無事に帰還して、誰もがほっと安堵のため息をついている。その中で、アスランはキラの姿を探してしまった。 もっとも、その姿は捜すこともなくすぐに見つかったが。 彼の周囲だけ空気が違うのだ。 それは自分だけが感じていることなのかもしれない。そう思いながらもアスランは彼の側へと移動をする。 気配を察したのだろうか。キラの瞳が彼の方へと向けられた。 「ご苦労様、アスラン」 そして、柔らかな笑みを唇に浮かべてくれる。 「それはこっちのセリフだよ」 結局は、キラとミゲルのフォローがなければ危なかったのだ。まさか、あの連中が仲間を巻き込んでまで自分たちを屠ろうとするとは思ってもいなかった、と言うのが本音である。それを二人が気づいてくれなければ、間違いなく、自分たちはここにいなかったかもしれない。 「どうしても、まだまだ、目の前のことだけで精一杯だ」 言葉と共に微妙に苦い笑みをアスランは口元に刻んだ。 「でも、それも結局は慣れだからね」 慣れちゃいけないんだろうけど、とキラもまた笑みに苦いものを含める。 「それも……仕方がないことなんだろうな」 慣れなければ命を落とす。だが、慣れてしまえば人としてどこか狂ってしまったような気がしてしまうのだ。 「少なくとも、俺がキラをフォローできるようになりたいし……」 今は守られてばかりだから、と口にすればキラは嬉しいのと困ったのが半々という視線を向けてくる。 「でも、それは……」 「いいんだよ。俺にとって一番大切なのはキラ。それとほぼ同等なのはプラント本国だけど……でも、重さで言ったら、キラの方かな?」 キラの言葉を指先で封じて、アスランはこう囁く。 「アスラン」 そのセリフはいくら何でも不謹慎だろうと、キラは瞳で告げてくる。その理由ももちろんわかっていた。だが、それが本音なのだから仕方がない、と思う。 「わかっているよ。だから、こうしてキラだけに聞こえるように言っているんだろう?」 自分の立場はわきまえている、と最後に付け加えれば、キラはようやく安堵のため息を漏らす。 「ならいいけど……そういうことは、イザークには聞かれないようにしてね」 絶対に、と付け加えるキラの言葉に妙な力強さを感じるのはどうしてだろうか。 「わかっているよ」 と言っても、アスランにしてもそうなった場合に煩わしさは理解できている。だから、それに関しては気を付けようとも思うのだ。 「それよりも、他にまだ何かあるのか? ないなら、シャワーを浴びに行った方が良いと思うぞ」 カガリ達がいつ乱入してくるか、わからない……と告げれば、 「それこそ、隊長達が止めてくれると思うんだけどね」 期待するしかないけど、とキラは言い返してくる。だが、アスランの言葉ももっともだ、と判断したのだろう。行こうか、と言葉を口にした。 そのまま、二人でパイロット控え室に滑り込む。 「ともかく、今回は無事でよかったよな……何か失敗していれば、カガリに怒鳴られただろうし」 最悪の場合、実力行使でキラから引き離されたかもしれない……とアスランは口にする。 「大丈夫だと思うけどね。僕がアスランから離れたくないって思っているんだから」 さらりとした口調でキラがこう言い返してくれる。それがどれだけ自分を喜ばせてくれているのか、本人は理解しているのだろうかとアスランは思う。 あるいは、本当に無意識なのかもしれない。 その可能性の方が強いよな、と思いながら、アスランは自分のロッカーに辿り着く。キラもまた同じように自分のロッカーを開けた。 手早くパイロットスーツを脱ぐと、アンダー姿で奧に設置されているシャワーブースへと向かう。 「それにしても……キラって、そんなに細いのにどうして体力が持つんだろうな。こつでもあるのか?」 悪い意味ではなく、と付け加えたのは、キラがその事実を気にしていると知っているからだ。 「どうしてって……見た目ほど体力がないわけじゃないって、知っているだろう?」 「知っているけどね、俺は。でも、ニコルが知りたがっていたからさ」 だから、教えてやって欲しい……とアスランは声をかけながら、シャワーブースのロックを外す。 次の瞬間、そのままアスランの動きが止まってしまった。 「どうしたの、アスラン?」 そんな彼の仕草に、キラは不思議そうに問いかけてくる。同時にそのまま、彼の肩越しにブース内を覗き込む。 さすがに、直接つなげてしまっていては、艦内に不要な水が漂うことになる。そんなことになれば、万が一の事態もあり得るだろう。 それを考慮してか。 同時に、直接裸を見られることにためらいを持つ者――と言っても、戦場で暮らしていればそのうち気にならなくなるが――がいるからか。 パイロット控え室とブースの間には小さなスペースがある。そこをアスラン達パイロットは脱衣所として使っていた。 そこにはもう、二人分の衣類が置かれている。 それが誰のものなのかはすぐに見当が付いた。 と言うことは、シルエットとして内扉越し見えている相手もそうだ、と言うことなのだろう。 「……確かに、あの二人もそういう関係だけどな……」 ようやく我に返ったらしいアスランが、ぼそりっと呟く。 「さすがに、あれはまずいよね」 キラもまた、ため息混じりに言葉をつづった。 「誰が来るか、わからないっていうのに……」 本当にどうしようか、と問いかけられても困る、とアスランは心の中で言い返してしまった。 目の前の光景を何とかしたいと思うのは事実。 だが、馬に蹴られるようなことはしたくない。 それ以上に、彼らに迷惑をかけまくっていることもまた事実なのだ。 「ようは、自発的にやめてもらえればいいんだけど……」 というか、現実を思い出してくれればいいのだろうが、とキラは考え込む。 「……いっそ、照明を一端落としちゃおうか」 キラがこう呟くが、果たしてそれは有効なのだろうかと思う。逆にあの二人を調子つかせるだけのような気がするのは、アスランの考えすぎだろうか。 「警報でも鳴らせばいいんだろうが」 さすがに、それは難しいよな、とアスランは呟く。 「でもないよ? と言っても裏技だけどね」 ここで寝込む奴らがいるから、ついつい……とキラは言いながら再び控え室の方へと移動していく。そして、そのまま端末を操作している。 次の瞬間、控え室内に警報が響き渡ったのだった。 と言うわけで、ミゲルとラスティの馬鹿シーン……と言うことで(^_^; 次回も続きそうですね、このシーン……まぁ、紙一重だしなぁ、こいつらも |