくる可能性があるな」 昨日が完全に掴めていないだけにかなり厄介だ……とキラは心の中で付け加えた。だからといって、あっさりとやられるわけにはいかないこともまた事実。第一、そう簡単にやられてやるつもりもなかった。 「やっと、アスランと再会できたのに……」 ゆっくりと二人だけで話もしていないのだ……とキラは思う。 お互いいろいろと変わってしまったから、あるいは昔のような関係になはれないかもしれない。それでも、と思うのだ。自分は今でもアスランが大好きなんだし、側にいられるだけも嬉しいから……と。 「意地でも、生きて帰ってきてやる」 口の中で小さくこう呟いた。 「キラ・ヤマト、出ます!」 そして、CICに向けてこう宣言をする。 『了解。武運を祈る』 即座に帰ってきた言葉を耳にしながら、キラはストライクを出撃させた。 「あれは……」 ブリッジに足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたモニターの映像に、アスランだけではなく他の三人も足を止めた。 「実戦データーが欲しい……というので許可を出した」 振り向くことなく、クルーゼがこう言葉をかけてくる。その口調に面白そうな色が含まれている、と思ったのはアスランだけではないだろう。 「ですが……」 あれは実戦に使えるのか、とディアッカが問いかける。 「キラがOSを書き換えたそうだから、大丈夫だろう。ミゲル達も出撃している。万が一の時には即座に対処できるはずだ」 もし、キラに対処が出来ないようであれば、あれは使い物にならないだろう……とクルーゼは付け加えた。 「そうなのですか?」 そこまで信頼をされているのか、とニコルが言外に問いかければ、 「シグーのOSはあの子の作品だからね」 何でもないことのようにクルーゼが言葉を返してくる。 「……そう言えば、ミゲルのジンも、あの子がOSをいじった、と言っていたな」 「他にも、あちらこちらからシステム改良の依頼が来ていたそうですよ。そのせいで潜入任務に志願をしたのではないか、と言う噂がまことしやかに流れていましたな」 その上、アデスまでこう付け加えてくれば、アスラン達には返す言葉もない。 「あの方向音痴が……」 「……ミゲルが言っていた事って、つまりはそう言うことなのかよ……」 自分たちの気持ちを素直に表したのはイザークとディアッカの二人だった。アスランだって、月時代のキラを知らなければそう言いたくもなっただろう。しかし、アスランはあの頃からキラは平然と地球軍だのなんだののマザーにハッキングをしかけていたことを知っている。それに比べれば、MSのOSを構築する方が簡単なのではないか、と。 そうは思うが、自分では不可能だと言ってもいい。 「……敵MA展開しました。メビウス・ゼロはまっすぐにストライクに向かっています」 彼らの耳に、オペレーターのこの声が届く。 「エンデュミオンの鷹?」 この報告に、周囲がざわめき出す。 いや、アスランもまた不安を感じ始めていたことは否定できない。 エンデュミオンの鷹、と言えば、あの明らかに性能が劣ったMAでジンを三機も落とした相手だ。そんな相手の前でキラの乗ったストライクがOSの不具合で動きを止めてしまえばどうなるのだろうか。 アスランの心に不安が湧き上がってくる。 ようやくようやく再会できたのに……何よりも大切だと思える相手を自分の目の前で失わなければならないのだろうか。 「……まだ、三年前の質問の答えを聞いていないんだぞ、俺は……」 その答えは自分が望むようなものではないかもしれない。あるいは、既にその質問すらキラの脳裏からかき消されているという可能性だって否定できないだろう。それでも、アスランは問いかけたいのだ。 もちろん、ミゲルとラスティのような関係になれなくてもかまわない。 ただ、側にいてくれれば、それだけでいいのだから。だから、それだけは許して欲しい、とアスランは思う。 「だから、無事に戻ってこい、キラ……」 小さく呟いた声が耳に届いたのだろうか。クルーゼが口元に微かに笑みをはいている。だが、その真意を確認する勇気はアスランにはなかった。 「……こう言うときにだけ当たるカンはいらないんだけどな」 どうやら、相手をロックするための動作の設定にミスがあったらしい。照準を合わせようとしても微妙にそれてしまうのだ。 しかも、今自分の目の前にいる相手は、地球軍の中では一番厄介なのでは……と思える存在だったりする。 「どう、しようね」 一番いいのは、一度帰還して設定をチェックし直すことだろう。だが、そんな余裕はない。それ以上に、今自分がここを離れない方がいいのだ、とカンが告げている。 「ミゲル達も、今は手を放せないか」 と言うことは、自力で何とかしないといけない、と言うことだろう。攻撃をかわしながら、OSの修正が出来るだろうか、とキラは心の中で呟く。 「やるしかないんだよな」 でなければ、自分が死ぬだけだ……とキラは心の中で付け加えた。もっとも、この機体にはPS装甲が装備されているから、ビームの直撃さえ受けなければ大丈夫だろう。 「それだけが救いかな」 言葉と共に、キラはまたキーボードをシートの下から引っ張り出した。そして、片手で機体の制御をしながら素早く該当の箇所を呼び出す。 「……これか……ザフトの奴じゃダメだったか……」 後の四機も、後でチェックをしないといけないな……と思いながらキラは手早くそれを書き換えた。 「さて……と、これでどうかな?」 一分もかからずに終えたその作業を確認するために、キラは即座に相手にビームライフルの照準を合わせる。 「大丈夫なようだね」 ならば、これでバックアップを取っておいて、後は戦闘に集中するか……とキラはうっすらと笑う。そして、そのまま相手のガンパレルへ向けて引き金を引いた。 「まずは一機!」 キラの言葉が終わらないうちに爆発の閃光がモニターを染める。 「後三機か」 もっとも、それよりも厄介なのはリニアガンだろう。あれでジンがやられたらしい……とクルーゼからも聞いているのだ。 「もっとも、そのくらいして当然なんだろうけど」 ナチュラルにだって、コーディネーターに負けないくらいの身体能力を持っている存在がいるのだから、とキラは心の中で呟く。 「ともかく、早々にお引き取り願わないとね」 こちらも本調子じゃないし……とキラは呟くと、残りのガンパレルを撃ち落とす事に専念をする。 何とか全てをたたき落としたときには、バッテリーの方も心許なくなっていた。 しかし、相手もこの状況では打つ手がないはずだ。 だから、これで……とキラは微かに安堵のため息をつく。 「……そう来るわけ?」 だが、同時にセンサーに巨大なエネルギー反応が引っかかる。しかし、それは戦艦の主砲クラスのそれと比べれば小さいとしか言いようがないものだ。 「あちらも、既に稼働していたって事か」 もっとも、ジンとは直接戦闘が出来ない程度のOSなのだろう。だから、MAを全面に押し出して、戦況を見ていたに決まっている。 ジンも、既にバッテリーが危ないはずだ。 となれば、残る方法は一つしかないだろう。 「ヴェサリウス!」 『友軍機に告ぐ。すぐに主砲の軸線上から退避しろ!』 キラの言葉に被さるように、CICの声が通信機から響く。 どうやら、クルーゼも同じ判断をしたらしい。 そう判断をして、キラは目の前のゼロのエンジンへと照準をロックする。そしてそのまま引き金を引けば、ねらいを外すことはなく、エンジンを吹き飛ばすことに成功をした。 その衝撃で遠ざかっていくそれを尻目に、キラもまたストライクをヴェサリウスへと帰還させるためにスロットルを動かす。 その脇を、ヴェサリウスから発射されたビームが通り過ぎていった。 と言うわけで、戦闘シーンです。ついでに、やはり出てきたか、この男……という人間も出てきましたね(^_^; 地球軍のMSですが、三人組が使っていたウチのどれか……と考えています。カラミティかなぁ……あの三機の中で一番、機能が少なそうな気がする……って、ひどいセリフだ(^_^; |