「……キラに嫌われたくないからな……妥協してやる」 アスランの顔を見た瞬間、カガリがこう言った。 「そうか」 はっきり言って、自分でも間抜けなセリフだとは思う。だが、これ以外に返す言葉がない、というのもまた事実だった。 「どうして、お前だけ……とは思うが、キラの自由だからな、確かに」 そして、お前が死ねばキラが自分を恨む。それだけは避けたいのだ、とカガリは付け加える。 「……死ぬつもりは全くないけどな」 まだまだ、キラと一緒にいたいのだから、とアスランは言い返した。 「当たり前だろう! 死んだら、お前、真っ当に弔ってもらえると思うなよ?」 弔うどころか、祟ってやる……と言う彼女の言葉には、苦笑しか返せない。 「まぁ、キラは泣いてくれるだろうが……それは不本意だからな」 だから、絶対に死なない、とアスランは言い切る。 「でなきゃ、今すぐ、キラを連れ帰る!」 フラガが戻ってきたのであれば、彼を守ることもできるはずだ、とカガリが黄金の瞳で睨み付けてきた。 その気になれば、確かに可能かもしれない。 しかし、それをキラが認めるかというと別問題だろう。 「キラは私の弟で、アスハにはなくてはならない存在だ! この戦争が終わったら、当然、呼び戻すつもりだったしな。それが早くなったところではかまわないだろう?」 そして、彼女にその事実を伝えるつもりはなかった。 伝えても、彼女が認めてくれるわけないと判断したからである。 「なら、さっさとオーブからブルーコスモスを追い出すんだな」 その代わりというようにこう言った。 「でなければ、安心してキラを帰せないだろう?」 ただでさえ《アスハ》の一族と言うことで命を狙われる可能性があるのに、とアスランは付け加える。 思い当たる点がるのだろうか。 カガリは悔しそうに唇を咬んだ。 だが、それも一瞬のこと。すぐに持ち前の気の強さが復活してきたらしい。 「もちろんだとも! 帰ったらすぐにでも動くさ」 そうしたら、キラを返して貰う! とカガリは怒鳴るように口にした。それにアスランが何と言い返してやろうかと考える。キラのことでは絶対引き下がるつもりはないのだから。 そのまま、舌戦がスタートをするか、と思ったときだ。 「それは困るな」 冷静な声が二人の耳に届く。 「隊長!」 「ラウ兄様」 視線を向ければ、相変わらず表情がわからない仮面で素顔を隠した彼が、口元に優しい笑みを浮かべながら立っている。 「今、あの子に帰られては、任務に支障が出る」 それでは、自分が死ぬかもしれないな……と自分が信じてもいないセリフをさらに口にした。 「ラウ兄様……」 カガリが困ったように彼の名を口にする。 「まぁ、後半は冗談だが、キラの存在が我々にとって必要だ、というのは事実だからな。連れて帰るんじゃない」 私とアスランが寂しくなるしな……とさらに彼は付け加える。 「……兄様……」 「と言う話は置いておいて……まずは、任務に関わる話をさせて貰ってかまわないかな?」 アスランを相手に……と告げられて、本人は姿勢を正し、カガリは視線をそらす。 「隊長、何か?」 この問いかけに、クルーゼが小さく微笑む。 「キラ一人では荷が重いらしいのでな。あいつのおもりを付き合ってやってくれ。あの機体のOSを解析したいらしい」 それを邪魔しているのだそうだ、と、苦笑混じりに告げられて、アスランはその状況が理解できてしまった。 「あの人は……」 自分たちと同レベルでものを見てくれるのは嬉しいが、仕事を邪魔されるのは困る。特に、キラはただでさえ忙しいのだから、とアスランはため息をついてしまう。 「まぁ、いつまで経っても《ガキ》と言うことだな、あれは」 あれで自分たちの中で最年長なのだから、とクルーゼもまた苦笑を深める。 「キラで遊びたいのはわかるが、TPOを考えて貰わないとな」 そう言うことだから、アスランに任せる……と言う彼の言葉の意味をどう受け止めればいいのか。 だが、キラの負担を軽くすると言うことに関しては異論はない。 「わかりました。ムウさんにキラの邪魔をさせなければいいわけですね?」 確認のためにこう問いかければ、クルーゼはしっかりと頷いてみせる。 「がんばりたまえ。以前以上に厄介になっているぞ」 これは激励の言葉なのか。 それとも、単なる嫌がらせなのか。 表情がわからない以上、どちらが彼の本心なのか、アスランにはわからない。どうやら、カガリも同様のようだ。 あるいは、キラならばわかるのだろうか。 こんな事を考えながら、アスランは二人の前を辞そうとする。 「それとアスラン」 だが、そんな彼をクルーゼが止めた。 「まだ何かあるのでしょうか」 どうせなら、一度に言ってくれよ……とアスランは心の中で呟く。もちろん、相手に読まれることは覚悟の上で、だ。 「ラクス嬢が夕食を一緒に、と言うことだ。その時間になったら、キラをあれから引き離して私の私室に連れてくるように」 無理にでもな、と言うクルーゼのその言葉の裏に、キラの体調を心配する感情が見え隠れしている。どうやら、彼もまたキラの体調を気にかけているらしい。 「わかりました」 カガリやラクスの存在がなければ、キラももっと気楽に過ごせるだろうに。 心の中でこう付け加えながらも、アスランは今度こそ二人の前からデッキへと向かう。 ドアが閉まる瞬間、カガリが何かをクルーゼへと問いかけている声がアスランの耳にも届いた。 カガリの言動で、オーブとプラントの人間の意識のずれ、と言うのを表現したかったのですが……成功しているかどうか。でないと、ただの嫌な性格の女の子になってしまいますからねぇカガリ(^_^; ちなみに、ラウ兄さん、頑張れ(笑) |