ようやく、プラント本国まであと一息、と言う距離まで辿り着いた。ここまで来れば、普通一安心、と言うはずだったのだが。
「何で、馬鹿が出てくるかな」
　と言うよりも、どうしてこんな連中がいるのを見逃していたんだ、とキラは毒づきたくなってしまう。
「そう、言うなって」
　苦笑混じりにミゲルの声が耳に届く。
「あいつらのレベル上げには丁度良い相手、と思えばいいだろう？」
　そういう問題か、と思わずにはいられない。だが、彼はあくまでも本気で言っているらしい。
「そういう考えているとやられるよ？」
　たとえどんなに劣った相手だったとしても、一瞬の油断が死を招く。その事実を彼はよく知っているはずなのに、とキラは眉を寄せる。
「ミゲルがそう考えているのが他のメンバーに移ったらどうするわけ？」
　オロール達ならともかく、イザークやディアッカにそれが移れば厄介としか言いようがないのではないか。キラはそう思う。
「わかってるって。だから、お前の前でしか言わないよ」
　そこまで馬鹿じゃない、と言うミゲルに、キラは苦笑を返す。
「ならいいけど……ちゃんとフォローしてやってね」
　自分一人では手が回らないから、とキラは付け加える。
「もちろんだって。お互い、がんばるしかないだろうしさ」
　あいつらを死なせたくないのはお互い同じだからな、とミゲルは笑い返してきた。そのまま、彼の手がキラの肩を叩く。
「そうだよね。ようやく休暇がもぎ取れそうなのにね」
　お互い、しなければならないことも多いんだし……と意味ありげな笑みをキラは浮かべる。
「そうそう。じっくりとコミュニケーションを取らないといけない相手もいるって」
　今まではかなり遠慮していたし……と付け加える彼に悪気はないのだろう。いや、それが普通なのか。
　もっとも、キラとしては少しうらやましいかもしれない。
　カガリ達のことがあるとは言え、アスランももう少し意思表示をしてくれれば……と思うのだ。
「ごちそうさま」
　それでも、この場で彼の決意を挫いても仕方がない。
　逆に、それを上手に使って彼のやる気を喚起する方が建設的ではないか。キラはそんな風に思う。
「なんの。お前らののろけを聞かせてもらえるのを楽しみにしておくからな」
　だから、お互い様だって、と言うミゲルに、キラはかなわない、と言う表情を作った。
「これに関してだけは俺の方が先輩だからさ」
　お前の考えていることなんてお見通しだって、と言う言葉と共に、ミゲルはキラの鼻の頭をつつく。
「はいはい。どうせ、僕は初心者だよ」
　誰も教えてくれないから……とキラは愚痴を口にする。
「それに関しては、戻ってきたらあれこれ教えてやるよ」
　楽しみにしていな、とミゲルは話を締めくくった。それを合図に二人は動き出す。
　そんな彼らの視線の前で、一足先に移動をしていたアスラン達が、自分の機体に乗り込んでいた。

「……これが、戦争？」
　目の前で広がる光景に、カガリは思わずこう呟いてしまった。
「いや。これはただの小競り合いだよ」
　それをしっかりと聞きつけたのだろう。クルーゼがこう言い返してくる。
「攻撃してきているのは、地球軍ではないのですね？」
　その彼女の傍らに佇みながら、ラクスが問いかけた。
「えぇ。おそらくは海賊と呼ばれている連中ではないかと思われます」
　こう言い返してきたのはアデスだ。
「ここは既にザフトの支配宙域ですから、地球軍が迷い込んでくることはあり得ません」
　さらに、ブリッジクルーの一人がこう付け加える。
「もっとも、たとえ地球軍が大挙して押し寄せてきても、彼らがいる限り我々が負けることはありません」
　きっぱりと言い切られた言葉には、彼らに対する信頼感が満ちあふれていた。彼ら――キラがいれば大丈夫。そう思っているのだ、と言うことがカガリにもしっかりと伝わってきている。
　だが、それが喜ばしいか、と言われるの悩んでしまうのも間違いなくカガリの本心だ。
　本来であれば、こんな場所にいるべき存在ではないはずなのに……と思う。
　昔はあれほど、誰かを傷つけることを嫌っていたのに、と考えてしまえば、自然と眉が寄ってしまった。
「カガリ。そのような表情をするものではない」
　そんな彼女の耳に、クルーゼのこのセリフが届く。
「彼らはお前達を守るために戦っているのだ。守られる側はそれを見守る義務がある。ラクス嬢を見習いたまえ」
　今のカガリの態度では、守るために戦ってくれている者に申し訳がないだろう、と彼は付け加えた。
「ですが……」
「ここはオーブではない。そして、これが我々の目の前にある現実なのだ」
　それから目を離すことは、国政を担うものとしては許されない。
　この言葉はもっともなものだろう。
　しかし、とも思うのだ。
　肉親が目の前で戦っているのに、落ち着いていられるか。カガリは心の中でそう呟く。
「大丈夫ですわ、カガリ様」
　ラクスの細い指がカガリの肩に置かれる。
「キラ様は、とてもお強いそうですもの。だから、大丈夫ですわ」
　そう信じる心が彼らにとっても楯になるのだ、と彼女は歌うように付け加えた。
「ラクスは……強いな」
　カガリは呟くようにこう口にする。
「いいえ。私も本当は怖いですわ。ですが、それをみなさまに伝えるわけにはいきませんでしょう？　みなさま、私たちのために戦ってくださっているのですから」
　だから、自分は平和を願い歌うのだ、と彼女は付け加えた。
　それが彼らを安心させることになるのであれば、と微笑む彼女は、カガリの目から見ても美しいと思う。それも、外面ではなく内面が。
「そう思えるから、ラクスは強いって思えるんだ」
　それとも、それがプラントとオーブの人間の、戦争に対する考え方の差なのだろうか。
　あるいは自分が何も知らないだけなのかもしれない。
　目の前の平和だけに固執して、それ以外に目を向けていなかっただけなのかも。
　だから、キラにも嫌われかけたのかもしれない。
「……一番成長していなかったのは……私か……」
　自嘲の笑みを浮かべるカガリを、クルーゼとラクスが柔らかな瞳で見つめていた。



前回からの続きで、こういう流れに……
こういうシーンを追加するから、長くなるんですよね(^_^;　わかっていても入れたくなるのはどうしてでしょうか（苦笑）